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追放された白雪姫ですが、森の雑魚配信者7人と組んでバズったら、王妃の裏アカが特定されてざまぁな件

作者: 小鳥遊ゆう

発端は、一台のタブレットに映し出された、あるまじき数字だった。


王妃は自室のふかふかソファで、SNSの画面を睨みつけていた。みんなの食いつき度、どれだけ見られたかの回数、フォロワーの伸び。あらゆる項目で、たったひとつのページが、ありえないスコアを叩き出していた。


ページ名、『白雪姫』。


陶器のような肌に、漆黒の髪。そのプロフィール写真は、計算され尽くした光と影の芸術品アートだった。王妃にとって、それは単なるムカつく相手ではない。自分がコツコツ築き上げた『いいね至上主義』という平和を乱す、とんでもないイレギュラー。それが、白雪姫という名のバグだった。


「この世で一番イケてるのは、だあれ?」


かつて、その問いに信者たちは「王妃様しか勝たん!」と即答したものだ。だが、ネットの流行りという気まぐれな神様は、今や別の名をささやいている。


ーーこの国で最も『いいね』を稼ぐのは、白雪姫です!


王妃の顔から、表情が消えた。スマホを握る指が、ミシミシと音を立てる。物理的な排除の前に、まず社会的に抹殺する。それが現代における王道だ。現代淑女のお作法だ。彼女は静かに、しかし猛烈な速さでフリック入力を始めた。壮大なる嫌がらせが、今、幕を開ける。





王妃は、姑息なことに関しては頭が回るタイプだった。絶対に身元がバレないと噂の、怪しい忍者アプリを起動。ネットの隠れ蓑を幾重にもかぶって、誰にもバレないヒミツのページを複数こしらえた。彼女のスキル【情報工作 Lv.78】が、水を得た魚のように発動する。


『【超絶悲報】清純派で売ってる白雪姫、城の備品をメルカリで売りさばいてた疑惑』

『【ガチ告発】動物好きアピ、全部ウソ。カメラ止まれば子猫ガン無視』


悪意という名のスパイスをたっぷり効かせたデマ。それは瞬く間に、ゴシップ好きの巣窟へと拡散された。仕上げに、王妃は伝家の宝刀を抜く。スキル【ウソ写真作り(画像捏造) Lv.99】。


白雪姫のキメ顔写真を取り込むと、プロでも見破れない絶妙なサジ加減で、顔をイジっていく。目尻をコンマ1ミリ下げ、口角をありえない角度に歪ませる。それだけで、写真は「天使の微笑み」から「何か企んでる女の顔」へとクラスチェンジした。


『#これが無加工の現実』


そのハッシュタグは、凄まじい勢いで拡散した。白雪姫のページには、悪口の集中砲火が浴びせられる。彼女の特殊能力【みんなの気持ち、わかるよー】は、良いコメントも悪いコメントも、心のHPにダイレクトヒットしてしまう。誹謗中傷という名の連続攻撃を受け、彼女のメンタルは風前の灯火だった。


それでも、白雪姫を信じるガチ勢は強かった。彼女の人気は、まるでゾンビのように復活してくる。ネットでの炎上作戦だけでは限界だと悟った王妃は、次のステップに進むことを決めた。リアルでの攻撃だ。


彼女が白羽の矢を立てたのは、大手IT企業をリストラされ、今は細々とアフィリエイトで糊口をしのぐ中年男性だった。


「あの小娘を森の奥へ。二度と私の視界に入れるな」


王妃が彼に突きつけたのは、USBメモリだった。中には、彼が青春時代にネットの海に放流した、おびただしい数の黒歴史データ――中二病全開の痛すぎる自作ポエム、愛を叫ぶオリジナルソング、キメ顔でキメ台詞を囁く意味不明な動画――がぎっしりと詰まっていた。


「もし失敗したら、これ、世界中にバラまくから」


男は、地球が終わるかのような顔で頷いた。





男に森へ連れていかれた白雪姫は、しかし冷静だった。おもむろにスマホを取り出し、男に持ちかけた。


「このフォルダ…私の未公開キメ顔コレクション、全部あげます!」


だが、男の心が揺れたのは、そのコレクションが目当てではなかった。白雪姫が彼に向けたスマホの画面に映る、自分の姿に衝撃を受けたのだ。


「え、誰これ……俺、こんなにイケてたっけ?」


彼女のスキル【神眼:黄金角ゴールデンアングル】は、被写体のポテンシャルを120%引き出す奇跡の画角を瞬時に見抜く。しかも自動発動型だ。自分でも知らなかったイケてる姿に感動した男は、白雪姫を放置して、夜の蝶を口説くため銀座へBダッシュした。


森を彷徨う白雪姫がたどり着いたのは、小さなログハウスだった。中では7人の若者たちが、小さなテーブルを囲んで、死んだ魚のような目でうなだれていた。


「動画の再生数、昨日から2しか増えてない…」

「僕のゲーム実況、コメントが『草』しかない…」

「この咀嚼音、ASMRじゃなくてただの食事風景…」


彼らは、それぞれが有名人になることを夢見る、崖っぷち配信者集団だった。白雪姫は事情を説明し、彼らのチャンネルをプロデュースすることを約束した。伝説のチーム『セブン・ドワーフ・クリエイターズ』が結成された瞬間である。


白雪姫のプロデュースは、まさに神業だった。彼女の指導で、7人の動画は面白いほどバズり始める。彼女の的確なアドバイスにより、7人のチャンネルは驚異的な速度で成長。ゲーム実況者はキレのあるリアクション芸を身につけ、料理動画の男はシズル感満載の映像を撮れるようになった。白雪姫は、いつしか界隈で『謎の天才仕掛け人S』と呼ばれるようになっていた。





白雪姫がまさかの復活を遂げ、しかも前より人気者になっている。その事実は、王妃の怒りを沸点越えさせた。もう我慢の限界。王妃は最新の変装アプリ【ディープフェイク・マザー】を起動し、人の良さそうな老婆の姿になると、自ら森へ向かった。


「おや、かわいいお嬢さん。このリンゴ、食べないかね? 青森の農家さんが、ラブラブパワーを込めて作ったオーガニックスーパー青森デラックスリンゴじゃよ」


差し出された真っ赤なリンゴ。その中には、飲むだけで自我を一切合切消し去るという、超ヤバいツブツブが、びっしりと注入されていた。


「わあ、SNS映えしそう!」


白雪姫が、オーガニックスーパー青森デラックスリンゴを無防備にかじった瞬間、彼女の意識はプツリと途絶えた。


白雪姫が死んだと思った仲間たちの、涙の追悼ライブ配信。


それをたまたま見ていた、隣国のなんかすごそうな会社の社長がいた。部下に「王子」と呼ばせる痛い男。


彼は白雪姫の美しい死に顔ではなく、その背景に映る機材のセッティングが完璧なことに気づいた。


「この機材……素人じゃない。この子は、ネットの海で輝くべきだ!」


王子は即座に会社へ戻ると、自慢の高性能パソコン『神の計算機』を起動。白雪姫の脳みそに無線でピッ!とアクセスし、体内にいる謎のツブツブを発見。光の速さで、それらを無力化する解毒ソフトを送り込んだ。


白雪姫は「へっくしゅん!」という大きなくしゃみと共に、何事もなかったかのように復活した。





「さて、やり返しますか」


復活した白雪姫と王子、そして7人の仲間たちは、王妃の悪事を暴くための証拠探しを始めた。それはもはや、復讐劇ではなく、緻密なミステリーの謎解きパートだった。


デジタル・フットプリントの検出:王妃は裏アカウントでの投稿時、VPNの暗号化設定をひとつ間違えていた。これにより、彼女の王城で使われている固定IPアドレスの痕跡が、ログの片隅に記録されていた。


行動パターンの分析:王子が開発したAIプログラムが、王妃の本アカウントと裏アカウントの投稿を解析。タイピングの速度、句読点の使い方、誤字の癖、さらには使用する絵文字の偏りまでが、98.7%という驚異的な確率で一致した。


決定的物証:チームのメンバーの一人が、過去の王妃の投稿画像を徹底的に検証してみた。王妃が自室で撮影した写真の、鏡の隅に、ほんの一瞬だけ、変装アプリ【ディープフェイク・マザー】の起動アイコンが映り込んでいた。


これらの証拠と検証結果は、『セブン・ドワーフ・クリエイターズ』の生放送で全世界に向けて配信された。


『#王妃の裏アカを特定してみた』


その配信は、歴史に残るレベルで大炎上した。


「性格終わってて草」

「フォロワー、金で買っただろw」

「情報工作乙」


王妃のページは非難の嵐で埋め尽くされ、スマホの通知は壊れたように鳴り続けた。


スポンサーは光の速さで逃げ出し、フォロワーは、我先にと王妃をアンフォローしていく。


信じていた「数字」に見放された王妃は、たった一人、城の部屋の隅で膝を抱えるしかなかった。しかし、ネットの海に刻まれたデジタルタトゥーは、決して消えることはない。


事件は、終わった。


白雪姫は王子と共に、SNSの健全な利用を啓発する団体を設立し、チート級の自撮りスキルで、今も世界を魅了し続けている。




めでたし、めでたし?



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