第15話 温泉郷
「姫さま、畑の収穫状況のデーターが揃いました。ご覧ください」
「ありがとう。今度は税収の予想データーを内務局と相談して作ってくれる」
「はい、かしこまりました」
青年は一礼すると退出していった。
「おー、ヤンもだいぶ板についてきたな」
「とりあえずは、書記官だけどもう少し経ったら、要職に就けるつもりよ」
「寺からスカウトしてよかったな」
ルークが会話していると
「あれが、スカウトとは……」
エリックがぶつぶつ言っている。
「あっ、そうそう、明日から温泉に行くからね」
エリザベスが思い出したように話しかけた。
「へっ、聞いてないよ」
「そりゃそうよ、言ってないもの」
「おい、いくらなんでも唐突でしょ」
「まあ、いいじゃないの。今回はフェリスも連れて行くわよ」
「オーやっと着いたな。結構いい場所じゃないか」
山々に抱かれた青い渓流は、ブナ、カエデ、ヤマモミジなどの多様な木々に覆われていた。
常緑の松の間に赤や黄に彩られた木々の色が溶け込み、渓流を両側から飾り立てている。
深みのある秋色のグラデーションが目に優しく、山の切り立った白い花崗岩とのコントラストがより趣を深くしていた。
「そりゃそうよ、王家の秘湯の地ですもの」
「ここが、王家の幻の温泉郷と言われるところか。きれいだ」
エリックが感心している。
「それじゃあ、宿に行くか」
「あっ、ちょっと待って、先にあなた達にやってほしいことがあるの」
「なに」
「この間、ルークに特務隊の訓練メニュー作ってもらったでしょ」
「ああ、俺の師匠でもあるジジイに猛特訓受けたときのを元にしたやつか」
「そうそう、それを元にここに訓練施設を造ったの」
「ここに? なんで?」
「そりゃ、特務隊の存在を他国に知られたくないからよ」
「なるほど、それで、なんで僕たちをここに連れてきたのかな」
「ルーク、僕は非常にいやな予感がする」
エリックが言った。
「いやあ、奇遇だな俺も同感だ」
「二百名の選抜された者たちにそれぞれ一ヶ月くらいの間に、個々に秘密裏に集まってもらったから。それでね、フェリスが隊長よ。教官達よろしくね」
「達って、僕も」
「そう、エリックあなたもよ。魔法剣士隊を作ろうと思っているの、魔法の特訓はよろしくね。三ヶ月でそれなりの部隊にしてね。ちょっとキナ臭いのよ。ついでにエリック一緒に体力つけたら」
エリックに訓練メニューをエリザベスが渡した。
「へっ、五時起床、起きたら腕立て二百回、腹筋二百回、屈伸百回、懸垂三十回さらに長距離をジョギングで往復」
「食事前にはいい運動だろ」
ルークがしれっと述べる。
「そして朝食、食後は戦術やサバイバル術、敵地からの脱出から商学などの座学、座学が終わると鎧装備で川での水泳や潜水訓練、または障害物走、または柔らかい砂や硬い石混じりの砂の上でのランニングを日替わりでどれか行う。えー、無理無理、死んじゃう」
「まだあるぞ、昼食後に腕立て二百回、腹筋二百回、屈伸百回、懸垂三十回さらに長距離をジョギングで往復、その後槍術、剣術、無手の戦闘訓練、最後に魔術の訓練が終わると夕食だ」
ルークが追加で説明した。
「さらに一週間ごとに、夜間訓練と遠距離の山間踏破の行軍訓練が入るとは。これを書いた奴は人じゃねえ悪魔だ」
エリックが喚いていた。
「だけど、大変だけじゃないわよ。ここの料理は美味しいわよ。なんせ王家のお抱えだから。温泉もいいし」
エリザベスが告げた。