第11話 神殺しの剣と、“最後の間違い”〈第2部〉
光と闇が衝突した瞬間、世界が鳴った。
耳ではなく、魂が震える。
主神の剣と俺の刃がぶつかり、無数の光の粒が空へ舞う。
アビスの声がかすかに届いた。
〈主殿、もう限界です……〉
「まだだ。――もう一度、間違えさせろ」
俺の中で、声が重なる。
“助けてくれた”“一緒に生きた”“もう一度笑いたい”――
かつて“間違い”と呼ばれた存在たちの願いが、すべて溶けていく。
黒い剣が、金の光を呑み込んだ。
刃が砕け、光が散る。
俺の腕も、意識も、崩れていく。
それでも、前に進んだ。
「――これが俺たちの答えだ!」
光が止んだ。
剣先が主神の胸元に触れた瞬間、時間が凍った。
主神は何かを言おうとして、微笑んだ。
〈……人よ。お前の“間違い”は、世界を動かした〉
そして、自らの剣を地に落とした。
光の鎧がひび割れ、神の姿が崩れる。
〈我らは長い間、正しさを護るあまり、間違いを許すことを忘れていた〉
「それは俺たちも同じだ」
〈ならば、これでいい。……正しさを分け合うのだ〉
主神の身体が霧に変わり、風に溶けた。
光が降り注ぎ、空の裂け目が閉じていく。
――静寂。
足元の大地が戻り、空は穏やかな青を取り戻していた。
遠くでアビスが姿を現し、セリアが駆け寄る。
「レオ……!」
彼女の瞳が潤む。
俺はかすかに笑った。
「間違えすぎて、もう何が正しいのかわからないな」
「それでいいじゃないですか。
――あなたの“間違い”が、この世界の正解です」
その言葉に、ようやく肩の力が抜けた。
空の高みで、ひとひらの羽が舞った。
黒と金の混ざったその羽は、風に乗り、光の海へと消えていく。
アビスがその行方を見つめながら、静かに言った。
「主殿。神が消えたのではありません。
――あなたが、彼らと“同じ高さ”になったのです」
俺は空を見上げた。
「なら、次は間違いだらけの世界を、ちゃんと守らないとな」
風が吹き抜け、白い羽根が再び空を舞う。
セリアが微笑み、アビスが静かに頷いた。
こうして、“神殺し”は終わった。
けれど、俺の“間違い”はまだ続く。
(→ 第12話「間違いの果てで、また君と」へ続く)