楽園を追放されるチー牛
楽園を追放されるチー牛
比呂保保の自分にとって世界のすべてだった洞窟を追放され、途方に暮れていた。 チー牛の世界をつくる。 そう誓ったもののどう過ごしていいかもわからない。
近場でまずチー牛の楽園と書いた看板をつくり木につるして天幕を張って慎ましく生活をしていたが、
洞窟のいじめっ子にみつかって秘密基地を破壊されてしまった。
つぎに遠くの集落でなんとか住処を与えてくれないかと頼んだものの 断られてしまった。
どうやらハヤットがうらで手をまわしていたらしく 執拗に囲い込みを行っていたらしい。
行き場のない比呂保保は自分の知っている生活圏 交流のある集落では生きていくことができないと悟り より遠くへ 遠くへと 向かっていった。 平原を超え 森を超え 荒地をさまよった。
ひたすら彷徨って食べ物を探し住める場所を探してはよそ者を受け入れる余裕などないと追い出され、その度にハヤットの人脈と裏に回り込むような動きで悪い噂が広められていた。そんな日々を繰り返してるうちに数年間が経った。
たった一人 楽園を探して歩いていた比呂保保は ついに豊穣の土地 果実が実り たべものに困ることのない最果ての土地にたどり着いた。
ここには自分を知るものもいない、だれにも邪魔されない ここで僕は楽園を築こう チー牛たちだけの。 差別や偏見のないだれもが平等でたのしく安心して暮らせる世界を。
こうして比呂保保は村の建設をはじめた。はじめはつたない小屋をひとつひとつつくり、人が住める準備を整えた。 そして今まで旅してまわった集落で差別されていた 小柄で力の弱く 猫背で言葉をうまくあやつれない そんな自分と似たような容姿で迫害をうけていたものに一人一人 声をかけて すこしづつ村を大きくしていった。
建設は順調だった。 そこから十数年がたち
村はそこらの集落と同等の大きさまで膨らんだ。 道をつくり 水をひき 食べ物を得られる仕組みを整えた。 これらの知識は石との対話の記憶から引き出したもので、つたないながらもおぼろげな記憶を使って試行錯誤を繰り返しながら整えていった。 石とはただ会話をしただけだったから、そこで技能を身に着けたわけでもない、ただ話をきいただけ、そしてその記憶も完全にすべておぼえてるわけじゃない。 時々 必要になったときにヒントが思い出せる程度。苦労をかさねようやく村は軌道にのった。
橋をつくった。小屋を。生活に必要ないろんな器具を。
ここはチー牛の里とよばれた。みな 背が低くうまくしゃべれない。言動も幼稚で力も弱い。原始時代でいきていくにはよわよわしすぎたが、比呂保保の知識によって、効率的な狩りの方法を伝えききなんとかしてやってきたのだった。
比呂保保には子供がうまれた。 次第に子孫がふえた。 集落は大きくなり、土地の名がひろまると外から人が来るようになった。はじめは比呂保保が認めたもの以外だれも集落に入れないようにしていたが、数も増え、交易をおこなわないといけなくなったと主張するものがでてきた。こうして交流を進めるうちに住み着くものが増えた。 彼らは容姿がよく、快活で言葉をうまくあやつり、強い肉体をもっていた。繊細な感覚がなく気分が乗らない時の態度は雑で粗野だった。普通で、そして飲み会が好きだった。
さらに時が過ぎ、町の取り決めをするときはご意見番が参加することになり8人の合議制で決まる仕組みが整った。
チー牛達の他に少しづつつよきものたちが町に入り、主張を繰り返すことで結果、もともと住んでいたチー牛たちはまた形見のせまい思いをするようになっていた。村のはずれにおいやられ、意見もいえない状態となっていった。
そして事件が起きる。 別の集落がこの集落に目をつけ、強いものたちを集めて近づいてるという情報が入った。 チー牛の里のものたちは必至で戦ったがチー牛は一瞬で蹴散らされた。 そこで活躍したのが後から来た強きものたちであった。
多少 死傷者は出たがなんとかこの戦いを乗り切った。 だがここで起きた戦果をひっさげ 多くのものを葬った ラドン という大きな男が言った。 この土地はすばらしい だがいまやここは名が広まってしまった。これからもいろんな集落に狙われるだろう。強いものたちがもっと必要だ。 チー牛ではこの里は守れない。 弱い族長はもういらない。
そう主張するものがでてきた。
そして比呂保保は族長の座を追われてしまった。 比呂保保ははずれにあるチー牛が多く住む地域でしばらく暮らしていたが
だんだんそのつよきものたちが食料を回さない などの行動をとるようになった。 はじめは抗議などもしたが結局 うまく声をあげられず 少ない分け前をなんとかしつらえわけてくらしていた。
つよきものたちが主導権を握ってから 村の中央のキャンプファイアー場では毎日のように飲み会が繰り広げられていた。
「飲〜んで飲んで飲んで!飲〜んで飲んで飲んで!飲〜んで飲んで飲んで!飲んで? 飲め飲めラドンさん!飲め飲めラドンさん!チャッチャチャ!アイ!チャッチャチャ!アイ!GOGOレッツゴーレッツゴーラドンさん!GOGOレッツゴーレッツゴーラドンさん!」
コールが鳴り響く中 チー牛たちは決してその騒ぎには近づかなかった。
だがその様子を遠くで見守ってる様子が少々不気味で つよきものたちは なんだよ 感じわりぃな と悪態をついていた。石をなげてからかうものたちもでてきた。
比呂保保は元族長として毅然と振る舞い肩身の狭いチーギュウ達をよくまとめていた。石を投げる若者にさすがにそれはダメだ なにをやってるんだと主張するが、
若い世代は比呂保保がこの里を作ったことなど知らないし、いまや里のはしで暮らしている偏屈なチー牛ジジイだとなじられていた。
繰り返しこのようなことが多発し、チー牛たちと人間たちの亀裂はひろがっていった。
こんなはずではなかった そんな思いが比呂保保の心を痛めるなかで一人一人またチー牛たちはでていってしまった。こんなところにはいられないよ 比呂保保さん あなたには感謝してる。だけどぼくたちはここでも居場所は見つけられなかったようだよ。
そういってみんな去っていった。
そしてそこに残ったチー牛は比呂保保とまだ幼い子チー牛だけとなってしまった。
集落で比呂保保が一人すごしていると、人間たちが通りかかった。
あん まだチー牛がこの村に残ってやがったのか。 おい あんた比呂保保さんかよ この村を作ったって話だけど本当か?うそくせぇな 族長はほっといてやれ っていってたけどよ なんかお前らみてるとむかついてくるんだよな
比呂保保 ぼくたちがなにをしたっていうんだ ここはぼくがつくった村だぞ チー牛が苦しまないための楽園を作るはずだったんだ。 なのになんでお前らのような人間がいる。
出ていけ! この村からでていけ!
比呂保保は家にあった狩猟用のやりをふりまわして 村の若者にむかって攻撃をしかけた。
うっわ あぶねぇ! なんだっこいつ! 若者たちは数人がかりで比呂保保をおさえつけて
ぼこぼこにした。
なんなんだよこのチー牛! キッショ!!
この出来事がきっかけになって 村の若者たちは執拗に比呂保保の家にきて 落書きをしたりものをこわしたりした。
比呂保保の家にはもう食料は来なくなっていた。 比呂保保は一人で食べ物をとって過ごしていたが、ある日帰ってくると家が燃えていた。 近くで数人のわかものがにやにやしながらその様子をみていた。比呂保保はもうなにも言わなかった。
そのまま家の横を通り過ぎると集落の中央の族長ラドンのもとへいった。 なぜこのような状況を見過ごす。村のものは村を離れていった。秩序もなくなる。こんなことを見過ごしてそれでも族長か!!
比呂保保はラドンにどなりつけた
ラドン 比呂保保さん あんたのおかげでこの村ができたのは知ってるよ。でもな、あんたたちはチー牛だ 人間じゃない。 チー牛と人間が共存するなんて無理な話なんだよ。
比呂保保 チー牛だって生きた人間だ!! ふざけるな!! 心をもち 感情があり 痛みのある尊い存在なんだ!
ラドンは噴き出した ぷフ! あーっはっはっはっは! おい聞いたかよみんな チー牛が人間? おまえらはチー牛だよ それ以上でも以下でもねぇ! あんた今いくつだよ もう年齢はおっさんくらいのはずなのにおさない面 ひょろひょろでいつも下をみてあるいてやがる。 普段は全然会話に参加しねぇくせにたまに発言するときはいつも空気の読めない意見をいって場を凍り付かせる。 空気よめよ!!空気。 アトモスフィアよめっつってんだよ!
比呂保保は空気が大嫌いだった。そんなもの読めるわけがない。空気は吸うものだ。
なにか言い換えそうとしてもうまく言葉がでてこないどぎまぎしながら なにか大きな声をだしてなにかいってるようだが なにいってるのかだれもよくわからなかった。
ラドン 村の創設者ならもっとシャキっとせんかい!! しゃべりがうまくないやつ 強くないやつでも 道具をつくったりするやつは重宝する。 この村は狙われやすいから 長く走れるやつ 目のいいやつ いろんなやつが必要だ。 だがチー牛のお前らはしゃべりもできないし戦いもできないのに なんやかんやで好き勝手動いて集団の輪を乱す。 ここは原始時代だ。いくらこの土地が豊饒でもこの人数だ。足手まといは間引かれる。原始時代の常識! みんなはチー牛のことをなんとなく見ててイライラする。 うざい くらいで済ませてるが 族長として村をマネジメントする立場としていわせてもらうと お前ら邪魔なんだよ。 いつも話をちゃんときいてないし歩いてるとなぜかぶつかりそうなところ通ってくし 立っていても変な距離でじっとしてる。 馬車のなかでもなぜか広く空いてるのに隣に座ってきたり 一番邪魔なところにいたりな。 女性陣からも苦情がでてる、なんか怖い 粘着されそう。誘いを断ったらなにされるかわからない。人間にみえないってな。
ラドンはチー牛のダメなところをひたすらなじった。
比呂保保 それでも、、ぼくたちは 人間なんだぞ、、、
しぼりだすように言った比呂保保の声はむなしく響き
ラドンは守衛にめくばせして 比呂保保を族長室から追い出した。
ラドン とにかくあんたはおとなしくしてな。追い出したりはしないさ。邪魔にならないところでじっとしててくれ
そういってラドンは自分の家に向かって戻っていった。
残されたのは守衛と 族長室の前で話を聞いていた 比呂保保の家を燃やした若者たちだった。
若者 比呂保保さんよぉ 族長はああいってるがもう俺たちもあんた いじめるのあきたし
まぁ家もやしたのはわざとじゃないんだ。ちょっと火遊びして軽く驚かせようと思ったら思いのほかよく燃えちゃっただけでさ。 でも放火ってことおやじにばれるとさすがに怒られるしさ
もう出てってくんね?
原始時代 ここまで嫌われた人間が集落内で生きる術などない。事実上出ていくしか無かった。ラドンはああ言っていたが何をされても守る気などはないのだから。
比呂保保は涙が止まらなかった。 せっかく作り上げてきたチー牛の楽園から
自分自身の手で気づき上げてきた世界から
比呂保保は追放されてしまったのだ。
その晩も毎日のように開かれていた集落の中央広場での飲み会でまたコールがあり盛大に盛り上がっていた。
族長の息子: 「飲んで飲んで飲んで!比呂保保バイバイ!比呂保保バイバイ!」
部族員たちは族長の息子のリードに合わせて、喜びを表現した。彼らはコールに合わせて手を叩き、足を踏み鳴らし、輪になって踊り始めた。
部族員たち: 「比呂保保バイバイ!比呂保保バイバイ!」
広場は、生き生きとした歓声と笑い声で満ち溢れた。火の周りで踊る部族員たちの顔には、解放された喜びが溢れていた。彼らにとって、この夜は新たな始まりを祝う夜であり、比呂保保の去り際は彼らにとっての一つの区切りだった。
失意の中 ひろほほはまた大切な居場所を追いやられたのだった。