ヘブンズ・ウェイ
桜散り
古き寺には
鐘ひびく
千年の夢
心に宿る
~ゆうき視点~
アレクサンドロヴナは、そっと俺の肩を叩いた。
「そんなに心配することはないわ。あなたはまだ子供よ」
「彼女の言う通りです、坂本くん! あんな連中を恐れる必要はありません」
俺は彼を見上げた。
頭の中が、ぐちゃぐちゃだ。
自分が無力だったせいで、誰かに助けられるのはこれで二度目だ。最初はレイカ、そして今はこの二人。
「俺は……弱い」
「は?」
「俺は何をすればいいのか分からない。人生の流れに、ただ流されているだけだ。俺は弱い! 大切な人を守れなかった! みんな失ったんだ」
涙がこぼれ落ちる。
かすみとあゆみ。俺は兄として失格だった。息子としても失格だった。愛していた人たちを守れなかった。母さん。あゆみ。かすみ。
「俺は……失敗作だ」
正宗は微笑んだ。
「違いますよ。失敗なんて、この世界には存在しません」
「え?」
「誰もが勝者になれるわけではない。だが、誰もが敗者でもない。敗者がいなければ、勝者も存在しないのです」
その時、アレクサンドロヴナが正宗のそばに寄り、彼の手を握った。……胸に直撃だ。俺は独り身なのに。彼女は俺を見て、静かに言った。
「薔薇より美しく、百合より純粋でありなさい」
その言葉を残し、二人の姿は消えた。
「……帰るか」
俺は小さく呟いた。
どうして俺は、こんな状況でもこんなに落ち着いていられるんだろう。短時間で、二度も死にかけたのに。
理解できない。
子供の頃から霊を見る力はあったが、こんな厄介事に巻き込まれたことは一度もなかった。俺は家へ向かって歩き始めた。どこかに身を隠した方がいいかもしれない。
「かすみ……」
答えは、まだ闇の中だ。かすみの霊はどうなったのか。
俺に取り憑いていた怨霊はどうなったのか。レイカは説明すると言っていたが、むしろ謎は増えるばかりだ。俺は疑問ばかり思いつく。
だが、答えは一つもない。そもそも、この世界で何が起きているのかすら分からない。それに、なぜ俺は狙われている?なぜ正宗は、俺の名前が陰陽師の家系では誰もが知っていると言ったんだ?俺は特別なのか?それとも……俺の"名前"が特別なのか?
「考えすぎだな。レイカが全部説明してくれるって言ったじゃないか。なんで俺がこんなに焦ってるんだ?」
気づけば、家に着いていた。
ドアを開ける。
「ただいま――」
言葉が途中で止まった。……なんで俺はこんなことを言ったんだ?家で待っている人なんて、もう誰もいないのに。
「なんて残酷な運命だ。仏もずいぶん意地が悪い」
「おかえりなさい」
冷たくて、柔らかい声が耳に響いた。
その声は、俺が聞いた中で一番美しい声だった。
レイカが玄関に立っていた。両手を差し出している。まるで何かを受け取るつもりのように。
「渡して」
「え?」
「頼んだカリーヴルスト」
「カ……カリーヴルスト?!」
俺は目を見開いた。
自分の手を見る。
……ない。カリーヴルストが、ない。
「どこ?」
レイカが問い詰める。思い出した。正宗から受け取るのを忘れていた。
「あっ……やばい! 忘れた!」
「は? じゃあ何してたの? チンピラみたいに街をぶらついてたの?」
「違う! それどころじゃなかったんだ! 俺、指名手配されてるんだぞ! 賞金までかけられてる!」
「賞金? 指名手配?」
彼女の表情が変わった。
「賞金稼ぎ?」
「たぶん。ハゲの男が俺を殺そうとしてきた」
レイカの顔が険しくなる。
「……それで、どうして生きてるの? 私は他の陰陽師の気配を感じなかった」
「えっと……レストランの店主と、そのロシア人の彼女が助けてくれた」
レイカの目が大きく見開かれる。
「逃げないといけないわ、坂本ゆうき。ここにいるのは危険よ。一秒一秒が命取りになる」
レイカが焦っているのを見るのは初めてだ。
「必要な物を全部持ってきて。貴重品も」
「ちょっと待てよ。何が起きてるんだ? 正宗なら敵を倒せるだろ? 彼に助けてもらえば――」
レイカの体が、ぴたりと止まった。
まるで人形のように。
「……何て言った?」
「名前?」
「そう。その男の名前」
「正宗」
レイカは深く息を吸った。
そして目が、いつもの冷たい目に戻った。
「……もう時間がないわ。手を見せて」
俺は手を差し出した。
彼女はすぐに袖をまくり上げた。
「なっ……!?」
「そんな……!」
俺の右腕に、文字が書かれていた。見たことのない言語だ。открыть телевизор
「何だこれ?」
「ロシア語よ。私たちへの言付け」
彼女は俺の手を離した。
「テレビはどこ?」
「リビング」
玄関から少し進んで、左側だ。俺たちはリビングへ向かった。
レイカはすぐにテレビをつける。便りが流れていた。
「何だ? 総理大臣の会見?」
画面には、日本の総理大臣――高市早苗が映っていた。日本史上、初の女性総理だ。
「天道」
記者たちが一斉に写真を撮る。一人の記者が手を挙げた。
「高市総理。日本史上初の女性総理として、『天道』についてもう一度説明していただけますか? 党に影響はないのでしょうか?」
高市は答えた。
「『天道』とは、我々の党が提案した新しい制度です。若い世代に平等な機会を与え、日本の若者の自殺率を下げるためのものです」
会場から拍手が起こる。日本では自殺が深刻な問題だからだ。
「新しい世代に機会を与えます。お金を稼ぐ機会を」
彼女は続けた。
「『天道』とは――競争です。日本全国を旅し、本当の日本文化を学ぶ大会です」
私の作品を読んでくださっている皆様、ありがとうございます。皆様に楽しんでいただければ幸いです。初めてですが!SodaKun Out!◇




