第10話 避暑地
「しかし、無駄に暑いな、この城は」
「夏だから仕方がないですよ」
男二人がぐたっている。
「どうせ暑いなら、海のほうが良いなあ」
「そうですね、夏といえば海、海といえば水着、水着といえば美女、今一番熱いスポットそれが海ですよ」
「おう、よーく分かっているじゃねえか」
男達二人は勝手に盛り上がっていた。
「お二人さん、折角だから行きますか、海へ」
今まで会話に加わろうともしなかったエリザベスが、一枚の報告書をしげしげと眺めていたかと思ったら唐突に話しかけた。
二人がいた場所はエリザベスの執務室の一角にある応接セットであった。
先ほどまで執務官がいたが、そそくさといなくなっていた。執務官たちも普段はグウタラだがやるときはやると分かっているのでルークたちを自由にさせていた。なによりも姫が自由にさせているのだから文句の言いようも無かったが。
「ほんとうか」
「ええ、本当よ。しかも、とびっきりの砂浜にご招待するわ」
「やってきましたよ海ですよ」
「おう、一面に広がる砂浜、気持ちいいねえ」
澄み渡る空に遠くに入道雲が見え、真っ白な砂浜が続いていた。
着替えの早いルークと魔術師のエリックが一足先に浜辺に乗り出していた。
エリックは、すでにビーチパラソルを砂浜に差している。
「あら、二人とも早いわね」
水着に着替えたエリザベスがやってきた。彼女は薄手のパーカーを羽織っていた。
「さすが王族の別荘地だな」
「こんだけいい天気なのに誰もいないなんて、もしかして、ここすべて専用?」
「そうよ、王族専用のプライベートビーチ」
「さすが王族、豪勢だね」
「警備の関係もあってね。一般の人が一杯いる中で警備の人に周囲を囲まれて泳ぐのはちょっとね気が引けるし」
「そうだな夏場の海で、暴漢からの警備を完璧にするには、何百人警備を置いたらいいか分からないな。経費を考えたらこっちの方が良いか」
「へえ、王族専用と言うのも、色々考えられているんだ」
ルークたちの会話にエリックが感心していた。
「それに関係の無い人達が暗殺事件の巻き添えになっても可哀そうだしね。あの岬のところに見張り台があって、そこからこっちには来れなくなっているわ。今日は特別に入れてあげたの。それと、もう一つサービスよ。浜辺に水着の美女がいないと寂しいでしょ」
エリザベスはロングのスプリングコートに身を包んだルネを彼らの眼の前に連れ出した。
「本当にやるんですか」
華奢な肩を震わせていたルネが、哀願するようにエリザベスを見つめる。
エリザベスは無言で頷いた。
もう一度目で訴えるが、エリザベスの変わらぬ態度にルネはロングコートのボタンを襟元から外し始めた。ほっそりとしたその白い指で、一つ一つ、ゆっくりとボタンを外して行く。
目の前でいきなりコートを脱ぎ始めたルネを見て、ルークたちは何が始まるのかと当惑と期待にゆれていた。
コートの襟が左右に大きく肌蹴ていき、しどけなく開いた隙間から、まばゆいばかりの白い谷間とまろやかな半乳が露になる。
すべてのボタンを外し終えたルネは、ためらいがちにコートの裾を引き寄せようと両端を掴もうとした。
「さあ、見せてあげなさい。あなたのナイスボディを」
エリザベスが後ろからコートをルネの肩からさっと抜き取る。
コートが上体をすべり、彼女のウエストを撫でて去っていった。
「ひっ、姫さま……」
「おおー」
眼前に広がる見事な曲線美に男たちはゴクリと生唾を呑んだ。
幼い顔立ちなのに、首から下のこぼれ落ちんばかりの見事な膨らみ、くびれたウエスト、瑞々しい太腿に二人の目は釘付けになった。
「あのう……やっぱりこの格好……」
驚いたことにルネは、布地のほとんど無いピンクのマイクロビキニを身に纏っていた。
彼女が恥じらいながら佇む姿は、甘えているような可愛らしい魅力が醸し出されている。
ルネは戸惑いを浮かべながら、ほとんど露になっている身体をすばやく両腕を巻きつけて隠した。
右手で胸を、左手で下腹部を隠す、いわゆるヴィーナスポーズをして立っている。
透明感のある雪肌は羞恥でほんのりと紅潮して、柔らかそうな双乳はむにゅりと腕に押しつぶされ溢れだしている。
隠しているつもりが逆に官能的なボディラインをよりいっそう強調し、男達の劣情を誘っていた。
「今回はさらに特典付き」
「いったい、それは……」
男二人は期待の眼差しでエリザベスを見た。
「ルネに好きなポーズを三つまでさせて構いません。じゃあまずは、殿方にあなたのナイスボディを見せてあげて、何のためにビキニラインのお手入れしたの」
「おお……」
扇情的な言葉に揺さぶられ、男たちは期待に喜悦の声を上げる。
「姫さまぁ……」
「さっ、手をどけて」
「うう……」
声にならない声を上げ、逆らえないルネはゆっくりと腕を動かしていく。
白い砂浜の光の中に、あどけない容貌に引き締まったウエスト、均整のとれたプロポーションが浮かび上がった。
ふっくらと豊かに盛り上がった乳房の中央で、辛うじて隠すように三角形の布が乗っている。
身じろぎするたびに小さな布地が、波に翻弄される小船のように揺れている。
ボトムはTバックで、まろやかなヒップを余すところなく披露していた。
恥じらって上気させたコケティッシュな表情は、彼らを釘付けにして放さなかった。
「おおー、ちょっと作戦会議」
二人は少し離れてどのようなポーズにするか話し合っていた。
「それでは、発表します。第一番目のポーズ……」
男たちが色々と姿勢や手の位置、脚の置き方などを細かく注文していく。
「ルネさん、四つん這いになって」
「こうですか……」
「うん、それで少し上の方を見上げるように……」
手を触れんばかりに近くにある肩先は、滑らかで肌はミルクを溶かしたような白さをしていた。視線を下げると手足を動かすたびに、艶々した雪色の隆起が悩ましく揺れているのが窺える。
男達の野卑な視線に灼かれ、耳からうなじのあたりをルネは真っ赤に染めあげていく。
長い髪をかすかに揺すり、細く流麗な眉が切なげに析れ身悶えする姿は、いっそう男達の欲情を刺激した。
恥ずかしさで白い肌を桜色に染め、ルネはぎこちなく要請に応じていく。
「あなたは、あんまり見ないの」
ルネが男たちの前で四つん這いになり雌豹のポーズをしていると、エリザベスがルークの腕を引っ張って少し離れた場所に連れて行く。
「なんだよ」
ルネに熱中しているのを引き剥がされて不機嫌に答えた。
「あなたはいいの」
エリザベスが少しむくれた様に言った。
「どうして」
ルークは後ろ髪引かれる思いで、ルネの方を見続けている。
「どうしてもよ、それとも私に逆らう気?」
エリザベスがひと際強くルークの腕を脇に挟んで引き寄せた。
突如として、彼の動きが緩やかになってルネを見なくなった。
「そんなに言うなら……」
しぶしぶ従う振りをした。
ルークが大人しくなったのには理由があった。
彼女はいつの間にかパーカーを脱ぎ去っていたのだった。
ルネに気をとられていたが、エリザベスの水着もなかなか際どいものであった。
彼女は黒のモノキニワンピースを纏い、脇から背中にかけてビキニと同じように肌がほとんど露出している。
ホルターネックから伸縮性のある太いタスキのような帯がバストを覆い、手の平ほどの幅の帯はヘソの下あたりで合わさり深いU字の切れ込みを作っている。
きわどく胸を覆う生地に豊かな連なりは押し出され、柔らかそうな横乳をまろび出していた。
つまり、ルークの腕にはエリザベスの柔らかな生乳が押し付けられ、彼はなんともいえない感触を堪能していたのであった。
「ところでさあ、ここまでサービスしてくれるってことは、タダではないよな」
「あら、分かったかしら」
「えっ、純粋に今までの慰労じゃないの……」
エリックがきょとんとして話しかけた。
「あほか、お前は、この姫がそんなに甘いやつか」
「うー、うー。その言われようは」
エリザベスが顔に手を当て泣いた振りをする。
「おい、目が笑っているぞ」
「ばれたか」
「とっとと本題に入ってくれ」
「じつは、ここから馬で二日くらい行った国境付近の森に二百人くらいの山賊が住んでいるの。けっこう近隣の町に被害が出ててね。だけど、今の国際情勢は微妙でね、国境付近に大軍を派遣すると他国を刺激しかねないから、できないのよ」
「そこで俺たちの出番か。しかし、いくらなんでも三人は少なすぎないか」
「いや、四名で行くつもりよ。それに精鋭三十名の騎士に前から攻めてもらって、私達で裏から攻める予定なの」
「三人じゃなくて四人?」
「そう、四人、ルネを含めてよ」
「えっ……」
二人は見合わせた。
「知らなかったの彼女、私の護衛なのよ。騎士達があなた達みたいな怪しい人が私の回りに居ても何も言わないのはその為よ。彼女の腕はルーク程ではないけど、なかなかのものよ」
「こえー、騎士達に警戒されないのが不思議に思っていら……」
「彼女の一番得意なのはナイフ、彼女の容姿から油断した相手を一瞬のうちに葬り去る。いわゆるナイフの居合いのようなものね。さらに投げナイフは百発百中よ」
「うお、最強の護衛じゃないですか」
「あなたたちが、もし、スケベ心を出してルネに襲い掛かっていたら、今頃あなた達はニューハーフになっていたかもしれないわね。あなたたちの大事なところ、ナイフで削ぎ取られているところよ」
「姫さま、私はそんなことしません」
ルネが顔を真っ赤にして恥じらいながら抗議していた。
なぜか男達は両手を股間に当て震えながらガードしていた。
ちなみに、ヴィーナスポーズはミロのヴィーナスではなく、ボッチチェリの『ヴィーナス誕生』のポーズです。