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然し、其の傷は癒えぬまま

「……意気込んではみたものの。とにかく、元の世界で何があったか。この世界はどうなっているのか。この2点が分からないことにはなーんにも出来ませんわ!」


「あー、わかってる。ちゃんと1から話すから待ってくれ。」


嘉数を含め、周りの人々に次々と情報をぶち込まれすぎて愛上は若干パンクしていた。


「ところで、あとどれくらいかかりそうですの?」


「ゆっくり話すとまとめまくっても1日。ざっくり話せば1時間もかからないさ」


「ざっくりでお願いしますわ」


迷う余地もない即答だった。

そんなに時間を使われたらやれることも減ってしまうかもしれない。


「んじゃざっくりいくぞ。まず、この世界はお察しの通り俺らが散々弄ってしまった、いわば『壊れた異世界』だ。元々どんな進化を辿る予定だったかはもう分からないが、少なくともこうなる予定じゃなかったことは確かだろうよ。」


「まあ、そうですわね。やらかしすぎですわ。」


「んで、元の世界での話だ。イライザ……ジェニーの想い人が死んだってのはマジだ。だが、死に方が違う。」


嘉数(あなた)に迫られて、転落死…でしたっけ。さっき説明されたのは。」


「ああ。それも間違いってわけじゃない。それはこの周期のこの世界の真実だ。この辺はあとで話すよ。ともかく、彼女はもっと酷い死に方をしている。」


「もっと、酷い?」


「ああ。ジェニーと帰り道を別れた瞬間に、トラックに撥ねられて即死だった。アイツはそれを目の前で見てしまっている。」


転落死、事故死。

どちらにせよ不慮の事故という事実は変わらないのかもしれない。

だが、目の前で想い人が亡くなったとなれば。それは想像に耐えないものであることは容易に理解できた。


「あいつな、意気込んでたんだ。よりによって事故が起こる日に、『今日の帰りに告白しようと思っている』ってさ。普段自分から話に来ないのに、わざわざ俺らに宣言したんだ。」


周りの人達が口々に話し始める。


「ええ。ライバルにもならないだろう女の私にも律儀に話に来てたわ。」


「俺らも言われてた。全員に行ってたんだろうな。」


「彼女、皆から好かれてたしね。そんな彼女が好きだったのがジェニーだって、本人だけが気づいてなかったけど。」


聞けば聞くほど、その光景が頭に浮かんでくるようだった。

いつもは話さないで黙々と研究と問題解決に勤しんでいる男子が、勇気を出して想いを伝える瞬間。

きっと、皆に言ったのは宣言もあるが自分の逃げ道を塞ぐ意味もあったのだろう。

そうして、勇気を出した日に。


「……酷い事故、ですわね。」


「ああ。本当に、酷いものだった。そこからアイツは、段々とおかしくなっていったんだ」


「おかしく…?」


「自分から話をすることなんて殆どなかったアイツが、やけに社交的になって。自分をひけらかすように立ち回り始めたんだよ。」


「……また、どうしてそんな?」


「わからん。だが、そんな折だった。異世界の話が世界中に広がったのは。」


「アイツはさっさとこの世界に行くことを決めていた。俺達はあんな状態で放っておかなかったんだ。」


「それで、この世界に?」


「ああ。そして、この世界においてもアイツは変わらなかった。以前と違う性格でどんどん研究を進めていったんだ。」


「自分の死に場所を求めて…ですの?」


「少なくとも俺たちにはそうとしか見えなかった。俺たちに出来るのは引き留める事じゃなく、別のことをさせる先延ばしの行為……それだけだったんだ。」


そこまで話したところで、スピーカーの電源が入った音がする。


「あー、あー。聞こえてるかな。うん、よし。聞こえてるね。」


スピーカーから響くのはジェニーの声。


「さっきから聞き耳立ててみればアレコレ言ってくれてるね。君達の作った通信機器なんて僕が聞けないと思ったの?」


呆れたような、小馬鹿にしたような口調で語り出す。


「第一、この世界はもうそろそろ用済みだ。今度こそ、僕は間違えない。もう失わないんだ。」


「何を言ってますの!?言ってる意味が分かりませんわよー!」


「君達を捕らえておいたのは、この世界を簡単に終わらせないために過ぎない。彼らが言っていただろう?この周期の世界がどうとかって。」


まだそこの話詳しく聞いてない……という言葉をグッと抑え込み、愛上は神妙な面持ちでカメラの方を見る。

内心何も分かってないしもう少しちゃんと説明して欲しいと心から願いながら、今言うべきじゃないなと空気を読んでいるのだ。


「……ええ!そうですわね!」


「君がその感じでいくなら説明省くけど。」


今度は声の方が戸惑い始める。

『そんなこと言われても分かりませんわ!!』くらいの返答を彼は期待していたのだ。


「なら説明してくださいまし!!お願いしますわ!」


「君、中々我が道を行くタイプだよね。まあいいけどさ。」


最初に会った時の煩さはどこへやら。すっかり落ち着いた対応で語り始めた。


「この世界は既に数回のループを繰り返している。不死故にその記憶を持ち続けているのが、ここの住人たちってことさ。僕ら以外は……不死を受け入れられずに死んでいったけどね。」


「ループ?この世界を?」


「ああ。きっと嘉数たちはこう考えたんだろう。『ジェニーの研究が上手くいけば、それを糧にして僕も前を向ける』ってね。」


淡々と、台本を読むように語り続ける。


「ループの構造は単純だ。世界の移動が出来るというこの機械。同じ時間に、偶然人々が集まるはずがないだろう? つまり、この機械は『異世界転移』だけでなく『時間の指定』も出来ているということだ。俺の研究が行き詰まったり、資材が不足したならそうやって同じ世界を時間指定で戻るだけ、ってことさ。」


愛上も自然に受け入れていた、途中参入してくる人が居ないという事実。

過去に人がいた形跡が無く、かつ途中でも訪れないのは偶然の可能性ももちろん高かった。なにせ時間が短すぎる。

だが、予め世界によって時間が指定されていて……同じスタートを切ることが決められていたのなら。その理論は通っている。


「ああ、合ってるさ。俺たちも皆それに気づいた。そして、立候補した1人を記録役に任命したんだ。例外的に、同じ世界に転移しようとすると記憶の保持の有無を聞かれるんだ。開発者は元からこの使い方を想定してたみたいでな。それの『YES』『NO』で記憶の保持は簡単にできちまったんだ。」


「うん、それで全ての記憶を持ってきているのが僕ってわけだよ。」


そう答えるのは3号。


「3号である今期は3ループ目ってことだね。時間にして何年だろう。ループするまでの時間はまちまちだから……」


人の死をループ元としたとしても、数百年。

まして死を乗り越えた人々であるならば、それは数千年以上に及ぶだろう。


「貴方達…一体どれだけの時間を……」


「ループを感じているのは俺たちの中では3号だけだ。俺たちは今、1周目の気持ちでしかない。あくまで説明されて、理解しただけの人間だ。」


「いつか、あいつの心が癒える日が来るまで。皆で待ち続ける。そう決めていたんだ。」


途方も無い時間をかけて、たった1人を救おうとしている。

もっと手立てはあるだろう。やれることもあるだろう。

それでも、彼らは敢えて『何もしなかった』のだと、愛上はそう理解した。

だが、ジェニーの声はそれを否定するように響き渡る。


「残念ながら、それは大きな間違いだ。僕は前を向くために今を生きていない。僕はいつでも、ただ彼女に会うために生き続けている。死んでから会うんじゃダメなんだ。生きて、彼女の口から答えを聞かなきゃいけない。彼女は周りの死を望まないし、勿論本人の死も誰も望んでいなかった。」


不死の研究。それを容易に成功させてしまう頭脳。

それがありながら、今も成し遂げられていない事。


「つまり貴方は……イライザさんを、生き返らせようとしているんですの?」


「ああ。そしてそれはもう、目前に迫っている。」


「僕の研究は根本が間違っていたんだ。人間は生き返らない。人を蘇らせるなんて不可能なんだ。だから僕は、もう一度彼女を育てた(・・・)んだよ。」


マイクから響く声が一層大きく、不気味に響き渡る。

その声にいち早く反応して怒号をあげたのは、誰あろう。嘉数だった。


「お前は!!!まだ!!そんなことをしているのか!!!」


「まだ、だと?」


「あいつが…イライザが!!そんなことを望むはずがないだろう!!!」


「それは彼女に直接聞けばいいことだろう。第一、この段階まで進んでいる研究を一切止めにこなかったのはお前達じゃないか。何を怒ってるんだ?」


「………なら。その、お前が育てたって模造品をさっさと起こして聞いてみろよ。答えは分かりきってるけどな。」


「はっ、負け惜しみも良いところだ。良いだろう。お前の望み通り、ここで今。聞かせてやるよ」


イヤホンではなく、単純な目配せが周りの研究者から愛上に入る。

通路を通って、止めにいってくれ、と。

イヤホンはもう、あちらに聞こえていることが分かっている。


確かに今ならこの場を映している画面は見ていないだろう。

戻ってきたなら、不審な言動は咎められるかもしれない。

行くなら今しかない。


部屋への直通ルート。

初めて通った時とは違う、全速力で。

愛上景斗はその道を駆け抜けていった。

自分で書いてて気が滅入っております。ロベルトです。

「あいうえけいと」って変換しようとすると「ああああ景斗」に予測変換がなるんですよね。罠ですよこれ。


よーく見ておかないと愛上、が『ああああ』になるんですから。適当に名付けた主人公じゃないんだから…


と、どうでも良い話はここまでにして。

シナリオにおいてもこの世界の核が見えてきました。

科学を使った擬似的なループによって研究を進めてきたジェニー。

それを認知しながら共に生き続けた現3号。

そしてその過程を全て聞かされ、知りながら手を出せなかった面々。

もっと文章力と展開力があれば上手いこと伝えられるのに…とヤキモキしております。

ともあれ、あと数話でこの世界は終わる(予定)ので、次のストーリーが始まるわけでございます。

まずはこの世界の結末をご期待ください!

ではでは〜

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