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第十三話 光の王国の崩壊


ここは、光の王国アストリアの王都中央広場。


かつて聖女の像、古の世界を平和に導いたとされる伝説の聖女が立っていた場所ーーそこは今、怒りに燃える市民で埋め尽くされていた。



広場に設置された魔導映像板には、聖典評議会の最高神官が、豪華な隠し金庫から巨額の黄金を運び出す姿が繰り返し映し出されていた。その下には、「貴方の税金は、この神官たちの贅沢のために使われています」というノクティス・ベイルからの発信による字幕が流れている。


各地の神官たちの汚職が明るみになり、評議会の重役たちは姿を隠した。





「騙されていた! 何百年も、あの光の教義に騙されていたのか!」


「みんなが病に苦しんでいた時に、この金はどこにあったんだ! 闇の王国では、魔族が無料でインフラを提供しているというのに!」



群衆の怒りの矛先は、もはや闇の王ではなく、偽りの光を振りかざした支配者たちへと向けられていた。


一時は、これは嘘だから信じてはいけないと、城の関係者が伝えて回ったが、それが通用したのは最初だけ。


次々に映し出される汚職現場、そして中継される王宮の隠し財産、たんまり仕舞い込まれた金品。


民衆はもう誰の言うことも信じない。全て自分たちの目で確かめるしかないと動き始めていた。


広場の一角では、腐敗した国王の銅像が倒され、光の騎士団の兵士たちが制圧しようとするが、市民の圧倒的な数と、正当な怒りの前になすすべがない。



王都の神殿。

華やかなステンドグラスは砕かれ、かつての崇高な祈りの場は、略奪と破壊の場と化していた。神官たちは恐怖に顔を歪ませ、命からがら逃げ惑う。



「陛下! このままでは王宮も危ないです! 騎士団は市民の鎮圧ではなく、神殿の略奪に加わり始めています!」


最後の忠臣がアストリア国王に進言したが、国王は震えながら、玉座で自らの王冠を握りしめているだけだった。



「聖典評議会め、神の加護はどこへ行ったのだ……ノクティス・ベイルの闇など恐れるに足らないと言ったではないか……」



光の王国アストリアは、外からの武力ではなく、闇の王妃・十六夜が仕掛けた「真実」という名の情報爆弾によって、完全に自壊した。






ーー地の闇の国テルネブラの地下指令室。


指導者ジャンヌと賢者ハドソンは、ノクティス・ベイルとの通信準備が整うのを待っていた。


二人は、壁に映し出された、自国の最新の魔導映像を眺めていた。映像は、わずか数週間前の、砂と穴だらけだったテルネブラの街並みを、驚くべき速さで上書きしていく。



「…信じられませんね、ハドソン」


ジャンヌは、映像に映る光景にため息をついた。


映像の中では、ノクティス・ベイルの技術で生成された闇の魔力炉が、街の地下深くに静かに稼働している。地上に建ち並ぶ粗末だった家々は、クロガネの技術指導により、均質で強固な複合建材で補修・再建されていた。



「光の王国が何百年かけても実現できなかったことが、闇の王の技術で数週間です」



ハドソンは、合理的な瞳に珍しく感情を滲ませた。


「特に、あの水道システムです。以前は水汲みで一日の大半を費やしていましたが、今では各戸に浄化された水が届く。しかも、魔力炉の廃熱を利用した温水まで供給されている。これは、生存率と衛生を劇的に改善しました」



ジャンヌは、かつて迫害され、水も満足に得られなかった日々を思い出し、深く頷いた。



「ええ。そして、以前は常に盗みと暴力に満ちていた広場も、今は違います。ハドソン殿が整備した能力に応じた配給システムと、ノクティス・ベイル流の治安維持により、皆が生存のためではなく、労働のために行動するようになった。『秩序』が、私たちの心を支えているのです」



ハドソンは、自分の技術が正しく、そして自由に機能していることに、深い満足感を覚えた。


「この発展の速度こそが、闇の王妃・十六夜陛下の秩序の正しさを証明しています。腐敗した光の教義の不合理さとは対極にある、究極の合理性です」


その時、カサネからの通信接続音が鳴り響いた。

「さあ、ジャンヌ。報告の時間です。私たちの発展を、陛下に正確に伝えましょう」

ジャンヌは、毅然とした表情で通信に応答した。







ーーノクティス・ベイルの玉座の間。



闇の王妃・十六夜の表情は静かだった。彼女は、カサネからの最新の報告を淡々と聞いていた。



「王妃陛下。アストリアは、完全に自壊しました。情報工作の結果、王室の汚職と聖典評議会の隠し資産が公表され、民衆の怒りが爆発。国王は失脚し、国内は事実上の内乱状態です」




「そして、テルネブラの国境には、アストリアからの貧困層と、現体制に不満を持つ貴族の亡命希望者が殺到しています。ジャンヌとハドソンは、陛下の指令通り、秩序の窓口として彼らを受け入れています」



十六夜は、溜息一つ付かず、冷徹に結論を下した。

「よろしい。武力衝突を避け、自らの偽善で崩壊した無価値な国に、これ以上の時間を割く必要はありませんね。亡命者の保護、そして新しい闇の支配を知らせる準備を進めましょう」



彼女は、テルネブラの指導者ジャンヌへ魔導通信を送るよう命じた。



魔導通信の映像に、テルネブラの指導者ジャンヌの姿が映し出される。彼女の瞳は銀色の髪に縁取られ、疲労の色はあるものの、以前の悲壮感はなく、確かな統治者としての意志を宿していた。隣には、冷静な表情のハドソンが控えている。



「ジャンヌ。アストリアはしばらく放置しなさい。もし戦が起きそうなら、こちらから策を講じます。テルネブラは、秩序を求める者を受け入れる希望の要塞として、その地位を確立するのです」


ジャンヌは、玉座に座る十六夜に対し、深く頭を下げて報告した。




「王妃陛下。ご指示、確かに拝命いたしました。アストリアの混乱は、ハドソン殿の情報工作と、陛下の知恵通りに進んでいます。現在、テルネブラの国境は、亡命者と難民の群れで溢れかえっています」



彼女は、広場の惨状を思い浮かべながら続けた。


「彼らは、飢えた魔族だけではありません。アストリアの貧困層、そして光の教義の腐敗に絶望した下級貴族や熟練の職人たちです。彼らは皆、『闇の王の国は、なぜこれほどまでに秩序と平等なのか』と問い、真の安定を求めて、この地の闇へとやってきました」



ハドソンが、淡々と補足する。


「彼ら亡命者の受け入れと配置には、混乱が生じておりません。クロガネ殿が残してくださった技術と配給システムは、驚くほど合理的です。私たちは、彼らの能力に応じて即座に役職を与え、食料と住居を提供しています。テルネブラは今、能力と秩序こそが唯一の価値となる、ノクティス・ベイルの縮図となりつつあります」



ジャンヌは、毅然とした声で、自らの決意を述べた。


「陛下。私たちは、アストリアの王族のように、決して自国の民を見捨てません。テルネブラは、陛下が仰られた通り、秩序を求める全ての者を受け入れる『希望の要塞』として、その地位を確立します。偽りの光が崩壊する世界の中で、私たちが真の秩序の旗を掲げ続けます」



十六夜は、その報告に満足げに頷いた。彼女の冷徹な戦略は、テルネブラという辺境の地を、世界秩序を再構築するための完璧な実験場へと変貌させたのだ。



情報戦は終結し、闇の王妃の知略の勝利が確定した。しかし、彼女の視線は、既に次の、そして最も強大な敵へと向けられていた。



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