第13話 三人目の将
「はぁーい、私が誰か分かるかしら」
「ひっ、姫様」
粗末な鎧を身に纏った女兵士は、穴の中でを見上げながら応えた。いきなり現れた雲上人に混乱しているようであった。辺境の山賊退治に現れるような人物では、決してない。
「ご名答」
「あなたのことは、捕らえられていた子達に聞いたわ、砦の騎士なんですってね、どうかしら私の直属にならない」
エリザベスはにやりと笑みを浮かべて彼女に語った。
「えーっと、えっ、えっ……」
彼女は混乱して、何がなんだか分からなかった。
「ちなみにね、さっきあなたが闘っていた男性は、私の大切なお客様なの」
「よーく言うよな。ほとんど奴隷じゃないかと思うけど……」
「ほんとに」
ルークとエリックが後ろで小声で会話を交わしていた。
「その、あの、ああ……」
女騎士は、激情に駆られてしてしまった事のあまりの重大さに愕然とした。
「あら、どうしたの……」
エリザベスが女騎士に問いかける。
「あの、私、とんでもない事をしてしまったのでは、殿下の賓客を……」
女騎士は顔面蒼白であった。
「そうね、普通はねえ……」
姫は悪戯な表情をして女騎士を眺めている。
「あいかわらずの鬼畜なやり取り」
「怖いよ、姫さん、絶対に断れない状況に追い込んでいくんだから」
男達二人は、後ろで蛇に睨まれたカエルのような女騎士に対して同情しながら呟いていた。
エリザベスは、ルークが手加減しているとはいえ彼が押されていた事実を重視して、彼女を生け捕りにする方法を考えたのであった。
エリックに土を魔術で掘り起こさせ、隠蔽の錯覚を起こす術で落とし穴を隠させた。
ルークは以前エリックの悪戯によって、この罠にはまったことがあったので、合図で分かって飛び越えたのであった。よく見ると地面に連続性がなく、そこだけが少しほかと違って浮いている様に感じる。
「決まりね、あなたは私の直属の部下になる事、砦の引継ぎがあったらしておきなさい。一週間後には城に来てもらうわ。今のあなたじゃまだまだだけど、鍛えればそれなりに光ると思うわ。死ぬ気で特訓してもらいますからね」
エリザベスは有無を言わせず、話を進めていった。
「ところであなたの名前は」
「はっ、はい、私はフェリスと申します。あっ、あの先ほどの話は本当にそうなるのでしょうか」
「あら、私を疑っているの」
「いえ、滅相もございません。ただ、あまりにも唐突だったので……」
「おい、ねえちゃん。諦めな、俺達も似たような者で、いつの間にか姫さんの奴隷だ」
エリックがフェリスに語りかけた。
「あら、人聞きの悪い。いつあなたを奴隷にしたの、それとも鞭が欲しいのかしら」
「いやいや、エリザベス様、そのようなお戯れを、ただでさえこき使われてボロボロなのに、身体まで鞭を打たれたら廃人になってしまいます」
こうして、三人目の将をエリザベスは手に入れたのであった。後に『炎のフェリス』と呼ばれ苛烈な切り込み隊を率いる事となる。
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。