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第二十五話 世界の管理者の退場



研究室では異質な会議が開かれていた。


ヴォルグは、ホヅミの隣で不満そうに腕を組みながら、十六夜の前に立たされていた。




「ヴォルグ。貴方の能力は、破壊ではなく、秩序のために使われるべきです。貴方には、世界の物流を瞬時につなぐ運輸を任せ、大臣の地位を与えましょう。永遠の自由ではなく、永遠に世界を駆け巡る仕事です。自由であることに仕事の制限はつきますが、あなたには程よい秩序となるでしょう」



ヴォルグは、屈辱と驚愕に目を見開いた。自由を愛する自分に、闇の統治の重要な地位を与えるというのだ。



「フン……。だが、俺は誰にも従わん。こいつに負けただけだ」




「ならば、それで結構」


ホヅミは、ヴォルグを上から見下ろしたまま、魂の契約書を差し出した。

それはミゼラの時にジャンヌに渡したものと同じものだ。



「私は王の秩序を守る。貴様は、私の指揮の下で、秩序の疾風となれ。貴様の速度は、今、私のものだ」




ホヅミのその静かで揺るぎない眼差しに、ヴォルグは抵抗する気力を失った。


彼は、自分の自由奔放な人生を、強さでの戦いを冷静さという点で一瞬で超えたホヅミの純粋な力を尊敬した。





ヴォルグは、契約の魔導印に魔力を流し契約は完了した。疾風の覇王ヴォルグは、ここにノクティス・ベイルの秩序に組み込まれ、ホヅミの指揮下に置かれた。



勝利の報告を受けた十六夜は、すぐさま次なる指令を出した。



「これで、ルーナリアの手足の一つを断ち切った。次は、ヴォルグの持つ情報を吐かせ、彼女が隠れている真の居場所を特定します。そして、ミゼラに真実の暴露をさせる。さあみんな準備を」






「ちっ……俺は空間転移の専門だ。あのルーナリアの居場所なんて知るか」



「ヴォルグの空間転移の痕跡を解析したところ、貴方が情報を得ていた空間にも嘘……操作されていることろがあった。その座標があやしいです」


クロガネは冷静に言い放った。


ヴォルグは驚愕に目を見開いた。



「あの場所は……! ルーナリアの遊び場、汚らしい温室だ!」



「貴方は、世界中の噂、虚偽、そして認識の集合体であるその場所へ、定期的にアクセスしていましたね」






ヴォルグは、憎悪と嫌悪を露わにした。


「あそこは、世界中の愚かな人間が信じたい『嘘』が流れ込んでくる場所だ。あいつは、その嘘を編集し、世界に流す……。俺はあいつが嫌いだった。俺の自由な転移さえ、俺が暴れ回ることさえ、あいつの視線が常にあるようで、監視されている感じがして吐き気がした」



ヴォルグは、屈辱に顔を歪ませながら、情報を吐き出した。



「あの女は、世界を手鏡の中の退屈な人形劇だと考えている。俺たちが本当に封印されていた間も、あいつは安全な場所から、光と闇の戦いをシナリオ通りに動かしていた。本体がどこにいようと、この世界中に広がる信仰と嘘こそが、あいつの魔力の供給源だ」







十六夜は静かに頷いた。これで確定した。ルーナリアを倒すには、武力ではない。世界の人々の認識を奪い、彼女を無力な管理者にすることだ。




十六夜は、ミゼラに視線を送った。ミゼラは空中カウチに横たわったまま、その瞳に冷たい光を宿していた。



「ミゼラ。貴方の出番です。ルーナリアは、偽りの希望と偽りの恐怖で世界を支配しようとしています。貴方の力は、それら全ての欺瞞ぎまんを暴き、対象に自己嫌悪と真実を突きつけることができる」



「私の力で、世界中の人間に絶望を与える、と?」


ミゼラは皮肉めいた笑みを浮かべた。



「いいえ。絶望ではなく、清算です。先のルーナリアとの争いでも、この作戦が成功しました。もちろんミゼラだけではなく、私も一緒です。それに黒曜もいる、前よりもより強い力が使えるでしょう」


十六夜は答えた。


「貴方の役割は、ルーナリアが流布する全ての『嘘』に対し、論理的な真実ノイズを強制的に上書きすること。人々が何を信じていようと、貴方の真実が信仰の毒を打ち消す。それが、貴方の秩序への貢献です」



この作戦には、ミゼラの精神力が限界を超えて要求される。ジャンヌが不安げにミゼラを見るが、ミゼラは自信に満ちた笑みを浮かべた。



「面白い。絶望をばら撒く悪役から真実を突きつける清算へ。私の力に、最も合理的な役割を与えてくれて感謝するわ、闇の王妃」




リミタージュの技術者アルマは、ハドソンと共に、ヴォルグが確保した情報空間の魔力ゲートへ、十六夜の用意した真実のヴェリタス・ミラーを起動させた。





世界中の空には再びルーナリアの幻影が映し出されている。彼女は、聖女軍への更なる結集を呼びかけていた。


その瞬間、ミゼラの魔力、悲嘆の波が、ルーナリアの幻影に叩きつけられた。


『――嘘。私は聖女ではない。私は世界の管理者。愚かな人間が争う様を見て、退屈しのぎにシステムを調整していただけだ』


ルーナリアの幻影が、突然歪んだ。彼女の口から、彼女自身の心の声が、世界中に響き渡ったのだ。


 

『――あの闇の王の軍団が、こんなに早く私のシナリオを崩すとは思わなかったわ。本当に、私の暇を奪う、不愉快な存在ね』



さらに、ミゼラの力が、ルーナリアが数千年かけて世界に埋め込んだ信仰の嘘まで暴露し始める。




『――光の教義は、人々を永遠に私の支配下に置くための、最高の枷だった』



ルーナリアの幻影が崩壊し、その光は醜悪な虚無の色へと変色していく。信仰心を糧にしていた彼女の肉体と、世界中の人々が信じ続けた聖女の真実が、ミゼラの論理的な真実によって完膚なきまでに打ち砕かれたのだ。





幻影が消滅した瞬間、世界中の人々は、目の前で起きた神の崩壊に混乱し、絶望した。

信仰という名の魔力供給源を失ったルーナリアは、本体のいる隠された異空間で、悲鳴を上げた。




「なぜだ! 私のシステムが! なぜ、こんな小娘ミゼラの感情のノイズで、数千年の真実が崩壊するの!? 魔族程度な力は、私の力の生み出した論理に勝てないはず!」



ルーナリアは、自らの魔力で空間の壁を殴りつけたが、その力は信仰の源を失い、見る見るうちに衰えていく。



そして、その空間の壁を、漆黒の王の力が、無理やりこじ開けた。


黒曜が、十六夜を抱きかかえたまま、ルーナリアの前に降臨した。



「貴様の言う真実は、所詮、貴様一人が退屈しないための『論理の遊び』に過ぎん」



黒曜は、ルーナリアの「創造主」としてのプライドを、徹底的に踏みにじった。



「私の妻が作った秩序は、全人類の合理的な生存という、貴様の遊びとは比べ物にならない、絶対的な真実に裏打ちされている。貴様ごとき、遊びに興じる子供の理屈が、本物の秩序に勝てるわけがない」



「馬鹿な……!」



黒曜は、力の衰えたルーナリアの胸元に、魔力で作られた刀を突き立てた。彼女の心臓にあった大きな宝玉が割れた。



「なに!」



それは不老不死の核だったのか、ルーナリアの容姿が崩れていった。ルーナリアが、その絶対的な破壊力によって粉々に粉砕される。



「お前の永遠の支配は、ここで終わりだ」



しかし、黒曜はルーナリアを殺さなかった。十六夜の指示だった。


「待ってください、旦那様」



十六夜は、地面に顔だけが残ったルーナリアを見下ろした。彼女の姿は、以前のような妖艶な美女ではなく、数千年の孤独と虚無を背負った、ただの老女、そして砕けたかけらになっていた。



「貴方の管理能力は、確かに優秀です。ただ、目的が遊びだったことが、貴方の敗因ですわ」



十六夜は、ミゼラの契約の原理に基づいた、新たな魂の契約書をルーナリアの前に差し出した。



「貴方には、世界の情報と魔力循環システムの管理責任者になってもらいます。貴方の体はもういりません。このシステムの生体サーバーとして最適です。永遠に死ぬことなく、永遠にノクティス・ベイルの秩序のために、無償で働きなさい」



これが、十六夜がルーナリアに与えた究極の「ざまあ」だった。世界を支配したかった女が、世界を支配した女王の下働きとして、永遠の労働を強いられる。



ルーナリアは、絶望のあまり、その場で契約を拒否しようとしたが、ミゼラの魔力が彼女の精神を縛り、彼女の傲慢さを打ち砕いた。



「私の……負けよ……」



ルーナリアは、その契約にサインする手がなかった。十六夜は黒曜と二人の力でルーナリアを従属させる魔力を作り出し、契約を無理やりかたどった。世界を裏切った創造主は、秩序の奴隷となったのだ。


黒曜は、妻の完璧な勝利に満足し、十六夜を抱きしめた。



「これで、世界のシステムは完全に我々のものだ」



「はい、旦那様」

十六夜は微笑んだ。



「これで、光と闇の戦いは終わりです。この新しい世界にどのような変化が現れるか。それを楽しみに待ちましょう」



ノクティス・ベイルは、世界の創造主さえも屈服させ、絶対的な秩序を確立した。




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