第17話 湯煙の中で
「ふう、いい湯だ。静かでいいもんだな」
ルークは王族や国賓の泊まる露天風呂つきの部屋に寝泊りしていた。
岩から染み出たお湯の流れる音だけが辺りに響いてる。
ルークは静寂なひと時を、ゆっくりと浸かって満喫していた。底の岩が見えるくらい澄んだ湯船に身体を沈め、満天に輝く月を眺める。
視線を下げると、月明かりに照らされ朧げに浮かぶ木々が、幻想的な雰囲気をもって迫ってくる。
ルークは湯船に浸かって、しばらくボーっとしていた。
「えっ……」
磨りガラスのドアの向こう、脱衣場に人の気配がした。
ルークは少し身構えながら、ガラスの向こうを凝視した。
「ここは、王室の影に守られた絶対に安全な場所だから……誰だ……」
疑念に駆られながらも、様子を伺っていた。
暗めの浴室から明るい脱衣所は曇りガラスとはいえ、陰影が濃く浮かんで見えた。柔らかな丸みを帯びたシルエットが曇りガラス越しに見えた。
ガラリと引き戸を引く音が浴室に響き渡った。
「お邪魔するわね」
「えっ……」
ルークが驚いた。
エリザベスが恥じらいながら、湯殿に恐る恐るといった感じで足を踏み入れてきた。
彼女は大きなタオルで胸を隠し、その末端は太腿の上部まで覆っていた。
肌を覆っているタオルに隠れきれない胸の輪郭やまろみをおびた太腿が露になっていた。
礼儀を通すつもりか、失礼と一声掛けると、桶を手に取り湯を掬い上げ身体に掛け湯をしていく。
片膝をついて肩から湯を流していく姿は、しなやかで流麗だ。
「お待たせ」
エリザベスはタオルで隠しているが、湯を吸った布地は透けながら体に張りついている。ポッチリと飛び出したタオルの先端を朧げに桜色に染め、下腹部に張りついた布地からはうっすらと翳りが映し出されていた。
エリザベスは、湯の中に入ってきた。
彼女の起こした波紋が幾重にも重なり広がっていく。
「ここいいかしら」
「どうぞ」
彼女は、ルークの隣に腰を落ち着けた。
湯煙たちこめる中で、エリザベスの裸身が水面の下でゆらゆらと揺れて見える。呼吸に合わせてまろやかな上乳が湯の表面に見え隠れしていた。
「きれいな月ね」
「そうだね」
髪を結い上げ白いうなじを惜しげもなく晒し、恥じらいと湯の効果で桜色に染まった彼女は、艶めかしい。
「このまま、ずーといたいわね」
「そうだね、このまま君と一緒にいれたらいいね」
「まあ……」
エリザベスは、少し照れて紅くなった。
「ところで、ルーク、もう身体洗った」
「いや、掛け湯しただけ」
「じゃあ背中洗ってあげるね」
エリザベスは少し恥ずかしそうに、顔を赤く染めながらも告げた。
「おう……」
エリザベスは手にボディーソープを手に取ると、手に持ったタオルにボディーソープをつけていった。
「あぅ、冷たっ……」
とっさに手を引いたため、とろみがある透明な液体がエリザベスの身体に垂れていく。こぼれ落ちた液体がタオルからまろび出ている胸元を滑るように流れていく。タオルで軽くぬぐい取ると、薄く延びたソープが、玉肌の上を艶やかにぬめらせていく。
「は、恥ずかしいから……早く後ろを向いて」
エリザベスはタイルの上にひざまずいて、ルークの背中側に回ると、タオルを押しつけてきた。
「では、いくね」
「うん、よろしく」
エリザベスの腕にぎゅうっと力がこもった。
「ルークの身体……背中大きいね……」
そう言いながら、エリザベスはまろやかな連なりを揺らめかしながらルークの背中にタオルを滑らせていく。
ルークの背中に心地よい温もりが感じられる。
「気持ちいいよ」
顔を合わせないことで少し落ち着いてきたのか、手の動きがしっかりして背中全体を洗っていく。
エリザベスは、するすると手を下降させていく。肌を這っていく手はやがてルークの前の部分で止まった。
「うっ……」
ルークの腰がびくっと震えた。
「凄い……」
「ところで、なにかあった」
「えっ、なんで……」
「君が唐突にこんなことをし始めるとは思えなくて。訓練のご褒美としてはデラックスすぎる」
ルークは首を回してエリザベスのほうを向き彼女を見つめた。
「実は、隣の国が軍を動かそうとしているわ」
「どれくらいの兵」
「三万よ」
「こっちは五千。城攻めは三倍の兵力が必要とはいえ、六倍の差があるとな……」
「今回はばかりは、かなり厳しいわ」
「まあ、何とか考えよう。相手は重装歩兵を擁する集団密集陣形が得意だったよな」
「そうよ」
「まあ、4ヶ月でかなりさまになってきたから、メニューを変えるか。あと、既存の部隊の騎馬を得意とする者たちも集めてくれ」
「わかったわ」
「だけど、それでも君の行動が少し読めない」
「えっと、あのね、あまり考えたくなかったんだけど、もし負けたら私はどうなると思う」
「公開処刑か、占領政策を円滑に進めるために戦勝国の後宮に入れられるか。有力家臣に下げ渡されるかか」
「そっ、それでね、どうせ奪われるなら、初めてを好きな人にもらってもらえたらな、とか……」
彼女は顔を真っ赤にして、小さな声で消え入りそうになりながら呟いた。
「わかった。だけど勝つための前祝として頂くよ」
ルークは彼女を抱き寄せると、唇を合わせていく。
月が湯気が立つ湯面に映り、見守るようにユラユラ揺れている。
「ん、ちゅぶ……」
お互いの唾液を舌でからめあう、濃厚な水音が浴室に響いていた。
ルークの舌はエリザベスの口中に深く差し込まれ、舌で歯の裏側までなぞっていく。
エリザベスの中に、熱い唾液がじっとりと流れ込んでくる。抱きしめられると、うっとりとして体をあずけ、口づけを受け入れていた。
やがて唾液の糸を引いてエリザベスが唇を離した。至近距離からルークの顔をのぞき込む目は、羞恥と情欲に濡れている。
「ねえ、先に出ているね」
意を決した表情でエリザベスは言った。
「わかった」
ルークが答えた。
ルークが湯船に浸かりしばらく待つと、湯船を出た。