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あの夜、僕は“普通”を失った。ヘブンズ・ウェイ!  作者: SodaKun


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5/6

カード

きみの影

雨ににじんで

ほどけてく

そばにいるだけ

痛みを抱いて

「……あゆみ……お前……」


目を見開いた。

膝から力が抜ける。身体のバランスを失った。――刺された。腹に、刃物が突き刺さっている。

床に倒れ込む。血……腹に触れる。血……血……。嫌だ……嫌だ……!こんなところで死ねるか……!なんでだよ……なんで……!?これが、俺の人生の終わりなのか?どんな主人公だよ、俺は……。


「……ゆうき……」


あゆみは言葉を詰まらせるように、喉を鳴らした。まともに話すことすらできていない。

そして――吐いた。


「――げほっ……!」


地面に吐き出されたのは、血だった。血を吐く中で……

“何か硬いもの”が床に落ちる。視線がそこに向く。理解できない光景に、思考が凍りついた。

――骨。

小さな骨が、彼女の口から吐き出された。さらに、もう一つの異変に気づく。さっきまで“切り傷”だと思っていた彼女の傷は――違った。まるで、誰かに噛み取られたように、皮膚が削ぎ取られている。

……嘘だろ。そんなはずがない……。あゆみは、涙を浮かべた死んだような目で、俺を見下ろした。何かを伝えようとしている。

だが、声が出ない。苦しそうに、手をこちらに差し出す。床に倒れ、出血で身体が重くなっている俺には、最初、その異変に気づけなかった。

……違う。――指だ。指が……三本、無い。その手が、自分の口元へと向かう。


「……やめ……ろ……」


かすれた声で、止めようとする。

彼女は口を開き、全身を震わせた。まるで、自分と戦っているかのように。だが次の瞬間――口が閉じた。――ぐちゃり。――ぼきり。噛み砕く音。骨の折れる音。指は人参じゃない。歯が耐えきれず、一本の歯が床に落ちた。彼女は、また俺を見る。涙と痛みで歪んだ顔。

苦しんでいる。だが、叫ぶこともできない。


「……どうして……?」


問いかける。返事はない。彼女は、噛みちぎられてぶら下がっていた指を掴み、それを口へと運んだ。

――どうしてこうなった。家族の面倒を見て、母の代わりのように、皆を支えてくれた姉。俺を理解してくれた、唯一の存在。


「……ゆ、ゆうき……!!」


彼女の血が、俺の顔に落ちる。泣いているのに、泣き声が出ない。苦しんでいるのに、悲鳴が出ない。その手が、俺に伸びてくる。……ここで終わりなのか。嫌だ。

後悔だけを残して死ぬなんて……。

母が亡くなってから、俺を守り、育ててくれた二人の姉を――守れなかったなんて……。

その手が、俺に触れる前に――“その手”は、消えた。一瞬前まであった場所から、切断された腕が消え、血が噴き出す。すべてが、一瞬の出来事だった。


「遅くなってごめんね。大丈夫?」


甘く、冷たい声が耳に届く。

……彼女だ。この状況で、彼女の存在を完全に忘れていた。


「安心して。彼女はもう、あなたの知っているあゆみじゃない。死神に操られている。下がって」


……ふざけるな。

そんな言い方で、納得できるわけがないだろ……!

俺は、立ち上がろうとする。彼女が、こちらを向いた。


「馬鹿の上に馬鹿ね。だから“足兵”は消耗品なのよ。……あなたも、足兵になりたい?」


彼女は身をかがめ、俺の目を覗き込んだ。身体から力が抜けていく。……何だ、これは。目が離せない。心臓の鼓動が早くなる。――違うだろ。今は、あゆみを助けなきゃいけない。心の中で叫ぶ。“目を覚ませ、俺……!”

彼女は、俺の腹に刺さっていたナイフを引き抜いた。

口から血が溢れる。――初めての血の味。馬鹿か……!刃物は抜いちゃいけないんだ……!傷口から血が噴き出し、床を染める。

彼女は俺の腹に手を当てた。視界が暗くなる。……ああ、また終わりか。これは仏の罰か?死なせずに、苦しませるつもりなのか……。意識が遠のく。闇が視界を覆う。口の中に広がる血の味。……痛い。……痛……?――痛くない。闇が、ゆっくりと晴れていく。……身体が、軽い。

気持ちいい……。


「死なせないわよ、坂本ゆうき。あなたは私の“切り札”なんだから。そんな特別なカード、失うわけにはいかない」


……カード?俺が? 特別?親父に聞いてみろよ。どれだけ“特別扱い”されてるか分かるぞ。


「起きなさい。もう治ってる。姉を助けたいなら、立って」


その言葉で、現実に引き戻された。俺は勢いよく立ち上がる。――立てた。さっきまで死にかけていたのに、今はどこも痛くない。

腹に触れる。血はない。シャツは破れているが、肌に傷はない。刺された痕跡すら、消えている。


「……どうやっ――」

「治したから?それもチベットの僧から習った技よ」

私の作品を読んでくださっている皆様、ありがとうございます。皆様に楽しんでいただければ幸いです。初めてですが!SodaKun Out!◇

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