夜の訪問者
君を想う
夜の風に
名を呼べば
星がそっと
近づいた
――第三者視点――
太陽は夜の闇に沈み、代わりに月が空を支配している。星々が瞬き、穏やかで美しい夜だった。
「ママ……会いたいよ……」
小さな少女は、母を想いながらすすり泣く。こんなにも幼い少女が、すでにこの世の者ではないなんて――なんと残酷な運命だろう。幽霊はどこへでも行ける、と人は言う。だが彼女は違う。何の罪も犯していない無垢な存在であるにもかかわらず、この街灯の柱に縛られている。残酷な運命。
「ママ……」
泣くまいと堪えようとする。だが、こらえきれず、さらに涙が溢れてくる。
そのとき――静まり返った街に、音が響いた。街灯が一本だけ、その場所を照らしている。もしそれがなければ、通りは闇に包まれていただろう。音は、まるで風船を擦るような、不気味なものだった。こんな夜中の路上で、誰がそんな音を立てるというのか。
少女の身体が震える。あの気配だ。――でも、そんなはずはない。あの怪物は死んだ。自分の目で、巨大な虫が倒れたのを見た。なのに、なぜ……?
「い、いや……やめて……! ママ!!」
少女は叫ぶ。何度も、何度も。涙と恐怖に満ちた叫びが通りに響く。だが、死者の声は誰にも届かない。静寂が、再び街を包む。街灯の柱に縛られていた少女の姿は――もう、どこにもなかった。喰われたのだ。
「お父さん! ゆうきにあんな言い方しなくてもよかったでしょ。まだ子どもなのよ。傷ついたに決まってる」
靴を履きながら玄関に立つ父に、かすみが言った。その声には怒りが滲んでいる。
「子どもじゃない、かすみ。あいつはもう大人になろうとしている。最近は無鉄砲で、何もせず、街をふらついてばかりだ。不良みたいにな」
冷たい言葉だった。だが、その中に真実があることを、かすみも理解している。母を失ってから、ゆうきはどこか投げやりになった。
父は立ち上がり、霞を見る。
「仕事で町を離れる。二日後に戻る」
「お父さん……せめてゆうきとちゃんと話して。悪気がないのは分かってるけど――」
「“子ども”なんだろう? なら、大人の世界を学ばせるべきだ。大人の世界は甘くない。無垢でもいられない。それを知る必要がある」
娘の言葉を最後まで聞かず、父は振り返ることなく家を出ていった。
――ゆうき視点――
ベッドに横たわる。今日の出来事が頭から離れない。母さんのこと?……違う。悲しんでいるわけじゃない。父さんの言葉に怒っているわけでもない。あの人たちは、俺に見えているものが見えない。それは仕方ないことだ。じゃあ、俺は何を考えている?あの巨大なハエの姿が、頭から消えない。あれは何だった?今まで一度も見たことがない。あの少女はどうなった?俺を家まで運んだのは誰だ?倒れる直前に聞いた、あの声の主と同じ人物なのか?――あの女は、誰だ?思考が止まらない。
「こんなんじゃ眠れねぇ……! 考えすぎて頭が爆発しそうだ!!」
苛立ち、髪を掴む。そのとき――
「あたしのこと、考えとったん?」
柔らかく、冷たい声。
俺は勢いよく跳ね起きた。悲鳴は上げない。生まれてから、奇妙なことは何度も経験してきた。珍しくもない。だが今日、驚いたのは――欲しかった答えが、目の前に現れたことだ。この声を、俺は忘れない。彼女だ。
「いつから、そこにいる?」
彼女は小さく笑みを浮かべる。
「髪を引っ張り始めたときから。ストレスは禿げるわよ?」
くすり、と笑う。
背は低い。平均より少し小さいくらいか。白く滑らかな肌。長い黒髪が、夜風に揺れている。茶色のカーゴパンツに、白いシャツ。普通の服装のはずなのに、なぜか特別に見える。その雰囲気が、彼女を異質にしていた。
「どこ見てるの? 叫ばないの?」
「……お前は何者だ?」
心臓が速い。答えは目の前にある。
彼女はそこに立っているだけなのに、存在感が違う。
「見えよるんやろ?」
「何が?」
「死んだもんの魂」
俺は頷く。
なぜ、こんなに落ち着いている?まるで、これが当然であるかのように。俺と彼女がここで会うことが、決まっていたみたいに。怖くはない。だが、心臓は異常なほど速く打っている。このままじゃ本当に心臓発作になりそうだ。
「座ってもええ?」
「ど、どうぞ!!」
彼女は床に膝をつき、正座して太ももの上に手を置いた。俺は胡坐をかいている。……そっちのほうが楽じゃないのか?
「聞きたいことあるんやろ、どうせ」
「ある! 何が起きてるのか知りたい! 俺以外にも見える人がいるって分かって嬉しい。でも――」
「今まで、あんな魂は見たことなかった。朝に会うた、あの巨大な虫のことを聞きたいんやろ」
図星だ。
彼女は私がこれから彼女に尋ねようとしている言葉を言ったのです。
「……ああ。あれから俺を助けたのはお前だな。お前は何者だ? あの怪物は何だった?」
当然の疑問だ。この世界が普通じゃないことは分かっていた。でも――あれは、俺の“普通”の範囲を超えている。
彼女は一度、目を閉じてから開いた。静かに言う。
「あたしが何者か、って?」
わずかに口元を上げる。
「私は――死神狩りや。」
物語は、ここから始まります。
読者の皆さん、これから少しずつでも成長していけたら嬉しいです。
私の作品を読んでくださっている皆様、ありがとうございます。皆様に楽しんでいただければ幸いです。初めてですが!SodaKun Out!◇




