そして、愛上景斗は見つけ出す。
自国、どころか世界中から異世界転生が一般化してしまった世界。
だーれもいなくなったこの国では彼女の『目的』も果たせない。
ならば連れ戻すまで。
愛上景斗は決意した。異世界なんて認めない、と。
一度決意してしまえば早いモノ。
さっさと異世界転生…もとい異世界侵攻の準備を整え、スイッチをオンにした。
準備といっても心構えだけ。特に特別な道具があったりとかはしない。
そして目的地はランダム。とりあえず適当に一個行ってみようの精神で!
スイッチを押してすぐに愛上の視界がぐにゃりと曲がる。
「ぎも"ぢわ"る"い"でずわ"…」
視界が歪められていくのは愛上には慣れられそうもない。
そのまま何もない空間をふわふわと浮かぶような感覚の果て、唐突に辺りが明るくなる。
そしてその空間の出口から、新たな世界へと放り出される。
「ぐえっ」
乱雑に投げ出されたその先に見えたのは、圧倒的大自然。
そしてそこに響くおよそ王族と思えない間抜けな言葉。
人工物といえるものはおよそ見当たらず、ジャングルとその先に見える大海原が見える。
『お手元をご覧ください。そちらにありますスイッチを30秒長押しして頂ければ元の世界へと帰還できます。また、やむを得ない事態の場合には強制送還の可能性がありますのでご注意ください。』
無機質な案内音声が頭に響き、愛上の異世界侵攻が始まった。
「元の世界を捨ててこんなことところに勝手に移住しようだなんて……」
この世界が自分の作り上げてきた国よりも選ばれたという事実にふつふつと湧き上がる怒りを、今一度叫ぶ。
「ふっざけんじゃねぇですわー!!!」
ですわー!!
ですわー!
ですわー
わー
ー
…
よく響くなぁ、とかしみじみ思ってしまう。
自分にも、選んだ相手にも叫びたい思いは単純な言葉となってこの世界に響き渡る。
人工物が全く見えない、まさに自然100%。
もうやりきるしかないさと頭の中で歌が流れそうになるのをストップして、目印になるものを探す。
「……なんっっにもありませんわこれ。」
木の種類で見分けることは出来ない。知識が足りない。
ならば地形かと思ったがどこもかしこも一切合切人の手が入っていないのだから見分けがつくのは山、池、沼etc...特徴的なものだけになってしまう。
その地形ですら、これでもかというほど似ている。
形は大きすぎて判別不可。見た目は基本同じ。どうすればいいのか途方に暮れそうになる。
唯一人が通ったと言えるくらいに整備されてる道はあるものの一本道。そこを進むとなれば目印も何もあったものではない。
そして人の通った道ということは、いつ誰と会うか分かったものではない。
敵か、味方かもわからない。というかこの世界に自ら来ている人を連れ戻しに来ているのだから基本は敵だろう。
そうこうしていても始まらないので、とりあえず手元にあるスイッチをポケットに入れ込んだのを確認して人を探しに向かう。
「……せめて誰か連れてくるべきでしたわ。」
何もない中でジャングルを進むのは至難の業。
明らかに人が通った跡があるとはいえ、この世界に望んでくる人がどんななのか何度考えても分かる気がしなかった。
道を辿れども一向に姿は見えず、似たような景色が延々と続くだけ。早々に心が折れる音が聞こえそうになる。
そんな時。
パキッ
パキパキッ…
「焚き火の音ですわね。以前皆とキャンプした時に聞いたからわかりますわよ…」
小声で状況確認をする。1人だからと黙っていては覚悟を決めて来た愛上も気が狂いそうだった。
そして、火があるということは近くに人が居るということ。
見たところ火元は新しいし、火を点けてからそう時間は経っていない。そこに火の主が居ないということは近くで何かを探しているか、仲間を呼んでいるか。
どちらにせよ、第一異世界民の発見は確定したことを愛上は安堵する。
…と、同時に警戒する。
ここにいる人は敵。まずはこの世界から連れ戻して、元の世界の良さを再確認させなくては。
「どこの誰だか知りませんが…ふん捕まえてスイッチ押させてやりますわ…!」
ここまで苦労して辿り着いたのだから意地でも連れ帰ってしまいたいという思いが漏れ出る。
人為的に帰還させるならスイッチの強奪しか手はない。
逆に言えばそれ以外では帰還させられることは無いに等しい…となればスイッチをどこかに保管はしないと思われる。自分で管理するはずだ。
正直な話、自分以上に確実に守れて責任転嫁をせずに済む人材はいないのだから。
息を殺して火の起こし主を待つ。
どう話しかけるか。はたまたスイッチが見えたら押してしまうべきか。頭を悩ませるがこればかりは経験がなさすぎる。
急に送還されても憤りを感じるだろうし、だからといって一人一人を説得する時間もない。
そうこうしているうちにガサガサと音を立てて火の主が戻ってくる。
だが、その主は愛上の思いもよらぬ姿をしていた。
そんなこんなで2話目です。
ジャングルです。病気とかはなんかすげー技術で無効化してるはずです。
ワンピースでいえばリトルガーデン的な。ほら、あそこ凄かったじゃないですか。
本編的には愛上にさんざ歩き回ってもらってます。
書く必要がないので書きませんでしたが多分数時間歩いてます。キツいっすね。お疲れ様です。
次回は第一異世界民との交流……となるはずです。
どんな奴になるやら。
冬の寒さに震えてお待ちください