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第十二話 光の騎士団出陣


極秘の面会から一週間、まんを持してカサネの用意した国際魔導通信網を通じ、テルネブラをノクティス・ベイルの衛星国として保護下に置くと公的に宣言した。


闇の魔導装置による最新の技術で、それは一切に、全ての国家に伝達された。


隠れて生活している魔族達はその情報を聞くと、わずかな希望を胸に旅に出る。世界各地に散らばり、苦しくも生きながらえていたもの達には、そこが魔族の最後の希望の地となったのだ。



闇の王妃・十六夜が、外交的なテーブルに「闇の秩序」を叩きつけたその日から、ノクティス・ベイルは世界の注目の中心となった。



この宣言は、テルネブラへの武力介入が即座にノクティス・ベイルへの宣戦布告と見なされる、強固な外交防壁を築いた。





隣国アストリア城は激震していた。


「十六夜め! 闇の王を解放した挙句、今度は魔族の国を支配下に置くつもりか!」


アストリア国王は激昂した。

彼は今までの、光の支配下にあった統治者の前王と親しかった。それゆえに愚かな王子も、十六夜とも話とことのある仲だった。


アストリアは光の支配の中心として世界に君臨し、闇を近くで監視しながら反映してきた国であった。アストリア城の中には玉座と、光の支配者である『聖典評議会』の最高指導者たちの会議の間があった。

彼らの表情は、怒り、そして深い恐怖に歪んでいた。



「テルネブラの魔族が、ノクティス・ベイルの技術で力を取り戻せば、我々が長年維持してきた古の契約の真実が露呈しかねません。闇の王妃は、まさに世界の秩序を破壊する悪魔です!」



彼らにとって、闇の王の解放は、世界の闇が自分たちの国に逆流する恐怖と同義だった。


評議会は、武力制裁を急ぎたい国王に対し、「ノクティス・ベイルの狙いは武力衝突ではないだろう。所詮は子どもの遊び。魔族の地位が確立されればそれで終わりだ」と釘を刺し、水面下での情報戦を開始した。






同時刻、テルネブラでは、急ピッチで「秩序の防壁」が築かれていた。


国家間の城をつなぐゲートがいち早く作られ、二人の技術により秘密裏に、そして急速に国として発達していた。




クロガネ、亡命賢者ハドソン、そして指導者ジャンヌが中心となり、ノクティス・ベイルから運ばれた闇の技術が国内部に組み上げられていく。それは人々の生活を保護し、同時に戦力となっていく。



「クロガネ殿。これが、アストリアの結界術式の最新型です。彼らの魔術師は、いまだに光の教義という不合理な制約の中でしか思考できません。その隙間を突くことができます」




ハドソンは、自らの知識を惜しみなく提供した。


「承知した。技術は、信仰より合理性で勝るでしょう」


クロガネは、ハドソンの情報と闇の技術を融合させ、テルネブラ全域を覆う強固な防御システムを瞬時に構築していく。



人間国家群の伝統的な武力では検知も破壊もできない、不可視の通信網と防御結界が、あっという間にテルネブラを鉄壁の要塞へと変貌させていった。








その頃テルネブラの国境線付近。アストリアから派遣された精鋭の光の騎士団が、侵攻の機会を窺っていた。


彼らを率いるのは、光の教義を深く信奉する騎士団長サー・ガウェイン。



十六夜の発表を聞くよりも早く、魔族の国を滅ぼすべく出立していたのだ。


「斥候は戻ったか? 魔族の抵抗はまともなものではないはずだ。聖典評議会のご指示通り、迅速に鎮圧し、闇の勢力の拡大を防ぐのだ!」


ガウェインは焦燥感を露わにした。

しかし、伝令が蒼白な顔で報告に戻った。


「団長! 偵察部隊が、テルネブラの通信の、傍受手段をすべて失いました! 斥候の魔術師が放った探知結界が、国境線に触れた途端、無力化された模様です! またテルネブラの上空が何かに覆われ、まるで空気が存在しないかのような、不気味な静寂に包まれています!」



副団長が、額の汗を拭いながら声を震わせた。



「馬鹿な。あんな辺境の魔族が、これほどの広域結界を張れるはずがない! 我が国が開発に数十年を要した技術ですぞ!」



ガウェインは双眼鏡を覗き込んだが、テルネブラの領土は、魔力的な光が一筋も見えない、ただの砂漠が広がり、深淵な闇に覆われているようにしか見えなかった。



「ノクティス・ベイルの技術か……。あの闇の王妃め、我々が動く前に、武力ではない、最新の闇の防壁を築きおったのか!」



騎士団の魔導師たちが、国境線に強力な光の破砕魔術を試みた。しかし、その光はテルネブラの国境線に触れた瞬間、エネルギーを吸収されたかのように、ただの熱に変わって消滅した。


「団長! 破砕魔術が効きません! 我々の魔力が、まるで泥の中に引き込まれるかのように、結界に到達する前に消えてしまいます!」



ガウェインは、戦慄した。彼らが考えていた力による勝利は、完全に無意味になったのだ。



「くそ! 全軍、撤退! 無駄な損耗は許さん! あの悪魔たちは、我々の武力を無視できる不合理な技術を持ち込んだのだ! すぐに聖典評議会に報告せよ!」





この話を聞いた、武力での侵攻を考えていた周辺国は、テルネブラからの情報の途絶と、突然の防御力の増大に驚愕し、為す術もなく軍を後退させた。




一方国内、指導者ジャンヌは、ノクティス・ベイルの指導の下で、能力主義と効率的な配給を導入し、国内の混乱を一掃した。彼女の瞳には、かつての絶望は消え去り、秩序ある生存への確固たる意志が宿っていた。



テルネブラは、光の国の貧困層や抑圧されていた魔族にとっての自由と繁栄のモデルケースとして、世界の希望となり始めた。



戦場はテルネブラではなくなった。

防壁の向こう側、アストリア内部へと移った。これこそ闇の王妃・十六夜の真骨頂である情報戦の開始である。



ノクティス・ベイルの執務室で、十六夜は宰相カサネに指令を下した。



「カサネ。ハドソンが持ってきた情報を用い、アストリアの偽りの光の基盤を、内部から崩壊させなさい。針を刺す場所は、最も腐敗している心臓部、聖典評議会の懐がいいでしょう」


「これとこれあたりはいかがでしょうか?」


「いい選択だわ。すぐに取りかかりましょう」







カサネは、闇の王妃の意図を完璧に理解し、情報工作を開始した。






カサネがまず動いたのは汚職のリーク。ハドソンの提供した聖典評議会とアストリア王室による軍事費の水増しと隠し資産の証拠を、国内の商業ギルドや、現体制に不満を持つ貴族層へ極秘裏にリーク。


これにより、王室と神殿の間、そして貴族間の不信感が爆発的に拡大した。




次に手を打ったのが信仰の崩壊、少しずつ揺らぎを起こすことだ。



ノクティス・ベイルとテルネブラの闇がもたらした繁栄を、アストリアの高額な税金と、救われない貧困層の現実とを対比させる情報を流布。可視化して伝聞されやすい新聞として各所にばら撒いた。



民衆の光の教義への信仰は揺らぎ始め、「なぜ闇の王の国の方が豊かになるのか?」という根本的な疑問が、国内を覆い始めた。



アストリアは、ノクティス・ベイルへの武力報復を望んだが、情報線のみで足りるとした評議会とで内部では深刻な内部分裂を起こしはじめていた。力の誇示と、資金の出し惜しみで足を引っ張りあう結果になっていたのだ。



そうこうしている間に民衆の不満が渦巻き、軍を動かすどころではなくなった。十六夜は、武力衝突を避け、敵国を自滅へと誘導したのだ。




ノクティス・ベイルの玉座の間。黒曜は、十六夜の知略の圧倒的な勝利を見届け、深く満足した。


「女王。お前の秩序は、武力よりも遥かに恐ろしい。アストリアは、もはや我々の敵ではなくなる」


十六夜は、冷静に頷いた。


「ええ。アストリアは、自らの偽りの光の重みで崩壊します。ですが、この混乱は、すべて古の契約の真実を隠蔽し、世界中に無秩序な伝統を蔓延させた元凶、聖典評議会の企みによるものです」




彼女の琥珀色の瞳は、遠く、光の教義の中心地を見据えていた。


「アストリアは捨て置きます。私たちの真の標的は、聖典評議会の総本山です。彼らの権力の基盤を破壊しなければ、世界に真の秩序は訪れません」



十六夜は、愛する闇の王を見上げた。


「旦那様。世界秩序の真の根幹を崩すため、我が闇の王の軍団は、聖典評議会の総本山へ向かいます。隠しても無駄ですわ。彼らの持つ闇がこの世で一番暗くて深い。これが、私たちの第二の行進ですわ」



黒曜は、十六夜を力強く抱きしめた。闇の王と女王の新しい時代の行進は、今、世界で最も危険な場所へと向かおうとしていた。




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