第12話 山賊2
「手筈通りでいいんだな」
ルークが確認した。
「いいわよ、最初にエリックが魔法でランダムに火球を落す。その後、騎士が前から突入。前面に注意がいっている時に、私達が裏から侵入、攫われた人達の救助及び後方撹乱よ」
エリザベスが答える。
「エリック、じゃあやっちゃってくれ」
「了解、風よ……」
エリックが唱えると、空気の流れが変わった。彼の周りに風が纏わりつくように集まり始めた。
ふわっと彼の身体が浮いたと思ったら、一気に上空まで昇っていった。
ひときわ高い杉の木と同じ高さまであがると、両手の上に十数個の火球を浮かべた。
「ほらっ」と手のひらを反すと、ふわふわと浮いていた拳大の火球が、勢いよく落ちていった。
地表ではぶつかった轟音とともに、建物が燃え始めた。
「もう一丁」
エリックが第二段の火球を用意して、落としていった。
地表では大混乱が続いていた。
火を消し止めに行く者、敵だと叫んで走り回る者、右往左往する者など元々アウトローの山賊なのでこのような場面で統制が取れた行動をすることは難しかった。
「破城鎚用意、城門へ打ちつけろ」
先端に金属を被せ補強した丸太からヒモが四本延びているものをそれぞれ騎士が一本づつ吊り下げている。合図とともに走りこんで鐘を突くように手を振ると一斉に手を放した。
騎士たちは身体の強化魔法を使っているのか、ものすごい勢いで城門に破城鎚が突き刺さっていく。
轟音とともに門が崩れさった。
「一気に突入」
「はっ」
それぞれの小隊が、三方に分かれて突入していった。
「そいつは、私に渡してもらおうか」
ルークは賊を取り押さえようと後ろ手に縛っていたところ、不審な女兵士が横から槍を出してきた。
「なんだ、おまえは」
よく見ると、不思議な格好をしていた。
下半身には布切れを腰に巻いただけで、上半身はブカブカの皮鎧を身に着けている。胸元や脇からまろやかな半球が窺え、真っ白な太腿が惜しげもなく晒されていた。
「こいつは、私があの世に送ってあげるわ」
「ひっ……」
山賊は声にならない恐怖を感じ、震えていた。この男は先ほどまで女騎士を嬲っていた者だ。
「この男だけは、許さない。邪魔するならあんたも……」
女兵士はものすごい形相で、いきなり槍をルークに向けて差し込んできた。
「あぶね」
ルークの目の前、指一本分のところに槍の刃が通り過ぎていった。
「さあ、あんたはこの男をここに置いて、とっとと帰んな」
今度は猛烈な旋風を起こしながら、横薙ぎしてきた。
「うお」
ルークは慌てて剣で受ける。
両者の剣戟が物凄い音となって響いている。
「おいおい、俺は敵じゃないぜ」
「私の邪魔をするものは、誰でも一緒だ。このくさった男は、私が始末をする」
「そうは言っても、もう縄をかけているんだぜ」
「なんと言おうと、先に言った言葉を変えるつもりはない」
「うわっ」
鋭い突きが打ち込まれる。
「やめろって」
ルークが剣で避けながら、説得を試みる。そう言っている間にも数合打ち合っている。
「問答無用」
「あちゃー、なに言っても無駄か」
ルークは相手の槍の攻撃を、剣を使って巧みに逸らしている。
するどい槍の突きを紙一重でかわすと、詰め寄ろうと彼が一歩踏み込んだ。
石突(槍の尻の部分)が、すかさず下から振り上げられた。
彼は身体を仰け反らせてかわす。
風圧で髪の毛が逆立った。
息をつく暇のない攻防が続く。
「ねえ、あれなに」
「さあ、本人達に聞いてみたほうが」
エリザベスとエリックがやって来たら、息つく暇のない攻防が繰り広げられていた。
「あの女兵士は、ルークと互角に戦っているわね」
「まあ、ルークの方が相手を傷つけないように気を使っているようですけど」
「そうは言っても、ルークが押されているのなんて始めて見たわよ」
「そう言われてみれば」
「ねっ、何とかならないかしら。傷つけないようにあの女兵士を何とかしてよ」
「また、さらりと難しいことを言ってくれますね」
女兵士は当初の目的を忘れたのか、野盗の横を通り過ぎたが一べつもしなかった。ルークを倒すことに集中しているようだ。もはや彼女の怒りの矛先は完全にルークに向けられていた。
空気を切り裂くような一撃が容赦なくルークに向かっていく。ルークは巧みに剣で力を逸らしながらかわすと、一歩踏み込んで槍のもち手を狙って剣を繰り出した。
女兵士は手をスライドさせると、そのまま槍先を回転させルークの頭を刺しにいく。
ルークの視線は真剣そのものだ。一瞬の油断が死につながる。息を継ぐ暇のない攻防を繰り返していた。
「ルーク」
エリックが叫んだ。
ルークは一べつすると、いきなりエリックに向けて走り始めた。
女兵士はルークを追って走る。
ルークがいきなり飛んだ。
女兵士がいきなり見えなくなった。