その日、愛上景斗は決意した。
青い空。いつもより広く感じる快晴。
雲一つない青空の下、愛上景斗は叫んでいた。
「ふっっっっっっざけんじゃねぇですわー!!!!」
街から見たらやや高めの位置にある、街を見下ろせる位置にある豪華な愛上宅。
そのベランダから街に向かって愛上景斗は思いっきり叫んでいた。
恥も外聞もなんにもない。ただ、思うままの絶叫だった。
その声に驚く者はほんの数人。それも、絶叫そのものではなく『今』それが行われたことへの驚きだった。
そしてそれに対する感想は『またか。』といったもの。
「わたくしどころかこの世界を放って……この世界をどうしろってんですのーー!!!!」
綺麗な街並みに響く愛上の怒声。
だが、今その街並みからは一言の返答もない。
何の物音もしない。
殆どの音がしない。せいぜいが吹き抜ける風の音くらい。
何故か?至極単純な話である。
住民が、誰もいないのだから。
さらに正確に言えば、『居なくなってしまった』。
さらにさらに正確に言ってしまえば…
『全員異世界転生してしまった』から。
「……はー、やってらんねぇですわ。マジでこの世界どうかしてますわよ」
事の発端は十数年前。
某国王女として学問を修め、大きな事件も反逆もなく、歳とは分不相応な程に上手く回していた財政、政治、外交etc...
このままこの国が良くなるようにと努力していた愛上に、いや。この世界にそのニュースはデカデカと報道された。
『人工異世界転生、可能に』
世にいう『トラックに撥ねられた』『何かしらで死んだと思ったら異世界にいた』『目の前に唐突にワープホールが』みたいな、そんな偶然やら主人公補正やら運命力やらに頼る事なく、誰でも。自由に。思うままの異世界に…行けてしまう『技術』として発表されてしまったのである。
当初は訝しげであった世界中の面々も、開発者とそのチーム直々に行う動作発表会で度肝を抜かれた。
確かに、目の前で消え去ってしまったのである。
全世界の人々が嘘だと信じて疑わない発表の中、誰も予想だにしない『本物』がそこには完成していたのだ。
そしてそのまま、消えた人々は帰ってこなかった。
話によれば帰還も期間も自由とのことだが、自分に合った世界をみつけてチヤホヤされてる以上それを捨てて帰ってくるのは生半可なことではない。
はたまた、帰れないのか。それは本人にしかわからないことであり、制作者すら判別不可能と言われている。
つまりそれは、その異世界へ完全移住に類する物となる。
次は自分だ、次は私よ…金持ちからどんどんと人を連れて居なくなる。
民草に順番が回ってくる頃にはもう、殆どの人間がこの世界を捨てて思い思いの場所へと去ってしまっていた。
愛する人も、大切な人も、周りにいたはずの誰も彼もが居なくなってしまったり、共に新しい世界へ旅立てたり。
今の世界を窮屈と感じたことがない人はごく少数だらう。
その上、窮屈さを感じないのは上位層が殆ど。
機会が回ってきた人はどんどんとこの世界から去ってしまった。
その現状を、愛上は止めることができなかった。
「……決めましたわ。」
この国に残ってるのは自分と、ほんの数人のこの世界を捨てなかった世話係。
あとは転生の順番が回ってこないままの放浪者くらいのもの。
この国の活気を取り戻すべく、世界の人々をこれ以上無くさないため、というかそもそもこんな無秩序な転生を許さないためにも。
「私、異世界へ行ってあいつら引き摺り戻してやりますの。」
かくして愛上景斗は、異世界侵攻を決意した。
はい。前作から読んでくれてる方はありがとうございます。僕です。
本人たっての希望により主人公としてキャラ続投の運びとなりました。なお今後誰が出るかは未定です。
当面はオリキャラでなんやかんやしようかなと!
このストーリー自体は実はず〜〜〜〜っと前から頭にあって、『異世界転生多くね?』って思ってた時期からちょいちょい頭の中で書いてたやつです。
終わり方は決まってますしどう持っていくかも決めてますが、問題はどう引きのb……
展開していくか。そこに尽きますね。
また長くなるかもしれませんが!お付き合い頂ければ幸いです!
ではまた〜