第9話 神々との交渉と、最初の試練
黄金の空が沈黙したまま、時間が止まったように感じた。
神々の一柱――金色の瞳を持つ存在がゆっくりと降りてくる。
翼でも、影でもない。光そのものが形になって、目の前に立った。
「……あなたが、“間違いの王”ですか」
声は柔らかい。だが、言葉の奥に、天地を揺るがす力が潜んでいた。
俺は答えた。
「違う。ただ、間違えることを恐れないだけだ」
神はわずかに目を細める。
「あなたの“共鳴”の力が、天界の秩序を乱している。
すべての命が“ひとつの意志”で繋がるなど――危険です」
「危険なのは、分けて支配することだろ」
俺の声に、背後でアビスが笑う。
「主殿らしい返しです」
神はしばらく黙り、やがて告げた。
「……ならば、見せてください。
“間違い”が本当に価値を持つのかどうか」
地面が光り、円環の文様が浮かぶ。
「第一試練――“心を分ける鏡”。
あなたの内側にある恐れと向き合わせましょう」
その瞬間、景色が崩れ、世界が裏返った。
目の前に、もう一人の自分が立っていた。
同じ顔、同じ声、だが瞳の奥が違う。
「……お前は?」
「俺だよ。
本当は、誰も救えなかった“弱いほうの俺”さ」
アビスもセリアもいない。
静寂の中、もう一人の俺が微笑む。
「お前が“間違い”を選ぶたび、誰かが泣いた。
本当に、それを正しいと言えるのか?」
喉の奥が痛む。
でも俺は、ゆっくりと拳を握った。
「……言えるさ。
泣くことも、立ち止まることも、“生きる間違い”の一部だ」
鏡の中の自分が笑い、やがて光に溶けて消えた。
再び現実の光が戻る。
神が静かに告げた。
「あなたの“恐れ”は見ました。
次は、“他者の間違い”を受け入れられるかどうか――それが第二試練です」
「受け入れる?」
「はい。あなたが救えなかった者たちが、あなたを試すでしょう」
光が薄れ、空が再び朝焼けに染まる。
俺は小さく息を吐いた。
「……神の試練ってやつは、性格悪いな」
「主殿、世界を変えた報いというものです」
「だったら、全部受けてやる。間違いながら、な」




