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第一話  〜断罪の夜〜



今日のパーティの 舞台は、帝都の精神的な柱ともいえる神聖社殿しんせいしゃでんの、最も奥まった大広間だった。



外観は優雅な和風建築ようでありながら、内部はまさしく西洋のゴシック様式。

高くそびえる天井は黒曜石こくようせきのような光沢を持つ大理石で覆われ、その重厚さが、集まった貴族たちのひそやかなざわめきですら吸い込んでいるかのようだ。


大広間の正面には、巨大なステンドグラスが嵌め込まれている。そこにはいわゆる西洋の神や聖女ではなく、日本の神話に登場するような八百万やおよろずの神々が、洋画のタッチで厳かに描かれていた。

しかし、今宵は月が隠れているのか、その色彩は闇に沈み、影を落とす。

まるで巨大な葬儀場にでもあるかのような、飾り窓のようだ。


そう、ここはこの世ではないどこか、異世界の物語である。




 ✴︎ ✴︎ ✴︎





漆黒の大理石とステンドグラスが、闇夜の薄明かりで怪しく輝き、夜会服の貴族たちを冷たく照らしていた。


たくさんのお客様が集まった今日の催しは、一人で出席することになった。

パートナーである皇子は、私の下にエスコートに来なかった。


――私は今、人生で最も華々しい舞台で、最も醜い役を演じている。


中央には、帝国の皇子のエドワード様がいた。

そして、彼の腕に抱かれ、涙に濡れた可憐な乙女、まさに白百合の花のような女がいる。

その名も白百合しらゆり。そして、その二人の視線の先にいるのが、私、真っ黒な姿の十六夜いざよいである。



皇子エドワードの声が、大広間に響き渡った。

彼の冷たい声は、誰の干渉も許さない、一切の容赦がない響きだった。


「十六夜・ド・カゲツナ! お前は皇族の婚約者でありながら、神聖社殿の秘宝を盗み、あまつさえこのか弱い白百合に危害を加えようとした。その悪行、万死に値する!」



白百合は皇子の胸で顔を伏せているが、その細い指先が、わずかに私の方向を指し示しているのが見える。まるで、心優しき聖女が、悪しき魔女を罰するよう。


「お願い、十六夜様。どうか、罪を認めて……!」



「そう! お前は悪きものとしてこの国を去り、この白百合こそが今日から婚約者としてこの国を守るのだ!」




この国を守る聖女の衣装、真っ白な伝統のドレス。

それは今日の封印の儀式で、婚約者であり聖女として私が着るはずだったものだ。しかしそれを着ているのは彼女、白百合である。



私の下に用意されていたのは、私の髪と同じ、漆黒の鴉のようなドレス。

この国で黒は闇の色として忌み嫌われている。

そう、それは私も含めて。



彼の側に控えている側近たちは皆、もう私の味方ではない。

私を見る目は冷ややかで、助けようと思っている人間などいないだろう。

様子を見ている会場の誰もが笑ってしまうくらい、面白い状況となっているだろう。そう、全てが白百合の思うがままだ。



十六夜はそんな中、穏やかな笑みを浮かべた。



(十六夜の心の声)

本当の罪は、皇子、お前が引き起こした帝都の崩壊だ。

そして、白百合、その無垢な皮を被った毒婦よ。


私は、周囲の失望や歓喜の視線など、どうでもよかった。むしろ、予定通りことが運んだことに、内心でひっそりと安堵していた。

 

この日が来るのを、どれほど待ったことか。








「皇子殿下」

私の返答は、一切の動揺もなく、清々しいほどに澄んでいた。


「誤解なさらないで。私は盗んだのではありません。あれは、私が最も相応しい場所へ運びます。そう、この世の果てへ」


「なんだと! 罪を認めるのか?」


皇子が初めて動揺した。その表情は、私への嫌悪ではなく、「予定外の事態」への恐怖に歪んでいた。


彼は私が許してとすがってくるのを楽しみにしていたのだろう。


対して隣にいる白百合の満足そうな卑しい笑顔。

もうこの2人の顔を見ることもなくなるのかと思うと、なんだか気分がいい。


私は、背筋を伸ばし、社殿の床に深く頭を下げる。


「謹んで、神聖社殿の地下へとお引き取りいたします。さようなら、皇子殿下。そして、どうかお健やかに。貴方がこれから招く『真の破滅』から、どうぞ生き延びて」



大広間から皇子の方へ進む先は、光沢のある黒漆で磨き上げられ、ゆっくりと歩む十六夜の足元を映し返す。その黒い鏡のような床のさらに奥、皇子の玉座の背後に、古びた杉戸の扉がひっそりと佇んでいた。



その扉こそが、十六夜がこれから送られる「呪われた地下の異界」へと続く入口だ。

そこは古来、共存を拒む怪異を封じるために造られた、神聖と怪異の呪詛とが混じり合う場所といわれている。


「私は進んでこの道をゆきます。あなたと一緒にこの先もずっと共にいるなんて、ごめんだわ」




会場がざわめく中、静止する声は一つも上がらない。


今日は陛下も皇后も不在。

二人は今日は気運が悪いため自室に篭ってらっしゃる。

初めて皇子が一人で取り仕切るパーティだったのだ。


補助するのは私だけだが、私はもうそんなことをする必要もなくなる。


身寄りのない私を育ててくれた義父も亡くなり、もう思い残すことはない。



十六夜は軽やかに歩いた。


「それでは皆様、ご機嫌よう。二度と会うことはないかもしれませんね」





彼女の姿は扉の穴へと消え、誰もその扉には近づこうとはしなかった。




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