0話:”悪”
何気のない青い空、普段通りに朝食を終え、一人使命を背負った男は外へ出る。
男の名は「テオル」17歳にして魔王を討つという使命を背負った「勇者」だ。当然、王国で彼を知らぬ者はいない。ただならぬ功績をあげ、王直属の騎士団「悪魔殺し」の騎士団長を務めていた、言ってしまえば、人間にとっての「英雄」であり、「希望」なのだ。
カランカラン
「...いらっしゃい」
テオルはとある何気のない「雑貨屋」に足を踏み入れた。中はいたって普通、歳は70を過ぎたあたりだろうか、やせこけた老人の店主が一人椅子に座っていた。
今日は魔王城へと足を踏み入れる日、こうして回復薬などを主としたアイテムを調達できるのも、今日しかない。魔王城に入ったが最後、生きて帰れなくなる可能性や、アイテムの補充ができなくなる可能性が非常に高い、生半可な状態ではあまりにも危険など、誰もが分かることだ。
テオルはアイテムを見ていると「魔物」の気配を「能力:見通すモノ」で察知する。
(かなり近い...この気配....この店の中にいるのか...?中には俺と...)
テオルは店主が人間ではないことを察し、腰につけている剣のグリップをそっと握る。
が、すぐにその手を自ら離した。
「お前さん、気づいてるんだろう?儂が人間でなく魔物であることに。」
店主の瞳には諦めの感情が表れているように見えた。
「あんた、人間を一回も襲ったことがないな?」
店主はなぜそれが分かると言わんばかりに目を大きく見開き、テオルのことを見つめる。テオルの「能力:見通すモノ」は、見た対象は当然、半径約20mまでのありとあらゆる物質を解析し、知識として能力所有者の脳へと強制的に流し込む。そんなとても常人では耐えられないほどの脳への負荷に耐えることができ、使いこなすことができる、それがテオルを勇者たらしめる理由なのである。
「儂はただ、人として生きたかったんじゃ。幸いにも儂は鬼族じゃった、角を隠してしまえばほぼ人間と何ら変わりはない。そして人間と同じ生活でも、力は弱まる一方じゃが、生きていける。」
テオルは悩んだ。「勇者」として、目の前の魔物を放っておくわけにはいかない、だが一度も人間を襲ったことがなく、人間と同じ生活をしていた者は、魔物と言えるのだろうか?いいや違う、魔物はどこまで行っても魔物だ、今まで散々手にかけてきたじゃないか。今後この鬼族が人間を襲わない可能性はない、始末するべきだ。
ドンッ!!!!!!
テオルはすぐにその悩みから解放された、目の前の鬼族、いや、鬼族として生きていた物は、すでに上半身の大半を吹き飛ばされた屍となりそこに鈍い音を立てて落ちていたのだから。
「今月の分、これで終わりだなぁ~さーて核っと...」
鬼族を吹き飛ばした男はテオルのことなど気にもせず、鬼族の核を拾い上げ、店から出ていこうとする。
「...なぁ」
テオルがそう口を開くと男は立ち止まる。
「なんだぁ?まさかお前この鬼族のお仲間さんかぁ?じゃあこいつも殺して来月の分のカウントに...」
男はテオルの顔を見て凍り付く。当然だろう、誰もが知る「悪魔殺し」の騎士団長だと気づかずに接し、不敬な言動をとったのだ。
「す...すんませんした...!!!!命だけは!!!!!」
男は一目散に逃げる、だがテオルは追わずに鬼族の屍へと歩み、その場に屈む。どうするのが正解だったのだろうか、これで正しいのか。全ての魔物が悪いわけじゃない、だが人間は一方的に”悪”だと決めつけ魔物を排除しようとする。本当に悪なのは人間ではないだろうか?排除されるべきなのも、”悪”なのも。
「一体俺は...なんのために命を懸けていたのだろうな。」
テオルは自身の「悪魔殺し」製の防具を脱ぎ、店主の鬼族の屍とともに「能力:聖火」で焼き尽くし、跡形も残さなかった。
「さようなら、人間。」
ーーー数日後
「号外!号外!!!!」
テオルの行方が分からなくなったことはすぐに広まり、王国中を大混乱に陥らせた。
「団長が行方不明ねぇ、どーすんの?副団長さん」
「何も問題はない、むしろ我らからすれば好都合だったろう、城で奴を消す手間が省けた。」
「ま、そうだね、僕らの計画の邪魔は誰にもさせない。」