気付かぬ違和感
辺りを見渡しても誰もいない。
さっきまで語り掛けてくれていた『人』だったものは泥になって崩れ落ちた。
いきなり襲われ、唐突に助けられて。
助けてくれた人は崩れてしまった。
そんな異常な状況の中でも愛上景斗は歩みを止めることを許されない。
これは、彼女一人の戦いではないのだから。
数年前のことを愛上は思い返す。
愛上景斗はさる王国の王女だった。
それは地球ではない、どこかの星。
その暮らしは決して華美ではなく、つつましいものだった。
臣民からの信頼も厚い王である父。
その父を支え続けていた母。
その国をいずれ継ぐのだと、日々研鑽を積んでいた自分自身。
平和で、当たり前で、大切な日々は。
たったの一日で脆くも崩れ去った。
首謀者は叔父だった、あまりにも簡単にその革命は起こされた。
城に居る全員がさも当たり前のように首謀者を素通しし、両親は反論の余地もなく追放された。
一滴の血すら流さない、無血革命が起こされたのである。
『これまでこの国を育ててきた功績は認める。だが、この先を継いでいくのは新しい世代である』
という声をあげ、それに同調した国民と共にすべては執り行われた。
あくまでも国をよくするため、という名目のもと行われた革命。両親は『追放』に留められた。
かねてから愛上の事をよく見てくれていた叔父は、彼女はこの星に残るか、とも聞いてきた。
愛上の心は最初から決まっていた。
『わたくしはお父様、お母様と共にこの国を去ります。』
そう、力強く答えていた。
この国を取り戻すための力が今はない。
いつか、実力でこの国を取り戻す。
そのためにこの場は退かなければならない。
そうして、愛上景斗はこの星、地球へやってきている。
この星における居住区は既に作られていた。
過去にこの星を開拓することを目的とした遠征が行われており、その名残があったのである。
国はある。経験がない。人も、いなくなってしまった。
両親はあの一件以来、すっかり隠居してしまった。前に出て政治を行うかつての姿は今は見ることが出来ない。
その代わりに愛上が代わりに国を治め、近隣諸国との国交を深めていた。
国に残った人々の中にも愛上を応援するものはいるようで、ひっそりと支援物資が送られたりもしているがその量は多くないし、絶妙に役に立たないものが多い。
両親は完全に愛上に国を任せている。その今の国を『異世界転生』で壊されるわけにはいかなかった。
「あそこに見える町……何か、おかしいですわね……?」
遠目に見える町にはおよそ活気と言えるものが感じられない。
家の煙突から上る煙もなければ、人々の会話の声もない。
ようやっとたどり着いたその町には、誰一人として『人間』が居なかった。
「どうなってますの……?」
作りたてのシチュー。まだ温かいお茶。
汲みたての水、使っていた形跡のある道具たち。
ついさっきまで居たであろう人々の残滓がそこに確かにあった。
「とにかく、まずは情報を集めないと始まりませんわね。」
辺りの警戒をしながら大きな通りを進む。
まるで住民全員が一瞬で消えてしまったかのような、不気味な町が長々と続いていた。
消えてしまう人間。さっき見た光景が頭をよぎる。
「まさか、全員あんな風に……」
考えても仕方ないことはわかっていても、脳が思考をやめてくれない。
なんの確証もない憶測が頭の中を出入りしてやまない。
「おーーーい!!誰かいませんことーー!!?」
あまりに広い町。愛上の声はこだまになって消えていく。
そう。広い。
歩き続けているのに、まったく町の端が見えない。
その事に気づくには、少しばかり遅かった。
「この町……おかしいですわ!人が居ないんじゃない……人が『居たように』見せるものしかありませんの!!」
踵を返して町の外へ走りだす。
その外が、あまりに遠い。まるで景色が変わっていない。
「はぁっ……はぁっ……どうなって、ますの………」
愛上はお世辞にも運動が得意とは言えない。
努力でカバーし、実力もつけているが。
いかんせん体力が足りない。
もう少し日ごろから食べておくべきだったかも、なんて考えるがそれは後の祭り。
今、この瞬間にもこの町に仕掛けられた悪意は愛上景斗を狙っている。
そのことにもう数分早く気付けていれば。この運命は変わったかもしれなかった。
そのまま愛上は、何が起こったたかも分からないままにその世界の冒険を終えることとなる。
目が覚めた時には、元の世界。
異世界への移動時に毎回言われる『生命の危機に瀕した場合の強制送還』にあたる状況になったのだと理解するのに時間はかからなかった。
じわじわと追いついてくる死の恐怖。
自分が一度死んだのだという実感が、ゆっくりとその精神を蝕んでいく。
事実を受け入れるとともに震え始める身体。
それを見て、元の世界に残っていた皆が駆け寄ってくる。
『大丈夫ですか』『何があったんですか』
『そんなになるなら、無茶はやめましょう』
いろんな言葉が投げかけられる。
どの言葉も耳に入らない。
何もできずに終わった無力感が身体と心を支配していく。
そんな中、一つの違和感に気づいた。
何故気づけたのかは愛上自身も分からない。
だが、一つ間違いなく違和感があったのだ。
「ミルハは……どこに居ますの?」
その言葉に、周囲を囲んでいた面々が顔を見合わせる。
「一緒では……ないのですか?」
そう。
同じ世界に、彼女も転移しているはずなのだ。
出会うことはなく、愛上が一人で突っ走っていたが。
愛上を追って、愛上を探して。
どんな場所にでも行くだろう勢いで、今もあの世界に居るはずなのだ。
「………もう一度、行きますわ。」
自分のために危険を冒している。
そんな人を見捨てて進んで、これから王位を継ぐことが出来ようか。
胸を張って国を取り戻すことが出来ようはずがない。
「もう一度、わたくしは!!」
大きく宣言する。
自身への鼓舞か、はたまた退路を消すための喝なのか。
いずれにせよ、愛上景斗はもう一度同じ世界への扉をくぐった。
大切な仲間と共に帰るために。
そして、愛上はこの時。
重大な間違いに気づくことが出来ていなかった。
三カ月経ちそうだったってマジですか。ごめんなさい。
ほんとに……大変申し訳ないです。
一応、週一更新が目標というか。そのはずだったんです。
おかしいなぁ、どこで間違えたんだ俺は?
えー、それはそれとして。
違和感、気づきましたでしょうか?
愛上はこの世界をどう攻略するのか。
俺の更新ペースはきちんと戻せるのか。
これまでの分を挽回できるのか。
殆ど俺の問題ですね!!精進します!!!
主に!責任問題!!!!!




