穴のある部屋
ごぽっ……
切り裂かれた喉から、不穏な音が溢れ出す。
ああ、自分はもう死ぬのだなと悟った時、ぷつりと意識が途絶えた。
ある小さなホテルに泊まると、人が戻れなくなるらしい。
誰が言い出したのか、今ではもう分からない。
フロントに置かれたノートには自由に書き込めるようになっているが、そこには
「注意!泊まってはいけない」
と殴り書きされている。
殆どの客は冗談だと思い、そのまま放置して宿泊する。
そのホテルには五人の奇妙な従業員が住み込みで働いていた。
フロントにいた二人の従業員の笑顔は貼り付いたような、少し嫌な気分になるものだった。
廊下を濡れたモップで拭いている従業員の拭いたところは、いつまでも乾いている。
それなのに、水の匂いだけがした。
それでも従業員は、同じ場所を何度も何度も往復している。
表情は無表情だった。
今日も迷い込んだ客がやってくる。
その人は、電波の届かない森で迷子になり、やっと人気のある場所につけたと安心していた。
従業員に、説明して電話を貸してもらうと、明日知り合いが迎えに来てくれるので、一晩泊めてくれませんか?と尋ね、何とか屋根のある場所で過ごせることに安堵した。
早速部屋へ案内してもらうと、部屋でやっとくつろぐことができた。
こじんまりとしてあるが、掃除が行き届いていて、家具や調度品も高級そうな部屋だった。
一つだけ奇妙なのは、部屋の隅に大きな四角い穴が空いていることだった。
その穴に近づくと、空気が奥へどんどん吸い込まれる気がした。
胃の腑がぎゅっと縮こまる。
覗いてみても真っ暗なのに、距離を測られているような感覚に包まれた。
奇妙だ、と思う前にその穴のことをそれ以上考えてはいけない気がした。
あまりにも疲れていた客は、シャワーを浴びて食事も摂らずに少し眠ることにした。
うとうとと微睡んでいると、ドアの外から小さな声が聞こえた。
「ああ、せっかくのイケメンなのにまた殺っちゃわないとだめなのね、勿体ない。でも、イケメンのあの瞬間の顔ってたまらない」
ドアの向こうで、笑い合う声がした。
でもそれより眠い。
好きな人の話でもしているのだろうか……またうとうとし始めた。
従業員が拭き終わった廊下には、じわりと滲む血の匂いがした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
よろしければ★やコメントで応援していただけると励みになります。




