#AI生成
初めて書いた小説です。
見苦しいとは思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
2026年8月14日、某動画投稿サイトにてある動画がアップされた。その動画には#AI生成と書かれている。
2025年あたりから多くのAI生成動画が投稿され始めた。最初こそはAI独特の動き方から、現実と見分けることは可能であったが、次第に技術は大きな進化を果たし、今となっては現実との見分けはつかず、「#AI生成」といつハッシュタグだけが、AI生成動画を見分ける唯一の手段である。
「やめて!やめてください!!」
その動画は、刑事ドラマの殺害シーンをAIで再現した物であった。ドラマさながらのリアルさと、AIが生み出す見事な女の緊迫さにより、私は動画に惹きつけられ、見入って行ってしまった。
「いやあ゛あ゛あ゛ああ!!いたいっ!いだぁい゛っ!!」
女は男に包丁でザクザクと刺されていた。女の叫び声はAIにしては上出来で、音程は少しおかしかったが十分にリアルであった。元々刑事ドラマや医療ドラマが好きなのもあって、私はグロい映像には慣れていた。AIだからかドラマとは違う血の感じの気がするが、言うほどの違和感は無い。
それにしてもその殺されている女は、動画越しの私が一瞬で見惚れるほどの美人であった。口元には小さなホクロが二つ付いていて、細く美しい両手には、左手の薬指と右手のな中指にそれぞれ金色の指輪がはめられていた。これが本物の女優だったらどんなに良いものであっただろう。
女は次第に叫ぶ気力も無くなり、息も絶え絶えになった。男はどこからかノコギリを取り出し、麻酔も無しにギコギコとその女の左腕を切り落とし始めた。あまりにも壮絶な光景に、グロ耐性のある私も思わず吐き気を催した。しかし、動画を見ることはやめられない。
男が腕を切り終えると動画はプツンと切れて、男が女を車に乗せている映像に切り替わった。
その男は女を車に乗せると、車でどこかに移動し始めた。ふいに見えた標識には「長野県」という文字と「■■山」という文字がみえていた。細かい所までAIは丁寧だな、と感心しているとまた映像は移り変わった。
ミーンミンミンミーンとセミの声が響いていて、動画越しでも、夏の暑苦しさが伝わってくる。
女はあらかじめ掘られていた大きな穴に放り込まれ、少しずつ土をかけられていった。少しずつ少しずつ土をかけられていくその女は、眠れる森の美女のように麗しかった。やがてその顔にも土がかかり、全身が土に埋められた。
すると信じられないことが起きた。土の中から女の右手がガバッと土から飛び出したのだ。AIの考える女というのは、どれだけ生命力が強いというのだ。まるで刑事ドラマからゾンビ映画に変化を遂げたその動画は、独特な面白さを持っていた。
「う゛ぅう゛う゛ぅぅぅぅ……」
女が漏らしているであろうその声は、地響きのように低く、恐ろしく感じられた。画面の男は必死にその腕を押さえ込み、女を殺すことに必死な様子だ。慌てる男の動きがあまりにもおかしくて、女のリアルさに怖気付いた私も思わず笑みが溢れる。
私は結局1時間もの長さであった動画を全て見終えてしまった。しかし、何とも言えぬ満足感で満たされた。その後、私は何度もその動画を部分的に見返したりして楽しんでいた。しかし、ある日突然その動画は削除され、見ることができなくなってしまった。
私はそれなりにがっかりしたが、時が経つに連れてその動画のことは忘れていった。
丁度、初めて動画をみてからちょうど1年後のことだ。
長野県■■山で、左腕が欠損した死後1年の女の遺体が発見されたとテレビで報じられたのは。
「#AI生成」という皮を被った残酷な殺害の様子をSNSにて投稿した物好きで凶悪な殺人犯は、今もなお彼女の左腕と共に見つかっていない。