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第二十四話 殺戮の魔王ヴォルグ



ノクティス・ベイルが確保したリミタージュを結ぶ主要な補給路。この道は、ヴォルグの虚空歩法ヴォイド・ステップによって、すでに寸断されていた。



最新鋭の魔導車両や物資は、突然開いた空間の裂け目に飲み込まれたり、風の刃で細断されたりしていた。彼の狙いは単純だった。


統一を急ぐ十六夜の効率と秩序を、自由という名の無秩序で破壊すること。

荒野に立つヴォルグは、余裕の笑みを浮かべていた。その逆立った銀髪は風もないのに揺らめき、猛禽類のような金色の瞳をしていた。



「ノクティス・ベイルの秩序だと? 笑わせる。俺に秩序なんていらない、必要なのは強さ! 敵を殴る拳だ! 秩序を強いる時点で、それは死だ。俺の速さには、あの重たい闇の帝王も、女王の小賢しい理屈も、到底追いつけやしない!」



彼は高笑いしながら、頭の中で一つの顔を思い浮かべていた。それは、聖女の皮を被ったルーナリアの顔だった。



(あの女……「世界の管理者」気取りのルーナリアの指図は気に入らないが、あいつの情報空間だけは不気味だ。俺の自由を誰にも邪魔させたくはない。あの女が作ったという「光と闇のシステム」の外側に立って、この世界をめちゃくちゃにしてやるのが、俺の真の自由だ)



ヴォルグにとって、ルーナリアは世界をシステムに固定した管理者であり、彼を縛りつけた魔女。最も嫌悪すべき存在だった。しかし、彼女が持つ情報と認識、そして空間さえも操作する力だけは、彼の物理的な速さでは防げない脅威であり、ヴォルグは無意識のうちにその影に怯えていた。


彼の周りの空間が歪む。次の瞬間、彼は数キロ離れた地点に現れ、魔導車両の隊列を風の刃で切り裂いた。



「俺は誰にも縛られん!  あの女の気持ち悪い封印も、闇の帝王の新しい管理も、俺の自由には関係ない!」



ヴォルグが次の襲撃対象として選んだのは、戦略的に重要な魔力燃料貯蔵所だった。彼は高笑いしながら空間転移の準備に入った。



その時、貯蔵所の屋根の上に、漆黒の騎士の衣装を纏ったホヅミがいた。



「止まれ、殺戮の魔王」


ホヅミは剣を抜かず、ただ虚空を見つめていた。その声は静かだが、荒野の風を鎮めるような絶対的な重みを持っていた。


ヴォルグはホヅミを見て、心底愉快そうに笑った。



「なんだ、魔族か? お前、闇の帝王の手のものか……まさか、そのなまくら剣で、俺を捕まえられるとでも思っているのか?」



ヴォルグは挑発するように、ホヅミの背後に一瞬で転移し、風の刃を放った。


ーーキンッ!




ヴォルグの風の刃は、ホヅミの剣に弾かれて霧散した。ホヅミは一歩も動いていない。ただ、風の刃が到達する直前に、最小限の動きで剣を振っただけだ。



「……ふむ。反射神経は悪くないな。だが、空間を無視する速さには勝てまい」



ヴォルグは、ホヅミから距離を取り、虚空歩法を連発する。彼の姿は完全に残像となり、四方八方、時には上空、時には地面の下から、風の刃がホヅミへと殺到した。


「見えるか!? どこが真の俺か、わかるまい!  俺は強いぞ!」



ホヅミは、その猛攻の中、未だ剣を構えたまま、目線一つ動かさない。今ホヅミには黒曜と十六夜から与えられた漆黒の魔力が渦巻き、その身体能力を強化していた。




「貴様の動きには癖がある。そして、空間の歪みが、貴様を次の場所へ誘っている」


目線を逸らさず、静かに答えた。今、ホヅミの目にはヴォルグの動きを捉え、見逃すことはない。



ーーヴォルグの転移は、確かに速い。


しかし、彼の魔力は自由を求めるあまり、無駄に空間を歪ませ、自己顕示欲から次はここにいるぞという痕跡を無意識に残していたのだ。




ヴォルグは怒り、己の最大速度を以て、ホヅミの喉元へ転移した。これが、彼にとっての必殺の間合いだった。



「これで終わりだ! 止まるのが嫌なら、空間ごと消えろ!」



ヴォルグの体がホヅミの目前に実体化した、そのコンマ数秒前。


ザンッ!



ホヅミの剣が動いた。それは、ヴォルグの心臓がある空間へと、垂直に突き出されていた。



ホヅミは、ヴォルグが転移を完了する未来の場所を正確に予測し、剣を先に置いて待っていたのだ。




ヴォルグは、胸部を貫かれる直前で辛うじて転移能力を発動したが、左肩を深く斬り裂かれ、地面に叩きつけられた。




「馬鹿な……! なぜだ! 俺の速度が……強さが、お前に敗れるなど、ありえないっ!」



ホヅミは、血を流し地面に這いつくばるヴォルグの胸元に、冷たい剣先を突きつけた。



「貴様の速さは、単なる逃避だ。そして、無駄なノイズに満ちている。私の剣は、ただ我が王の秩序守る、必殺の一手しか持たない」




ホヅミは、剣を動かさなかった。ただ、その剣が放つ絶対的な静寂の圧力だけで、ヴォルグの傲慢な精神は完全に打ち砕かれた。





「認める。俺の速さは、お前の静寂に負けた……。殺せ」




ヴォルグは、潔く死を受け入れようとした。しかし、ホヅミは剣を引いた。



「殺さない。陛下の秩序は、無駄な命を奪わない」




ホヅミは、通信機を取り出し、十六夜へ連絡を取る。


「十六夜様、ヴォルグを捕らえました」



「よくやりました。連れ帰りなさい、彼には聞くことがたくさんあるわ…」



十六夜の指令は、通信機からヴォルグにも直接響いた。


「くそっ。闇の帝王以外はクソ雑魚なんじゃなかったのかよ…」


ヴォルグはクロガネ特製の魔力制御装置を両腕につけられ、そして足まで拘束された。


「これで十六夜様へ攻撃もできんな」



ホヅミはヴォルグを抱えると、闇に溶け消え、黒曜と十六夜の待つ研究室へ戻るのだった。





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