そして、愛上景斗は迫られる
愛上景斗の前に現れた『それ』の姿はおよそ人間とは程遠い…まさに原始人。猿人ともいえる過去の姿であった。
「………は?」
あまりに訳のわからない状況に間抜けな声が漏れてしまう。
そしてその声を聞き逃さず、その原始人はこちらに視線を向ける。
(全くもって何をやってますのわたくしは!どんなことが起こっても不思議じゃないから異世界!だからこそ世界中が自分好みの世界に飛んだんじゃないですの!!こんなところで終わるわけにはいきませんわ!!!)
声に出さずに反省会。
そして息を潜めて時を待つ。
幸いというかなんというか。周囲にいる鳥やら虫やらの喧騒が凄いおかげで多少は誤魔化せている…ように愛上には見える。
(とにかく!まずはこの状況を打開!その後でこの世界にきた人々がどこにいるかを調査、ですわ!)
辺り一面の大自然。
人が住んでいるようには見えなかったが、果たして。
「…………?」
原始人(仮称)は辺りを見回した後に、地面を踏み締める。
するとその地面がスイッチのように沈み……目の前に地下への階段が現れた。
(バカじゃないですの!?この世界観であんな科学の産物を混ぜ込むなんて言語道断!あり得ない所業ですわ!!わたくしならこの自然を活かして……えーと…なにか!何かしますわ!!)
あまりのミスマッチ感に声を出したくなるのをグッと堪え、愛上はその場所を記憶に刻む。
そしてその原始人が階段の奥に消えていったのを確認した後、大きく息を吐いて呼吸を整える。
「どう考えてもこの先ですわね。」
この世界で元々科学が発展しているとも考えづらい。ならば考えられるのはこの世界に来た誰かしらがこの技術を渡した…ということくらい。
「探す手間も省けて、しかもそれは目の前にある…やるしかありませんわ!!」
アイツが踏んでた場所をドンと踏んでやると、明らかに他の土とは感触が違う。
そして目の前にはさっきと同じ階段が現れる。
「…せめて武器くらい持っていかないと不安ですわ」
周囲をいそいそと探して見つけた良い感じの硬さと形の枝を片手にひた進む。
無機質な壁と、外とはまるで違う近代すら超えた科学チックな内装。
ドアは自動で開閉し、辺りにカメラも多数設置されている。隠れる場所は無いので見つかったらそれはそれとする他ないだろうと割り切って進み続ける。
分かれ道は適当に進んで、とにかく目に見えるものを記憶していく。
地図はどこにもない。見たものだけが蓄えられた情報の全て。
そうして歩くこと数分、数十分。
通路の先が開けているのがわかり、小走りになる。
「……………っ!」
そこにある景色に、愛上は声を失う。
「助けてくれ…誰でもいいから…」
「もういい。もういい…生き延びるのはもう嫌だ…」
「こんなはずじゃなかったんだ…こんなこと望んじゃいない…」
檻に入れられた人々が、嘆きの声をあげていた。
全員成人はしているだろう。歳の頃は2〜30代から60代だろうかというご老体まで様々。
どうにも、学のありそうな人ばかりが囚われているのも気になる。
「なん…ですの…これは…」
その檻の前を悠々と歩き、中の人々を気にも留めない。そんな原始人が10、20……一気に相手にするのは流石に厳しそうだ。
そもそも戦闘訓練なんてしたことがない。
「あの原始人ども、こんな知能と技術力があるようには見えませんわ……これは絶対に裏がありますの。」
誰が、もしくは何が。どうして、どうやって。
考えなければならない事はあまりにも多く、なんのヒントすら与えられていない。
「まず必要なのは…情報と協力者ですわ。」
良い感じの枝は邪魔になると判断して渋々置いていく。実はちょっと気に入っていた。
そしてそのまま進んでいくと、唐突にチャイムが鳴り響く。
さながら学校で聞くようなキンコンカンコン…というリズムの後、聞き覚えのない声で放送が流れる。
『親愛なる現代人の諸君へ。…ああ、この時代の奴らに言葉は通じないからね。僕のいた時代の、という意味さ。そこの金髪の麗しい御人。そんなところに居るもんじゃない。道案内をしてあげるから僕のところまで来るといい!』
「どうせ聞こえてるんでしょうからお答えしますけどもー!声だけでそこはかとなく感じるヤな奴感が生理的に受け付けませんのー!おーこーとーわーりー!!ですわー!!」
すぐそこの壁が通路になるのとどっちが早いか。愛上は即答していた。
『……………その道を通れば僕のところへの直通便さ!今の言葉はお互いに水に流して、きちんとお話をしようじゃないか!!』
「鋼のメンタルですわね!?」
『当たり前だろう、この僕だぞ!!さあ、僕は今この時も君が来るのを待ってるよ。じゃあね。次は顔を合わせて話し合おうじゃないか!』
プツン、と回線が途切れる音がする。
正直言って行きたくないし、行ったとしても罠だろうという香りがキツめの香水よりもプンプンしている。
とはいえ、他に道も情報もないのもまた事実。
「……はぁ、行くしかありませんわね。」
嫌々ながらも目の前に開けた道を進む。
いつもの無機質な壁と、ほんのり香る香水の匂い。
さっきの言葉も臭かったがこの通路も相当なモンだと心の中で悪態をついてしまう。
通路を進んで見えてきたのは一際豪華な扉。
近づくと自動で開くドアのその先に居たのは、これまたやけに豪華な椅子に偉そうに座った青年だった。
「やあいらっしゃい。僕の部屋へ。」
直で聞いても自尊心丸出しの声だなぁ、と愛上によるこの男の好感度は地の底へと向かう。
「ずっとえらっそうに話しかけてきてますけど。そもそも貴方は誰なんですの?」
「嗚呼、なんということだ!僕のことを知らないだなんて!知らぬのならば知ってくれ!そして忘れることなかれ!!我が名はジェニー・ジーニアス!天才でありながらその道を極めることを怠らない、天才の中の天才さ!!そして僕は君に恋をしてしまったようだ……そう、世に言う一目惚れさ!僕の嫁に来ないかい!?来るだろう!さあ、そうと決まれば……」
1人で語り続ける男を尻目に、愛上が割り込む。
「声も態度もデカい。自尊心の塊すぎて流石にキツい。こちらの気持ちを一切考えない。スリーアウトチェンジですわ。ご自分を見直すところから再スタートを切ることをお勧めいたしますわよ?」
「中々言ってくれるじゃないか!だが僕はその程度ではめげないよ……天才とはいえ、間違いにはぶち当たるものだからねっ!!君の僕への評価という障害を乗り越えて、君からOKの返事を貰うのさ!」
「チェンジどころか続投してくるのやめてくださいます?」
「そう気張らずともいいさ!僕と君、ここには2人しかいないからね!ゆっくり語り合ってお互いのことを知ろうじゃないか。さ、そこにあるテーブルに紅茶とクッキーを用意しておいた。よければどうぞ。大丈夫、変なモノは入ってないさ。」
「そういう準備は出来るのに会話の準備は一切できてないんですのね。とりあえずあの場所に居た人達を解放してくださる?話はそこからですわ」
「彼らは……ダメだ。まだ解放するわけにいかない。」
さっきまでの声量MAXの語りから一転する。
まだという言い回しも気になった。
この会話に付き合った甲斐は無くもないかと思考を回す。
「まあとりあえずそこに座ってお茶でも飲んでいてくれたまえ。僕はちょっと……やることがあるのでね」
さっきまで愛上と語り合おうとしていたジェニーは踵を返して奥の部屋へ戻ってしまう。
愛上が通って来た通路は開いたまま。帰ってもいいということなのか、閉め忘れなのか。
囚われていた人々、意に介さない原始人。
1人だけ自由に動き、この施設を操るジェニー・ジーニアス。
分からないことだらけな中、情報源は1人しかいない。
「……まだ聞くことは沢山残ってますわ」
今はまだ、帰るべき時ではない。
そう結論づけた愛上は紅茶を手に取り、独りのティータイムを始めた。
ジェニー君は10秒くらいで名付けたオリキャラなので元ネタの人がおりませんので!!!
……という言葉から始まります後書きです。
いやー、大変そうですね愛上も。
書いててあれですがほんと楽しいです。
何してもいいからね!何しても、って言われてるからね!!多分!!
次の話になるかな……そこそこ長くなりそうです。
投稿期間が、とかじゃなくて文量が。
分ければ良いんだけど一気に読んでもらいたいんでまあ頑張ってみます。
ではではまた次回