息を引き取るチー牛
第8章
比呂保保は村を追い出された。もううんざりしていた。生きていく希望を完全に失っていた。なにがなんだがわからなかった。 族長はああいっていたがもうあの里に居続けることは不可能だった。心が保てなかった。比呂保保はまた荒野へとさまよった。
これからどうしようか。
比呂保保はただひたすらただ歩き、たべれるものをさがし、また歩き、ただそんな生活をしていた。ここから先、もうだれも足を踏み入れたものなどいないとされる荒野の中へと。比呂保保は、死を感じるようなところへ自然とむかっていたのかもしれない。もうだれも振り返らないところに、とにかく世界で一番遠いところをただ求めてあるいていた。
何年もたった。その間荒野をさまよい続けた比呂保保はだれにも 会う事がなかった。
その間に比呂保保はなんとなく絵を描くことをおぼえていた。ただのらくがきでつたないものだったが話す相手もおらず、ただなんとなく石で岩や洞窟の中になんとなくけずって壁画を書いていた。
無心になれるものならなんでもよかった。
比呂保保は来る日も来る日も壁画を削り、ただ描いては移動し描いては移動し、そんな日々が続いた。 十年二十年、三十年、四十年、
比呂保保は暦を数えるのをやめていた。数えきれないくらいの絵を描いた。その絵はひたすらチー牛が人に認められて、あるいはあがめられ、たのしく過ごし、良い暮らしをしている。 そんなチー牛の楽園だった。 そんなひろほほの理想郷 夢のような絵だけを描き続けていた。絵を描いている時だけは無心になれた。
それからどれほどのじかんがたっただろう。結局これだけの距離をあるいても誰一人会うことがなかった。比呂保保が描いたチー牛礼賛の洞窟画は数百万点をこえていた。 途方もない数を 途方もない時間 描いていた。 とてつもなく長い時間をひろほほは絵を描く事に費やしてきた。
比呂保保は時間の感覚がなくなりついに荒野で力尽きて倒れてしまった。
比呂保保は自分がおそらく死んだのだろうとおもっていた。
比呂保保はやっと苦しみから解放されたと思った。 ひろほほはなんども自死をかんがえていたがなんやかんやでいきながらえていたことを後悔していた。
これでようやく苦しみから解放される。なぜ比呂保保はこの世界に生まれ落ちたのか理解できなかった。すべてがもうどうでもいい なぜチー牛というだけでこんなに辛い目にあいつづけなければいけないのか やっとこうして深い眠りにつくのだ なにもない人生だった チー牛はこの世界で生きていてもいいんだと 信じたくて、できることは全てやったつもりだった、そんな思いを抱いたチー牛のなれはてがこれだ 文字通り最悪の人生だった そんな自負がある。 比呂保保はそんな思いを巡らせながら 世を呪い、あらゆる事を呪いながら息をひきとった。