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第2話 王都が俺を捜しているらしい

 「おい、聞いたか? 勇者一行が全滅しかけたらしいぞ」

 朝の市場で、行商人たちの声が飛び交う。


 俺は木箱の上で干し肉を切り分けながら耳を傾けた。

 勇者レオンハルト――かつて俺を追放した男。

 その名前が、今さら辺境まで響いてくるなんて。


 「……へえ。俺を切った直後にそれか」

 アビスが鼻を鳴らす。

 黒狼の姿から人の形に変わり、腰まで伸びた黒髪を払いながら言った。


 「愚か者ども。あなたがいなければ勝てるはずがありません」

 「いや、まあ、俺がいなくても大丈夫って思ってたんだろうな」


 皮肉を笑いに変えた、その瞬間。

 村の門が開き、金色の鎧をまとった騎士が馬を駆けてきた。


 「魔物使いレオ・クロード殿はいらっしゃるか!」

 周囲がざわつく。

 まさか、この辺境まで王都の使いが来るとは。


 俺はため息をついた。

 「なんの用だ?」


 騎士は深々と頭を下げる。

 「勇者レオンハルト殿が戦場で消息を絶ちました。……救援を要請いたします!」


 周囲が凍りつく。

 俺を追放した張本人が、今度は助けを求めている?


 アビスが小さく笑った。

 「愉快ですね。どうされます?」

 「決まってる。行くさ」


 俺は立ち上がり、肩に黒いマントをかけた。

 「“間違い”を、もう一度試すチャンスだ」


 荒野を抜け、焦げた草原にたどり着いたとき――。

 巨大な魔龍が勇者パーティを焼き尽くしていた。

 地面には倒れた戦士たち、盾も剣も溶けている。


 「おい、あれは……」

 アビスが低く唸る。

 「B級どころじゃねえな。Aを超えてる。……アビス、行けるか?」

 「もちろん」


 黒い風が舞い上がる。

 アビスが本来の姿――漆黒の魔狼へと変じた。


 俺はただ一言、口にした。

 「“眠れ”」


 空気が震え、音が消えた。

 魔龍の紅い瞳が濁り、次の瞬間、巨体が地に伏した。

 ――一撃。


 「な、なんだ……いまの……?」

 勇者が泥にまみれた顔を上げて、俺を見た。

 信じられない、と言いたげな目だ。


 俺は無言で肩をすくめる。

 「命令を間違えただけだよ。……前と同じように」


 勇者の唇が震えた。

 「すまなかった……お前を追放したのは――」

 「謝るな。俺はもう、あの頃の“使われる側”じゃない」


 アビスが立ち上がり、赤い月を背に吠える。

 その音に呼応して、周囲の魔獣たちが跪いた。


 「……なんだ、これ……」

 騎士のひとりが震え声で呟く。

 俺は答えた。


 「使い方を、ちょっと間違えてるだけだよ」


 翌日、王都では新たな噂が広がった。


「追放された魔物使いが、一人で魔龍を倒したらしい」

「勇者を救ったのも、あの“間違い魔物使い”だと……」


 俺は火を囲みながら、干し肉を噛む。

 アビスが隣で笑う。

 「王都が騒がしいようですね」

 「ああ、また面倒が来そうだ」


 ――だが、もう隠れる気はなかった。

 “間違い”が、俺を最強にしたんだ。

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