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原始時代のチー牛  作者: akira
14/22

人類の家畜になるチー牛



リ・アジュール帝国での比呂保保の扱いは存外悪くなかった。むしろこの国で放映されていた、チー牛国ニッホンを陥れるためにプロパガンダとして制作されたアニメが単純に面白く大ヒットしていたおかげでみんな比呂保保のことをマスコットのような感覚で受け入れてしまっていた。 



奴隷や捕虜として悪い扱いを受けることは特になく、別段悪くない、というより普通の一般人からしたらかなりいい部屋をあてがわれて、3食食事付き 内容はこの国のトップ政治家が特殊要件でホテルや官邸に缶詰になる時に配給されるものを基本としておりはっきり言って豪華だった。


比呂保保はこのようにして軟禁されてたまに国営放送のバラエティ番組に出されてアニメのノリでいじられてちょっとはずかしい感じに持ってかれて笑いを取る というようなことをさせられていた。


番組によってはハヤットが司会をしているクイズ番組に出演して比呂保保がボケてハヤットがツッコミというような図式が確立されて人気番組となっていた。



恥ずかしいと言えば恥ずかしいが視聴者は大体素直に楽しんでおり悪意というよりもお笑い芸人のネタを見てケタケタ笑ってるような感じで有名人として一種の尊敬も集めていた。



比呂保保は、リ・アジュール帝国のパリピ達は最低のクズどもしかいないのかと思っていたが リア充たちは別段大きな偏見や偏ったもののの方をしておらず、単純にフラットゆへに空気に導かれると善悪関係なく自分の意思関係なくなんでもしてしまうというような特性があるだけのように見えた。

ハヤットみたいなやつに変な空気を作られない限り根っこは普通のようだった。 



こうしてギャグ用員として国に笑いを提供する仕事を定期的にさせられていた比呂保保は、それでもチー牛国ニッホンで何も目的なくゲームだけしていた頃より幾分まともな生活をしていた。シンプルにやることがあるというのは人間にとって悪くないものなのかもしれない。




そんな感じで過ごしていて数年が経った。




比呂保保はテレビの仕事でハヤットに散々いじられた後で、収録の帰りに今日は連れて行きたいところがあると言われ 選択権のない比呂保保は素直に従ってついていった。



そこはチー牛農場と書かれた場所だった。



そこにはチー牛が植えてあり顔だけが土から盛り出してい。全て比呂保保のクローンで食用として栽培されてるらしい。


リ・アジュール帝国の奴らは漏れなくハヤットに洗脳されていて頭がおかしくなってるらしい!こんな悍ましいものを見てなんとも思わないのか!! 


ハヤット 貴様!!!


比呂保保はハヤットに掴み掛かった。 流石にやっていいことと悪いことがあると思った比呂保保はチー牛があんなあられも無い姿で土に植えられて栽培されているという事実に発狂した。


ふざけるな! なんだこの非人道的な行いは!?

こんなことは人間のしていいことじゃないぞ!!



ひろほほ 落ち着けよ このままじゃチー牛はお前一人だ。お前が何かのきっかけでいなくなったり死んでしまったりしたら貴重な生物が一つこの世から消えてしまう。むしろ人道的な立場に則って俺たちはお前のクローンを作ってるんだぜ?むしろ感謝してほしいくらいさ。


その過程でチー牛は食用に適してることがわかったからこうして数を増やしてるんだ。


実際この間試食会があったんだけどチー牛の肉は美味かったよ。みんなも喜んでたんだ。これからもっと生産ラインを拡大させて一気に市場に流す手筈さ。キャンペーンも広告を打つ時期ももう決定してるんだ。あとアニメ化の話も来てるんだ。 比呂保保! この肉は売れるぞ!! 遺伝子提供者としてお前にもインセンティブが入るのさ。 契約書にサインしてくれ。


嬉しそうに話すハヤットを化け物を見るような目で見ながら


お前は生きていてはいけない化け物だ、、比呂保保はそう言って、しかし自分の無力さを感じながら近くのSPに引き離された。


そんな言葉もハヤットには一ミリも響かず日を跨ぎ、再びバラエティ番組に出ては笑いをとりちょっと恥ずかしい感じにされて、給料をもらい、不自由のない生活とそれなりにやりがいのある役割を与えられてすっかりこの国の移民としてなんとかやっていってしまっている比呂保保がいた。



そうやって適度にやりがいのある人生を送る一方でハヤットは次々に比呂保保の細胞を使っていろんな実験を行っていた。チー牛のクローンの繁殖は概ね成功し、大量生産に成功していた。



ハヤットの施策は大成功し、チー牛肉は飛ぶようにうれた。チー牛の肉はうまい。アニメの宣伝効果も抜群だった。


品種改良が繰り返され味に追求がされていった。 


A5のチー牛は1キロ5000ハヤットドルで取り引きされる高級品だった。 


ハヤットはそれ以外にもいろんな方法でチー牛を社会貢献に使えるアイディアを実行していった。


ペット化が立案され、チー牛を愛玩動物として飼い始める国民があらわれた。どこかあどけない無表情な顔、細身だけどおなかが少しでてる奇妙な形状 いつも猫背で下をむいてる姿が嗜虐心をくすぐるとして国民に大変よろこばれた。  


犬や猫の次に好まれるペットとしてチー牛ペットブームが到来した。少し郊外にいくと広いチッギュランと呼ばれる施設でチー牛を放し飼いにしても問題ない場所がでてきた。そこがあまりにも人気なので都内でも自由にチー牛をはなして走り回らせたいという飼い主からの要望で公園やビルの屋上など各地にチッギュランが出現するようになった。


チー牛同士仲良さそうに走り回り、冬はこたつでまるくなってすごしていた。


農場ではお肉としてだけでなく髪の毛や皮膚が食物繊維として優秀ということがわかり、チー牛の栽培がおこなわれていた。定期的に体の毛をそぎ落として食用として使われていた。


チー牛のフォアグラは絶品ということが広まり、一部の味のよさそうなチー牛の体を土にうめて、たらふく脂肪を取らせて一切運動させずに太らせた。この状態で数年過ごさせ、 

時期がくるとたっぷり脂肪が育った肝臓を摘出して出荷される。残りの部位は特においしくないのでそのまま廃棄された。


チー牛カフェという店が都内にできた。 

旦那がチー牛アレルギーで本当はチー牛を飼いたいけど飼えない家庭の妻と娘などが 少しでいいからチー牛と触れ合いたいという理由でチー牛カフェをおとづれた。



動物園におけるチー牛コーナーでは一番人気でチー牛の比呂くんは鳴き声が独特でイケメンチー牛として話題になり、東山動物園では連日 客を呼んだ。


花の改良も進みチー牛のタンポポという品種が作られた。

花弁の中にチー牛の顔がついており時折り何かを喋っているようだった。 恋の季節 春になると咲き、夏になる頃にはバラバラに砕け散って 小さなチー牛の顔のついたワタが宙を舞い悲しそうに散っていくのが大変可愛らしいとさ40代以上のマダムに大変人気が出て 町の風物詩になって行ったりした。 チー牛タンポポイベントなどがあると、あたり一面チー牛の顔がついたタンポポが見渡す限り平原を覆い尽くして大変な光景が見ることができた。



裏社会ではギャンブルのお題として活用されていた。

チー牛ファイトクラブといって 

それぞれの陣営が育てたチー牛を殴り合わせてどちらが勝つか賭け事をするというものだ。


競牛 というのもコンテンツとして浸透しており、これまた鍛えたチー牛を走らせてどのチー牛が勝つかをあてる競技だ。


チギュ掘りというのもニッチな所で人気で、ハヤットが品種改良して水の中で生きられるチー牛を開発した結果チー牛を釣り魚として活用するというものまであった。



チー牛は数が増えた。 食肉用に、野菜用に、高級食材用に、ペット用に、観賞用に。 


チー牛はもはや街のインフラに近い存在で、文化であり生き方のそばで寄り添う、リ・アジュール帝国の人々にとってなくてはならない存在だった。



人間とチー牛はこうして争うことなく仲良く共存して生きていける世界が完成した。



リ・アジュール帝国の国民たちはチー牛を愛していた。 ペットとして、高級食材として、日常のささやかなよろこびとして。


ハヤットはチー牛と陽キャが仲良く平和に暮らしていける世界を実現させた。みんなが笑顔だった。戦争は終わり争いがなくなり、いさかいがなくなり、インキャがこの世からいなくなりチー牛は役割を与えられ人々に貢献する笑顔のたえない、幸せな世界が完成したのだった。



ハヤットは数十年かかったが必要な戦後処理もおおむね終わり、チー牛が絶滅したあとにチー牛国ニッホンの傘下にいたチー牛以外の人類の処遇や待遇、もろもろの整理にようやくひとくぎりつき


世界のバランスをみごとに調和させてみせた。戦後の世界で国のバランスを整え、過剰な裕福も過剰な貧困もなく

偏見やゲリラの鎮圧をほどよく抑えきり、諸悪の根源であるチー牛という歴史的な禍根は、種族まるごと消滅させたためにきえた。


もちろん宗教としてのチー牛、教祖としての比呂保保をまだあがめているものは多いが、当の比呂保保本人は連日バラエティ番組で登壇しており、リ・アジュール帝国でも人気者として重要な位置にいるし、ハヤットに世界を併合されてからはその比呂保保のバラエティ番組をみんな見れるようになって、国民的アニメになったチー牛のものがたりも

旧チー牛国ニッホン傘下の人々にもそれなりに受け入れられていた。


そうやってたぐいまれなハヤットの調整力と戦後処理によって世界はバランスが整って、未来に大きな不安をかかえるものが実際的な意味で少なくなっていくにつれて、みなリ・アジュール帝国の統治を悪くないものだと感じるようになっていた。



こうして世界は平和になり、人類は史上初の惑星統一国家ができあがり、その統治は極めて上質、安定と繁栄は物質的な部分のみでなく精神的な意味での安定につながっていた。 人々は日々を幸せにすごした。たのしく、笑い合い、 

家に帰ればチー牛が迎えてくれる家庭、おいしいチー牛肉のすき焼き、おなかの調子を整えてくれるチー牛の毛根菜、娯楽を提供する。人とチー牛が共存する輝かしい光の世界が始まったのだった。




一方そのころ。



比呂保保はあいかわらず、バラエティの仕事やCMの撮影 グッズ監修、チー牛国ニッホンとリ・アジュール帝国による

戦争の映画化の話もきていた。原始時代の様子を研究の資料として提供する資料の執筆、 戦後処理への協力、多忙な日々を送っていた。


最初は自分のクローンであるチー牛の大量生産、家畜化に反対していた比呂保保だったが、

結局 役割をあたえられ、良い給料、良い部屋 やりがいのあるしごと 人気ものになれる愉悦など必要なものをあたえられて人生に大きな不満をもたない環境をつくってもらっていた比呂保保は、


わざわざそれを壊してまで争いを始めるほど義憤や正義感や強い意志の持ち主ではない 

基本的には普通の、一般人以下のチー牛なため、なんとなく役割をこなしていつの間にか時間が過ぎてしまう感じで

人生を消費していた。



さいしょの数年こそ厳重に監視がついていたが、今となっては自由に外を出歩けるし立ち入り禁止などの場所もほとんどない。 


戦争捕虜としてハヤットの国のものからの攻撃を受ける可能性も考慮されていたが、 バラエティ番組やアニメの効果でみな比呂保保に対して悪印象をもつものはそう多くなかった。


今でも出かける際は監視がつくが、実質 護衛SP兼監視 といった具合なのと長い間一緒にいたことでお互いSPたちとは悪い関係ではなかった。 


お互い守るべき境界線を守りつつかかわれるし

たまに普通に歩いてるときに酔っ払いや歌舞伎町のキャッチにだるがらみされた際はSPたちが守ってくれたりしていた。



比呂保保はすれ違うペット化されたチー牛や、焼肉として食べられているチー牛たちをみて思う所はもちろんあったが、ここにいる以上比呂保保が無力なのは変わらない。


ただ現実を受け入れるしかなかった。




いいようにハヤットの思い通りにすべてが運んでおり、この状況は原始時代で洞窟で暮らしていた時とそっくりだった。実際のところハヤット一人にすべてを決めさせていればすべてうまくいったのだ。


比呂保保のように言う事を聞かない 空気の読めない存在さへいなければ狩りだっていつもうまくいっていた。集団もまとまっていた。


当時はどうしてもだれかを間引かないと人類が存続できなかったがそういう基本的な諸問題のすべてがだいたい解決してる現代でハヤットが指導者になれば、いちいちだれか一人を犠牲にして社会を進める必要などないのでみんながちゃんと幸せになれるようにバランスをとってくれていた。


ハヤットは常軌を逸したレベルで空気のよめる人間だ。 いいかえるとみんなの中にはいれずに はぶかれていたものの空気やそういう輪の中にいても心地よくいられてない人がどう感じてるのか、


そういった人の繊細さをよく感じ取り、ナイーブさもよく理解していた。空気をあやつるなんていうのはそういった心の機微を理解していなければできないもので、単純にノリとか声が大きいとか立場差を利用したりとかそういう表層的な力だけで盛り上がってる空間はすぐに破綻をきたすものだ。


そんなハヤットが場の主導権を握るような空間であれば

みんな安心して楽しい時間を過ごせたものだった。


ハヤットのすることを99パーセントは正義の側に属し

残り1パーセント程度で悪意を影で放出してるにすぎない。


そこらの一般人のだれもがそれくらいの悪意はもってる。


もしチー牛国ニッホンが勝利していてもこんなにきれいに戦後処理できただろうか?チー牛国ニッホンのみんなはチー牛にはやさしかったが、そうでないものに対して差別意識が強かった。同じチー牛でも自分より下とわかると平気で見下していた。


もちろんどこだっていいところと悪いところがあるが、

結果的にハヤットはこの星を統一して現実的に社会を幸せにしているのは事実なのだ。物質的な豊かさだけじゃなく、心の安定にたいして、強い思想をあたえて幸福をめざすのではなく自発的な豊かさを自分で見出すことができる強さを自然と学んでいけるようなそんな嫌味じゃない真面目さのなかで過ごしている臣民たちをみて。


この国の文明や科学技術のレベルは、比呂保保の聖典解読がなかった分チー牛国ニッホンに劣っていたが

心の在り方においてチー牛国ニッホンより優れたものがあると感じていた。



比呂保保は理想を掲げ、あらそい、失意の中でもがき、人の悪意をしり、人の善意をしり、心変わりを知り、


そんな中でハヤットの悪意と、しかし結局一番この世界に貢献しているハヤット自身の 行動 というものを知り

チー牛が家畜化されてしまった世界で生きている自分、今の生活に不満をいだいていない自分、

いいようにハヤットに飼い殺しにされている自分、ハヤットの底知れない悪意と相反して実際にはハヤットのほうが

この世界をいい方向にもっていっている事実 理想をかかげてやぶれてしまった自分バラエティ番組で笑われて生きている自分 敵国の臣民に実際的に親しみをもたれてしまっている現状 捕虜になってからの多くのことを顧みていた。


とてもいろんなことがあった


考え方を整理できないまま、チー牛がリ・アジュール帝国に家畜化がどんどん進み、しかし世界は争いのない平和な世界となり文明が発展し、おだやかな生活を送ってる民、

人類以上初の惑星全体を通した統一国家を成し遂げたハヤットの偉業。


これから世界はハヤットの統治のもとで物質的だけでなく精神的にも豊な国になっていくだろう。


チー牛の理想郷なんて最初からいらなかったんじゃないのか? この世界にチー牛は必要だったんだろうか

もしチー牛の理想郷なんかをぼくがつくらなければハヤットの指導のもと世界はもっとはやくいい方向に進んでいたんじゃないのか。世界にとっての悪はむしろぼくたちのほうだったんじゃないのか。


そんなことを考えながら、比呂保保は自室にもどっていった。


このままじゃいけない、そんなことを考えながら

結局なにもしないまま、あの日チー牛の楽園 繁栄の象徴であるチー牛ポリスをハヤットの裏切りによってSOLで壊滅させられてからすでに15年以上の月日がたっていた。


その間比呂保保はずっと、このままじゃいけない。

という焦燥感だけをいだいていた。 そしてただ焦燥感を抱いていたというだけで

いつものようになにも行動に移すことはなかった。




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