表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/27

第18話 第2王子の入場

第18話の修正、完了しました。(4月3日記入)

(見られている)


 舞踏会の会場に足を踏み入れると、ざわめきが広がるのがわかった。

 男性たちは礼儀正しく会釈をし、女性たちは優雅に微笑みを浮かべている。

 しかし、ローズの体は硬直してしまう。

 多くの視線には、覚えのある視線があったのだ。

 期待、落胆、そして失望。

 彼女がずっと感じてきたものだった。


(また比べられるのかな……)


「……大丈夫か?」


 ヴァルセンはその微細な変化を見逃すことなく、ローズに声をかけた。


「す、すみません」


 その声はまるで、自分の内心を晒け出すかのように震えていた。


「今までこんなに注目を浴びることがなくて……。少しだけ緊張してしまったみたいです」


 ローズはぎこちなく微笑み、顔を上げてヴァルセンを見た。

 彼はローズとは違い、落ち着いた様子でいた。

 この場の誰の視線にも動じない堂々とした振る舞い。

 世間からの評価は呪われた王子。

 だが、この姿こそがヴァルセンの本来の姿なのだろう。


「……驚いたな」


 ヴァルセンが不意に呟いた。


「え?」

「まさかお前が、こんなことで緊張するとは思わなかった」


 ヴァルセンはローズを見つめる貴族たちを見渡した。

 その中にはもちろん、リリィの姿もある。

 彼女は、穏やかな微笑みを浮かべていた。

 しかし、それが周囲の人々にローズへの敵意を悟られないようにするという、表面的なものだと、ヴァルセンはすぐに気づいた。


「……」


 ヴァルセンは一瞬だけ考えるような素振りを見せた。


「この場で言うべきことではないだろうが……」

「……?」


 そして、ローズの耳元に顔を近づけると、ゆっくりと口を開いた。


「前に、お前の妹が感情を剥き出しにしたことがあっただろう」

「は、はい」

「お前の妹は、明らかにお前に対して敵意を持っている」


 そう言って、ローズはヴァルセンの視線の先を辿った。

 そこには、酷く冷たく、鋭い視線を向ける妹の姿。

 握りしめられたワイングラスは、プルプルと震えていた。


「……」


(リリィ、わたしのこと……)


 ローズは今まで、気づかないふりをしていた。

 いや、本当はずっとわかっていたのかもしれない。

 自分が妹に嫌われているということを。


(昔は、あんな目を向けられることはなかったんだけど……)


 いつから、リリィに嫌われてしまったのだろうか。

 心の奥がじくじくと痛むのを押し殺そうと、ローズはそっと目を伏せた。


「気にするな」


 ヴァルセンは、ごく自然な動作でローズの手を取った。


「この場では、お前は誰よりも堂々としているのが正解だ」

「堂々と、ですか」

「あぁ。お前が堂々としていれば、誰も余計な詮索をしない。それに、お前の妹もよほどの衝動に駆られなければ、公の場で何かを仕掛けることはしないはずだ」


 それは、貴族社会で生きる術だとでも言うように、ヴァルセンは静かに言った。


「……」


 ローズは視線を落とし、自分の手元を見つめる。

 震えていた指先は、ヴァルセンの手によってしっかりと支えられていた。


「……そうですね」


(今のわたしは、ローズ・ブランシュ。リリィの影に隠れて縮こまってばかりの劣等聖女じゃない)


 ローズは静かに息を吸い、背筋を伸ばした。

 微笑みを浮かべると、視線を上げる。


「頑張ります」


 ローズがそう言うと、ヴァルセンはわずかに口角を上げた。


「……それでいい」


 そのときだった。

 会場の奥にいる楽団が荘厳な旋律を奏で始めた。

 静かだった広間が騒めき、一瞬にして空気が張り詰める。


「国王陛下と王妃陛下。そして、第二王子、アルバ殿下のご入場です!」


 高らかに響き渡る侍従の声に、人々は一斉に動きを止めた。

 貴族たちは所作を正し、恭しく頭を垂れる。

 ギィ、と音を立てて、重厚な扉がゆっくりと開かれた。

 金刺繍の施された深紅の正装を纏い、堂々たる風格を持つ国王。

 その隣には、気品漂う美しい王妃が静かに微笑んでいる。

 そして、二人の一歩後ろを進むアルバ。

 彼の月光を思わせる銀の髪が、燭台の明かりを反射して輝く。

 端正な顔立ちには幼さが消え、どこか大人びた威厳が漂っていた。


(さすがは王族……)


 ローズは彼らの持つ気品と威厳に、ただ圧倒されるばかりだった。

 緊張感の張りつめた空気の中、檀上に立った国王がゆっくりと広間を見渡して口を開いた。


「顔を上げよ」


 国王の声に従い、貴族たちは静かに姿勢を正した。

 ローズもそれに倣い、顔を上げる。

 重厚な雰囲気が広間全体を包む中、国王の低く威圧感のある声が広間に満ちた。


「この場に集った者たちよ。今宵は、我が息子アルバの成人を祝う特別な夜。存分に楽しむがよい!」


 その言葉と同時に、楽団の奏でる音楽が華やかに響き渡る。

 貴族たちは優雅に所作を整え、各々の会話を再開し始めた。

 使用人たちはワインや軽食を載せた銀のトレイを手に動き回り、舞踏会が本格的に幕を開けた。

 ローズは静かに息を吐き、場の空気を肌で感じ取る。


(……やっぱりすごいなぁ。この場にいるだけで、息が詰まりそう)


 ヴァルセンの隣に立つローズは、絶え間なく多くの者に注目されていた。

 彼女の存在がどのような意味を持つのか。

 それを詮索しようとする視線が、あちこちから向けられている。


(ここで動揺したら、リリィの思う壺……)


 ヴァルセンの言葉を思い出す。

 ──この場では、お前は誰よりも堂々としているのが正解だ。


(そう、堂々と)


 リリィが何を考えていようと、この場では余計な感情を見せるべきではない。

 妹の視線を真正面から受け止めたまま、ゆっくりと視線を外す。

 舞踏会の華やかな景色へと意識を向けると、周囲で交わされる囁き声がローズの耳に入る。


「アルバ殿下のお相手は、どなたでしょう?」

「やはり、ピオニー嬢? それとも、リリィ嬢かしら?」

「どちらであっても、美しいことには変わりないわ!」


 確かに、この場でアルバが誰をパートナーに選ぶのかは、大きな関心事なのだろう。

 第一舞踏曲は、王族かそれに準ずる身分の者が踊るのが習わし。


「……あっ! アルバ殿下のお相手は、リリィ嬢よ!」


 彼女らの視線の先には、アルバとリリィの姿。

 リリィは上品な微笑みを浮かべながら、差し出されたその手を取った。


「では、第一舞踏曲を始めよう」


 国王の合図と共に、二人を中心にした優雅なダンスが始まる。

 音楽が徐々に高まり、それに合わせるように他の貴族たちも舞踏の輪に加わっていく。


「……お前も踊るか?」


 ヴァルセンがローズに視線を向ける。

 彼の瞳はいつもと変わらず静かで、それでいてどこか試すような色を宿していた。


「無理にとは言わん」


 ヴァルセンのその言葉には、彼なりの気遣いが含まれているように感じた。


(この場で引いたら、きっと後悔する)


「……ヴァルセン様、少しだけお付き合いいただけますか?」


 ローズはヴァルセンに手を差し出す。

 彼はわずかに目を細めると、その手を取った。


「あぁ」


 二人は、舞踏会の輪の中へと足を踏み入れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ