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遥か遠くの君達へ  作者:
第一章 リトライ編
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4話 修練場

 金曜日、学校生活三日目である。

 まだ冒険者らしい授業は行われていない。簡単な部分を触っておいて来週から本格的に行われるのだろう。


(はじめ)~帰りに放課後遊びにいかね?」


「ああ、悪い。今日は仕様も確かめたくて修練場の申請をしていたんだ。放課後はそこで鍛錬をする予定なんだ」


「もう修練場とか、張り切ってんねぇ。ちなみにあれってそんな簡単に申請が通るもんなの?」


「修練よりも迷宮に行ってる人が殆どらしいからな。修練場は案外空いているらしい」


 帰りのホームルームの後に修練場へと向かう。


 この学校の修練場は東京ドームと同程度の面積を持つ施設だ。

 全部で三区画に分かれており、戦闘人形と戦闘を行える第一区画、魔法の訓練を行える第二区画、そして遺跡の効果を試す為に他より広く取られている第三区画。


 今回俺が申請したのは戦闘人形と戦闘を行える第一区画である。


 第一区画まで移動すると、幾分かの人の通り道と戦闘人形との訓練が行える場所とが線で区切られていた。一つのスペースはおよそ柔道場の畳分はあるだろうか、一人が戦う分には十分だと感じる。


 スペースにはそれぞれ番号が指定されており、予約した時に提示される場所を使用できる形になっている。


「ここだな」


 今回俺が使用できたのは07番のスペース。

 線で区切られたスペースの中に足を踏み入れる。


 中にあるのは中央で自立している戦闘人形と、通路側にある台座だ。

 戦闘人形はプログラムされた動きで対象を攻撃し、対象が終了の合図をとることで機能を停止させる。台座の役割はプログラムの段階を操作する事ができる。


 戦闘プログラムは全7段階存在する。

 1段階目は基礎的な動きしかせず、軽く武術を嗜んでいるものなら誰でも勝つことができる程度。反対に7段階目は冒険者学校の教師陣に準じる程の能力を発揮する。人形だと侮れば痛い目を見るのは挑んだ先達と病院に運ばれた量を見れば明らかだった。


「取り敢えず、3段階」


 台座を操作し、強さを指定する。

 十秒のカウントが現れ、中央の人形の瞳に機械的な光が灯る。


「ふぅ」


 息を吐き、動き出した戦闘人形に迫る。

 俺の動きに合わせ、戦闘プログラム通りに稼働する。


 出した拳は的確にガードされ、魔法の予兆を確認すれば直様に飛び退く。身体能力で言えばアマチュアのボクサーと言ったところだろうか。


「・・・・・・これで3段階かよ」


 教師陣のいる7段階目はまだまだ遠そうだ。







 第二区画に行く途中、知った顔を見つけた。

 二階に上り、手摺から彼を眺める。


「・・・・・・頑張ってる」


 こうして彼の姿を見るのは実は初めてのことではない。

 偶然ではあるが、彼が魔法の鍛錬をしているのを中学生の時に見つけた事がある。話かけようとも思ったのだが、逆に気を使わせてしまうかもしれないとその場を後にした。彼がどうして離れていったのかは薄々と分かっていたから。


 一度挫折したであろう彼は、それを乗り越えて努力していた。

 凄い事だ。自分より遥かに才能のある人を見ながら努力し続けるのは相当きついだろう。師匠が言っていた事だが、私は舟で、他の人はクロールで常に前の水流に揉まれながら進んでいるのだと呆れた表情で語っていたことを思い出す。


「あっ! こんなとこに居た! 待ってって言ったのに~ (つぼみ)のおたんこなす!」


 私の名前が呼ばれて横に視線を向ける。

 明るい曙色(あけぼのいろ)の髪をポニーテールにした少女が小走りにこちらに駆け寄る。


 彼女の名前は長倉(ながくら)(あかり)

 中学からの友人で、冒険者になるべくこの学校に入学したらしい。何事においても高い能力を持ち私と同じくAクラスに席を置く優等生だ。


「ねえ灯、自分より遥かに優れた人が傍にいるって苦しい?」


「え、なに、嫌味? 天才様は人の苦しみを知って愉悦に浸っちゃうんですか?」


「そんな訳ないでしょ」


 冗談冗談と肩を叩かれる。ちょっと痛い。


「そうだな~ その人が簡単にできることを自分はできない訳だから、プライドはあったもんじゃないだろうね」


「・・・・・・灯は?」


 少し怖くなって、灯はどうなのかと尋ねる。


「私? 私は努力すればすぐに上達する能力があるし、天才だってできないかもしれない唯一無二もある。だから嫉妬とかはしないかな。それよりもこんな事を聞いたって事は、あれれ~ 蕾ちゃんはちょっと不安になっちゃんたんでちゅか~」


「やめへ」


 頬をぷにぷにしてくる灯をなんとか押しのけて再び眼下の彼に視線を戻した。

 灯も視線の先を見て、ようやく彼に気付いたらしい。


「あの男子って確か、蕾が前に言ってた」


「私の幼馴染」


「そうだそうだ、確か名前は新界一君だったかな。どれどれ、幼馴染君の実力はどんなものかね」


 面白いものを見つけたと観戦しだす灯。

 口に手を置いて唸りながらしばし見続けて、徐々に彼女の瞳から興味が薄くなっているのが分かった。


「レベルは2、いや3かな。身体能力は高いけど、決め手がないから膠着してるね」


 全てが発展途上、魔法の発動、威力、戦闘の組み方。

 おそらくは実戦経験が足りてないのだろう。それは今からでもどうにでもなる事象ではあるが、友人には彼に伸びしろがあるようには見えなかったかもしれない。


「ちなみに蕾がレベル3と戦った時の戦闘時間は」


「ここではまだないけど、師匠の場所で使った同系統のものでは3秒だった」


「うっわ、怪物じゃん。私はその10倍はかかったのに」


 レベル3では私の魔法を防ぐことはできない。防御ごと真正面から吹き飛ばす威力を出せるように今まで訓練してきたのだ。速攻を仕掛けてきても、私の魔法発動の方が遥かに早い。


 師匠は常に実戦を想定して教える人だったから、その手の認識は他の人より強く結びついているのだろう。


「そろそろいこっか」


「うん」


 全ての結果は努力の延長戦である。

 ただ、例外も存在する。

 師匠の言葉を思い出す。


 ――努力と才能があって一流、そこに運という要素が加わって超一流です。そして比類なき覚悟を持つ者は、いずれ怪物と呼ばれるでしょう。


 去り際、彼の瞳を見る。

 色褪せる事のない輝くそれは、私以上の覚悟を世界に示していた。


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