宇宙の果てのチー牛
宇宙の果てのチー牛
ブラックホールに超光速で突進して行った方舟は
通常であれば超重力に押しつぶされるかスパゲッティみたいにペーストされてグイッと引き伸ばされた後バラバラになるという話だったが、
そうなる前にブラックホールの中心部付近へと到達していた。 そこにも当然超重量があるので比呂保保たちは結局重力に挟まれてキリキリと引き伸ばされて行った。
まだ生きてることにチー牛たちは驚愕しつつも徐々に体が伸びていき声が伸びていき時間さへも引き伸ばされて行った。
艦内の時計が1秒変わるのに一体何年かかったのだろう。艦内の感覚で1メートルの距離でもブラックホールホールの超密度の重力だと1メートルの差だけでも大きく重力が異なり、
結果1メートル先と流れている時間が全く異なっていた。
そうやって細かい感覚で別種の重力に洗濯バサミのように細かくピッチされたチーズ牛丼たちは体がどんどん引き伸ばされて行った。
艦内の時計が五メートルくらい先あったがその五メートル先にある時計の1秒変わるまでに
チー牛たちは何年間と感じたかわからなかった。
無限に引き伸ばされる時間、無限に引き伸ばされる体、とうとうチー牛の顔から自分たちの足が見えないくらいまで遠く引き延ばされて行った。
高校生チー牛で一番、斜に構えてシャキッとしない嫌な感じの顔をしていたリーダー格のチー牛は
途方もない時間をかけて比呂保保の近くに行こうとしていた。引き伸ばされた体と時間で比呂保保との距離も膨大になってしまったが、会話するためには比呂保保とキスできるくらい接近しないと同じ時間を共有できないため、
なんとか比呂保保の引き伸ばされた足を発見して それを頼りに、肌感的には数万年近い時間感覚をかけて比呂保保の顔面を発見した。
比呂保保の顔面を視認してから実際に近づくのにまたさらに数百年近くかかった、かのように感じたが
ようやく果てしなく長い時間をかけてなんとか比呂保保のところに辿り着きそうなところまできたのだった。
高校生チー牛は比呂保保の顔を数万年前に確認してからというもの、その間中数百年間怒りが収まらなかった。
というのもこんな状況になったのは全て比呂保保のせいだというのに、数百徒歩年くらい離れたところにいる比呂保保の顔は極めて満足そうな笑みを浮かべ続けていたからだ。
高校生チー牛が必死でなんとか生き延びるための案を実行に移すために怒りをパンパンにしながらも比呂保保に言葉を伝えようとしてる中で
こいつはニヤニヤしながら自分の時間を楽しんでいたのだった。何もかもめちゃくちゃになりそうなのに一体何が面白いといいのか! こんなやつを始祖として祭りあげていた大人たちは完全に愚かしい連中だった。
自分たちのしていたことは間違っていないと確信しながらも結局みなに比呂保保を支持することを止められず、最悪中の最悪の事態を引き起こさせてしまったことへの失意と怒りが消えることはなかった。
ようやく高校生チー牛は比呂保保と時間感覚に大幅なズレのない距離 すなわち 比呂保保とキスできるくらいの距離まで近付いていた。
高校生チー牛は引き伸ばされながらも無理な体制でここまできたため体が歪に曲がりながら引き伸ばされていた。
一方比呂保保は体の負担がかからない姿勢になるよう努めていたらしく引き伸ばされながらもちょっとづつ人の形に戻りつつあった。
高校生チー牛は無理やり比呂保保にキスするような距離で語り始めた。
おい比呂保保 時間がもったいないから簡潔に言うぞ、今俺たちがかろうじて生きてるのは方舟の安全プログラムのおかげだ。万が一ブラックホールに落下して全身をグニャグニャに引き伸ばされても
ある程度は大丈夫なように作られてる らしい。
本当の仕組みなんざ誰も知らないがこの10年 マニュアルを勉強して何をどうすればどうなるみたいな使い方くらいはみんな覚えたんだ。お前以外はな。
で、よく聞け この状態でもここまで深くブラックホールに食い込んだら脱出はもう無理だ。 本来 トラジックバースト お前が何をとちくるってかブラックホールに向けて突撃に使った機能はな
本来 ブラックホールに捕まった時に脱出するために用意された機能なんだよ!
何をとち狂ったか知らんが今はとにかく生き延びる方法だ。このまま超光速でブラックホールに突き進んでもシステムの限界が来て結局船ごとバラバラになるだろう。
だがあらゆる策がなくなったときに生命維持を最優先にする最終機能がこの船には搭載されていて、それを使うと宇宙の極限的な環境でもなんとか生命を維持できる機能があると書いてあった。
それはこのブラックホールにも適応できる。 だがそれを使用すると船は動力をほぼ使い切って使い物にならなくなる。この方舟のエンジンは無限不可能性ドライブを使用してるから実質的に半永久的に動力が尽きない使用だがそれを完全に使い切ることで
一回だけ乗組員に超環境に適応させるという代物らしい。 それを使用するとブラックホールの中で人類が生き延びる上で最も重大な問題である重力と物理時間も関係なくなる。
そのあとは、そのあとはブラックホールの外まで歩いて行け とそんな突飛な内容がマニュアルの最終章に書いてある。何がどうなるかわからんがこのままこうしていても死ぬだけだ。
俺たちに選択肢はないんだ わかったか比呂保保。
もうどうなるか分かったもんじゃないが
お前が記した未来の情報から出てきた設計図に載っていたマシンなんだ、マニュアルがある以上 何かあるって信じたいぜ。
操作パネルの権限はここにいる中でお前しか権限を持っていないんだからやってもらわないと困るぜ。
比呂保保は大体の内容は把握したものの まぁこのまま死ぬ以外にも選択肢があると言うことでとりあえず承諾した。
どのみちこの旅はもう終わりだ。リセット癖のある比呂保保は一旦今回の旅をリセットしたことで悦に浸っていたがそれで冷静になり生き延びると言う道を承諾した。
青年チー牛に言われるままに操作端末をいじり、複数回 本当にこの操作を実行しますか?
船の機能は停止して宇宙に放り出される事になります。こちらは緊急中の緊急時にしか使用を推奨できない極めてリスクも高いシステムですが本当によろしいですか? と採算 聞かれたあと
全てにハイを押して、 指紋と網膜スキャン 静脈スキャン 骨格 遺伝子センサー 声紋 あらゆるセンサーで比呂保保本人だと言う確認がシステムによって行われたあとで
それは実行された。
方舟がシステムを起動させると
無限不可能性ドライブ搭載のエンジンが青白く眩い光を放ち、超高速でルーターが回転し始めた。そのルーター自体数千万個あり、内側を回るもの、外側を回るもの、そう言った装置が時計回り、反時計回りに回転しながら、それぞれに影響を与えつつ多重演算と多重エネルギー抽出を行っていた。
それぞれの回転は通常時の数万倍の速さで回転し始め、一個一個のパースという四角い箱に注がれるエネルギーは数億倍 情報伝達スピードに至っては数兆倍というところまで達して、常軌を逸した計算がスタートした。
ひとしきり艦内のあらゆる生命体のデータを観測し周囲の状況と環境情報を人類が観測できないレベルまで情報を取得したあと、それを解析して人類にとって最適な状態を設定した。
そこからエネルギーをさまざまな状態に変化させ組み合わせ、それぞれを非常に精密な環境と状態 量で調合 分解 結合を最適な順番で繰り返し
膨大なエネルギーの中から濃縮されほんの少しづつ凝縮された雫のような真っ黒な深円の物質が
艦内でスパゲッティみたいに伸びきってるチー牛たちの近くに一人一人送信され
目の前で弾けたと思ったら襲いかかるような勢いでチー牛たちの周囲を包み込み接触するまじかで急速に速度を落とし、肌に付着してそのままゆっくりと浸透していった。
浸透する過程で色は真黒から徐々に紺色 青色 水色と グラデーションのように色を変えていきながら 体の細胞 遺伝子 分子 原子 さらに原子の隙間に至るまで余す所なく浸透していった。
そしてチー牛たちがかけている黒縁の四角いメガネにもしっとりと浸透していった。
ひとしきり浸透したあと、艦内の至る所から光が照射されて、体の中の物質に変化を与えていた。それらは一つ一つに効能があるらしく、体の構造 遺伝子 分子結合 原子運動 認識 神経伝達 脳の領域 あらゆるものを書き換えていった。
しばらくするとチー牛たちはスパゲッティ上に伸びた状態から元のチー牛の姿に戻っていき自由に動けるようになった。
なんだなんだと自体をよくわかってないチー牛たちは騒いでいたがそうこうしてるうちに船は急速に速度を落として落下していった。
ブラックホールの中にも重力が濃い場所と薄い場所があり、いろんな重力障壁に衝突してちょっとづつ減速した挙句、
重力の川のようなところに入った方舟は重力が水のように弾けた後でスペースマウンテンのジェットコースターみたいにしばらくいろんな方向に重力の川に沿って流されていったあと
重力の穴と呼ぶべきところにスポッとハマって 超重力の中でさらに穴が空いてるようなところに落ちていった。落ちている方向は比呂保保たちにとっての上方部分である。
そして重力の穴と重力の広場をすぎ、とびきり濃い重力のある場所に不時着した。
方舟はすでに息絶えており、エネルギーを使い果たしていた。
チー牛たちはよそよそと穴が空いたりした方舟を脱出して 重力場の地面と言うべき境界線に降り立って 歩いて出ていった。
方舟はしばらくそこにたたづんでいたが、しばらくすると超重力場の地面にゆっくりと底なし沼にゆっくりと沈むような形で時間をかけて沈んでいった。
何がなんだかわからないと言ったチー牛たちだったが 青年チー牛が緊急装置を起動させて生態改変を行ったらしいということを説明した。
チー牛たちは船のシステムによって一時的に重力と物理時間の制約を受けることなく、システムが導き出した最適な状態で生き残れるように遺伝子やら分子やら原子やらさらにそれよりずっと小さい空間に至るまで書き換えが行われたらしいとのことだった。
船は動力を失ったため徐々に超重力の影響を受け始めたために沈んでいったが、チー牛たちは重力場を観測してそこを足場にしたり、重力を水中のように掴んで泳いで移動したりできるようになっていた。
しかしその速度は普通で、というのは非力なチー牛が出せる全力の速度、つまり歩くとせいぜい時速5キロくらいで泳ぐとも同じくらい、全力で走っても12キロくらいの速度しかなかった。
わかるだろうか 広大な宇宙の中の一つの恒星の中にいて、機械や装置の恩恵を受けずに歩くような速度でしか移動できないこの状況の意味を。
生き残るために仕方なかったとはいえ、未だブラックホールからの脱出の目処は立たないどころか どことも知らない暗黒物質の中で1500人近くのチー牛はオロオロしながら立ち往生していた。
大半のチー牛はそもそもなんでブラックホールにいるのか理解してなかったし 比呂保保たちと青年チー牛たちの争い自体に気がついてもいなかったのだから。
しばらくそこに留まっていたチー牛たちはとにかく状況の整理と把握 説明に費やしてようやく状況と今後取るべき手段に関してみんなに浸透していった。
とどのつまり比呂保保がいきなりノスタルジーに浸った挙句センチメンタルになってさらに発狂したことで船の方角をブラックホールに向けて突進させたあと、
青年チー牛の機転によって緊急安全装置を使用してなんとかチー牛の絶滅を免れた ということだった。要は全て比呂保保のせいである。
みんな大声で叫び始めた。 ふざけるなよ比呂保保!お前何をしてくれてるんだ! リ・アジュール帝国での日々が幸せなものだったってなんだよ!
説明しろ比呂保保! 裏切り者! このコウモリ野郎! なんでこんなことしたんだ!
皆の怒りも尤もである。一体何故比呂保保はこんなことをしたのだろうか。急にパニクった挙句全く関係ないものたちを巻き込んで集団で自殺を図ったようなものでありていにいって許されざる罪である。
比呂保保は皆に罵倒されるのを下を向きながらも若干不遜な態度を貫きながらただ黙って聞いていた。
おい何黙ってるんだ比呂保保! なんとかいえ比呂保保! お前全然反省してないだろ! 謝れ比呂保保!
数時間にわたって周囲を囲まれて順番に罵声を浴びさせられた後で比呂保保は言った。
お前らが悪いんだろ 僕に意地悪して 追い詰めて。 お前らが僕に優しくしていれば僕も追い詰められずに済んだしこんなことをしないで済んだんだ。
お前らの態度やを前らが作ってきた空気そのものが僕をこういう状態に導いたんだろ。ってことは実質的にお前らがこの状況を作り出したようなものじゃないか。
自分がしでかした悪事を他人の責任にした挙句に僕だけを責めるなんてお門違いも甚だしい。自分のケツは自分で拭けよ。ほら トイレットペーパーあげるからさ。
それを聞いてチー牛たちは激昂した。
ふ! ふざけるなー!
この状況を作ったのが俺たちのせいだと!?
どの口が言うんだー!
チー牛たちは比呂保保につかみ掛かったが
何故か暴力的な行為となるとお互いに接触できないようで、場所がズレてしまうという結果になった。
おそらくこういう極限状態で仲間同士できづつけあわないようにとシステムが与えた制約なのだろう。
比呂保保は早い段階で理解していたので露悪的な態度を崩さなかった。
この状況を比呂保保は楽しんでおり、自分にいい思いをさせなかったこの船の連中に少しでも嫌な気分になってもらおうと躍起になってすらいた。
実際のところ、比呂保保はもうすでに降りていたのだ。人生というか社会というかコミュニティとか関係とか責任とか人生とかそう言った諸々に対して
もう興味が薄れていっていた。
結果自暴自棄になり思いつく趣味といえばこの環境ではなるべく周りを怒らせて、でも暴力を振るうことができないので怒り狂うチー牛たちの顔を眺めて楽しもうという方向に趣向の向きを向けていたのだった。
こんな遊びをしているのはおそらくハヤットの影響だっただろう。
一般人は自分がやられた嫌なことを、いざという時つい他人にしてしまうものなのだ。立派な人間はこうはなるまいと誓って自分を諌め成長していくが、比呂保保のような普通の人間はついしでかしてしまうのだ。
嫌なことというのは一番記憶に残る。そして脳内で何万回と反芻しまうものなのだ。それは生きてる間に幾度もフラッシュバックして容易にわすれることなどかなわない。
忘れようとするということは意識するということで、その度に神経を侵され思考が乗っ取られて冷静さを書き苛立ちや怒りに苦しめられることになるのだ。
比呂保保はそうやって人の数倍長く生きてる分 脳内に刻み込まれた過去の痛みは人よりもさらに大きく暗く刻まれていた。
こうなるともう人格を良く形成していこうなどというお花畑な感覚など持てないものだ。
比呂保保は今になってやっとハヤットがやっていた人の絶望を見て愉悦を感じるという悪趣味の面白みに気がつき出していたものの、やっていることはハヤットのそれとは比べ物にならないくらいチープで幼稚な反応をして見せてるだけであった。
比呂保保のような普通のチー牛は、自分の中で大きな確信というものを経て何か安っぽい自己啓発本やら思いついたズレた発想に邁進して何かをわかった気になって気持ち悪い行動をとることがある。
今回の比呂保保にとってのその何か歪で非生産的で気持ち悪いことに対して確信や閃きを持ってしまったのが、今回でいう人の絶望を見てやるぜヒャッヒャッヒャ
みたいなやつであり、そう言ったことに善良なチー牛が1000名近く巻き込まれた形だ。
そんなこんなで言い争いはあるものの結局暴力などを一切振るえないということで比呂保保への制裁は後回しにする他なかった。
とにかくまずは脱出するしかないので青年チー牛やらリーダーっぽいチー牛たちがなんとかみんなをまとめ上げてとにかく動こう。 この安全装置がいつまで自分たちに効力を持つかわからない。
どんなに時間がかかってでも歩いてブラックホールを脱出してなんとか方角だけでもわかる場所に出て、 できれば地球に戻る方法を探すしかない。 そう語ってみんなを納得させていった。
全部比呂保保のせいなのになんでこんな目に遭わないといけないんだよ あり得ないだろ ブラックホールの中や宇宙空間歩いたり泳いで旅するなんて普通に考えてあり得ないだろ
などとみんなぶつぶつ言いつつもこうしていても始まらないという一点のみ統一した見解というころで渋々移動を開始した。
ブラックホールは定期的に何かを吸い込むようで
歩いてると吸い込まれた超巨大な惑星が通り過ぎる様子が見えたり、なぜか蟹工船が浮かんだり沈んだりしていた。
鯨が泳いでいたこともあった。
ブラックホールの中は重力によって一方通行で落下しているというわけではどうやらないらしく、中で雑多に重力の強い場所や弱い場所がありその中には流動するような重力があって重力の中を流れていく重力があったりする。
それによってただ圧縮されるのではないため 過去に吸収した多くの惑星の文明やら都市やらさまざまな文化物が入り乱れて、時間感覚も重力の濃淡と同様異なるため
引き裂かれた同じ石板が一方では何億年と時間が経ったものがありその真横で新品同様のものが半分づつに分かれて綺麗に風化している様子を見ることができたのだった。
比呂保保たちの持つ文明の遥か昔に文明を持った惑星が途方のない昔にここに吸収されたであろう。
ブラックホールはそんな宇宙の記録装置としての機能も持っているようだった。
そんな景色を眺めながら比呂保保達チー牛の民はひたすらブラックホールの中を歩き続けていた。
最初のうちは比呂保保をみんなで責める と言う儀式が毎日のように行われて この責任をどう取らせるかと言う話題で永遠と議論されたが こんなところで法も責任もあったもんじゃない 結局 チー牛たちにできるのは ただひたすら歩き続けることしかないのだった
ブラックホールの中は静かだった、真っ暗な時もあれば閃光のようにとてつもなく眩い光が差している時もあった。
不思議な景色が煌々と煌めき この世のものとは思えない美しさの時もあれば 何も見えない時もあった。
超高速で空 というか宇宙や外側の景色が動いてるのが見えるということもあった。
長大な時間が流れた。最初のうちは歩きながらいろんな会話がなされたがだんだん喋ることもなくなって行った。
1500人近くいたはずのチー牛はいつのまにか少しづつハグれてしまってて行った。こんなブラックホールの中、連絡手段もなくひとたびはぐれたら2度と合流することは無理だろう。
それでもチー牛の民たちはただただ歩き続けた。
物理的に時間が流れない 重力の影響も受けない
歩くように移動することもできるし 泳ぐように移動することもできる中で みんなでなるべく固まって動くようにしてきたが
精神は別だ。
もう帰りたい、、!! 地球に、、! みずと大気と自然と大地のある自然に帰りたい!!!
一人の小さなチー牛が泣き喚出した。
それを見た比呂保保は子チー牛の元へとゆっくりと近づいていって言った。
そりゃそうだろ
比呂保保は子チー牛に吐き捨てるように行った。
うう、、うう、、
子供のチー牛が地面に蹲って泣いてるところを
比呂保保は自分の顔がよーく見えるように比呂保保もしゃがみ混んで顔の真横まで顔を近づけて意地悪くいった。こんな暗かったり異様に眩しかったりするしかない空間で比呂保保が思いついた暇つぶしはこうやって弱そうな相手を見つけて精神的な嫌がらせをすることだった。
だから今こうして歩いて地球に向かってるんじゃないか〜。ブラックホールから出れば大体の星の方角を見て 地球のある銀河に向かって歩いていくんだよ〜。比呂保保は幼いチー牛に対して臭い息を吐きかけながら、
できるだけ意地悪く精神的なダメージを与えられる言葉を一生懸命考えて言って見せていた。
いいかい バカな君にもわかるように説明してあげよう この宇宙の直径は930億光年と推測されていてね、で、これをキロメートルに換算すると約879京7300兆キロメートルになるよ〜。
この距離を歩いて渡ろうとすると約2京884億年くらいはかかるねー きみバカだから京わかんないでしょ バカな君にもわかるようにいうとね 10の次は100なんだ 100ってわかるかな〜?
それがどんどん大きくなってね 万の1000倍が億 その10000倍が兆 さらにその10000倍が京なんだよ〜
うう、、 うう、、
僕たちは大体僕らの時間で言う数万年かけてもまだこのブラックホールの外にすら辿り着けていないの、それはなぜかというと君みたいな子供の歩みにも全体が合わせてるからなんだよ〜? 君のせいでゆっくり歩いてるんだ。 そんな中で地球に帰りたいだって?
あと何億年歩けば帰れるかな〜 こんなところで泣き喚いてる君に地球に帰るなんてできまちゅかね〜??
うぅ うぅーーー!!!!
小学生くらいのチー牛に向かって数万年は生きてるはずの比呂保保は大人気なく最大限意地悪く行った。比呂保保の精神年齢は時間と共に特に成長すると言うことはなかったらしい。
そもそも地球も太陽系も銀河そのものだって常に同じ位置にいるわけじゃないんだ、太陽系は銀河の回転に合わせてスパイラル上に位置を変え続けていて絶対的に同じ座標にあることなんて永遠にないんじゃないかな。
今僕らは重力の影響を受けない状態になってるってことはもしかしたらいくら歩いたって僕らの地球は遠ざかる一方かもしれないし、それはまずブラックホールから出ないとわかりようもない。
まぁその理屈で行くとじっとしてたらかってにブラックホールからも出られるんじゃないかって気もするけどどうやらそういうわけでもないらしいし、いったい自分たちがどういう状況なのかわかったもんじゃないんだ
それでもみんながまんしてあるいてるのにギャーギャー泣きわめいて甘えようとするのやめなよ。みんなの気持ちが下がるじゃん
厭味ったらしくいったあとですこしだけ真顔でそんなことをいった比呂保保だった。
それを聞いてもっと泣き出した子チー牛はわんわん泣きながらも歩き続けたが、1年後くらいにはどこかはぐれていなくなっていた。
方舟に乗船したチー牛は当初1500人いた
がここで歩き続けて数十年と経つにつれ
一人 また一人といなくなっていた。
仲の良いものがいるチー牛は心が折れて座り込んでいても仲間が声をかけてくれたり体を起こしてくれたり、みんなを呼び止めて歩みを止めることで救われたものがいるが
コミュ力が無いチー牛は一人で座っていると 集団から取り残されていて、後ろに居る者たちはそれに気がついていてもそれをそっと無視していたりした。コミュ障同士が居るとそう言うことはよく起きるものだ。
ちょっと声を一声あげる。 声を一つかけてみる。 それだけで救われる命があったりするものだが、コミュ症チー牛にはその一声 ができないのだ。
中には集団で歩くこと自体がしんどいと主張する者がいた。本来チー牛たちは皆集団行動は苦手だ。
そこにこんな大所帯で移動するのも酷な話で
結果はぐれてしまうものが出ている現状から、
自分たちで管理できる仲の良い数人で自分たちは別の方向から脱出を目指すと言うものたちが複数出て、そうやって集団はだんだん小さくなって行った。
なんやかんやで比呂保保は集団の求心力だったり、責めを負うべき対象だったりでこのまま比呂保保を逃しはしないといった青年部のチー牛と
以前から比呂保保を狂信してる勢力が周囲にいたおかげで集団を保っていた。
1000年近く経っただろうか。
皆 ずっと歩き続けていた。 思考すら放棄していたものもいた。ただ魚の群れのように先頭があっちを向いたら瞬時にクルッと回って同じように移動する。
こういう動作はチー牛たちが定型の人たちと混ざり合って暮らしていた頃は一番苦手な行動のはずだったが、1000年もこんなことを繰り返していると反射でそれができるようになってしまっていたのだ。
そうやって永遠に感じられるような時間を比呂保保たちは歩き続けていた。
次第にチー牛たちが歩いたり泳いだりしているうちに何か特殊な力を感じるところへと引き寄せられて行った。
ここの向かう先はどうやら特異点と呼ばれる場所のようだと 老チー牛は語っていた。本来みんなのまとめ役になるはずだった老チー牛は過酷な宇宙旅行で曖昧になって情緒不安定 精神幼稚化してしまったため、
冷静な判断ができそうに無いとしてまとめる役はみづから引き下がることにしていた。ただその知見はチー牛の中でダントツだったため基本的にアドバイザーとしての発言はしていた。
老チー牛の話を聞いてチー牛たちは落胆した。
歩き始めてから途方もない時間をただ歩くということだけに費やしたというのに、ブラックホール脱出どころか、どうやら進む方向を間違えてしまっていたらしい。単純に何かが流れてるように感じる方の反対側に向かえば外側 というノリで歩いていたが正確な方角などわかるはずもないので
そうしてきたにも関わらず、ついにたどり着いたのがなんとブラックホールの中心のようだと知った時は一同愕然とした。完全に間違った方向に進んでいた。また今から同じだけの距離を戻ってさらに外側を目指したら一体どれほどの時間がかかるというのだ。
物理時間は今 チー牛たちに影響を与えないものの、精神や時間感覚が大きく変化したというわけではないのだ。ブラックホールの中では朝昼晩などないし1日という感覚もないが、それでもはっきりいって体感時間で言えば数万年を超えていたと感じているものも少なくない
それほどの時間を歩いてきたのだった。
特異点ってブラックホールの中心のことだろ?
ダメじゃん もう ここから歩いたり泳いで外に出るってなったらどこから行っても来た道の倍は歩くってことだろ。俺はもう降りる ここまでだ。
多くのチー牛たちが落胆し肩を落とし 絶望し
外に出るのを諦めようとしていた。
青年チー牛たちはまだ元気で何いってるんだ!
どこまでこの状態が続くかわからないんだぞ すぐにでもまた歩き出して外に出ないと!
そんなことをワーワー話していたよそで
比呂保保は特異点が見せる幻想的な景色に酔い逸れていた。なんて美しい場所だろう。 幾重にも重なった虹のような 重力のような 時間に色をつけたらこんな感じなのだろうか 外から吸収した多種多様な光 物質 そういったものを凝縮圧縮して攪拌させ 混ざり合ったものがここに集中して
なのに一緒くたに画一化されず色折々の光が神々しく発せられて こんな場所でこんな景色が見られる喜びを比呂保保は堪能していた。 ただ美しかった。
さぁみんな 歩こう 比呂保保は
光の中心がどうなっているのかただみたかっただけだったが 他のものもまた光の水流に導かれるようにして歩み始めた。 どうせなら一番中心だけみて そこを目処に今後を考える。それはみんな共通して感じていたことだった。
ついに光が あるいは見たことのない物質が 暗黒が 全方位から中心に集まっている
ブラックホールの本当の中心 特異点に辿り着いた。