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穴のある部屋

作者:
掲載日:2026/03/12

ごぽっ……

切り裂かれた喉から、不穏な音が溢れ出す。

ああ、自分はもう死ぬのだなと悟った時、ぷつりと意識が途絶えた。


ある小さなホテルに泊まると、人が戻れなくなるらしい。

誰が言い出したのか、今ではもう分からない。

フロントに置かれたノートには自由に書き込めるようになっているが、そこには

「注意!泊まってはいけない」

と殴り書きされている。

殆どの客は冗談だと思い、そのまま放置して宿泊する。


そのホテルには五人の奇妙な従業員が住み込みで働いていた。

フロントにいた二人の従業員の笑顔は貼り付いたような、少し嫌な気分になるものだった。

廊下を濡れたモップで拭いている従業員の拭いたところは、いつまでも乾いている。

それなのに、水の匂いだけがした。

それでも従業員は、同じ場所を何度も何度も往復している。

表情は無表情だった。


今日も迷い込んだ客がやってくる。


その人は、電波の届かない森で迷子になり、やっと人気のある場所につけたと安心していた。

従業員に、説明して電話を貸してもらうと、明日知り合いが迎えに来てくれるので、一晩泊めてくれませんか?と尋ね、何とか屋根のある場所で過ごせることに安堵した。


早速部屋へ案内してもらうと、部屋でやっとくつろぐことができた。

こじんまりとしてあるが、掃除が行き届いていて、家具や調度品も高級そうな部屋だった。

一つだけ奇妙なのは、部屋の隅に大きな四角い穴が空いていることだった。

その穴に近づくと、空気が奥へどんどん吸い込まれる気がした。

胃の腑がぎゅっと縮こまる。

覗いてみても真っ暗なのに、距離を測られているような感覚に包まれた。

奇妙だ、と思う前にその穴のことをそれ以上考えてはいけない気がした。


あまりにも疲れていた客は、シャワーを浴びて食事も摂らずに少し眠ることにした。


うとうとと微睡んでいると、ドアの外から小さな声が聞こえた。

「ああ、せっかくのイケメンなのにまた殺っちゃわないとだめなのね、勿体ない。でも、イケメンのあの瞬間の顔ってたまらない」

ドアの向こうで、笑い合う声がした。

でもそれより眠い。

好きな人の話でもしているのだろうか……またうとうとし始めた。


従業員が拭き終わった廊下には、じわりと滲む血の匂いがした。





ここまで読んでいただきありがとうございます。

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