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遥か遠くの君達へ  作者:
第一章 リトライ編
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3話 部活見学

 早朝五時に起床。顔を洗い、スポーツウェアに着替えた後は六時まで柔軟をすることから始まる。


「ふぅ~」


 百八十度の開脚、手を使わないでI時バランス。

 数年前まではガチガチだった体も今ではここまで柔らかくなった。


 肉体の柔軟性は体の故障を防ぐだけでなく、戦闘時の生存率を上げる事に比例する、というのはとある冒険者が残した言葉だ。


 十二分に体をほぐした後はランニングシューズを履いて十キロのランニングだ。

 適切な呼吸法を意識、かつ体内の魔力を動かして足に集中させる。これだけではまだなにも起こらないが、魔法式の構築、座標の指定、そして魔力操作を行う。


 そうすることで展開した魔法、今回は身体能力を飛躍させることができる。

 これが簡単な魔法のプロセス。別の方法では声や動作などで魔法式をインプットし術式展開の時間を簡略化させて発動させることも可能。


(全部できるようになれたらいいんだが)


 一つの方法を極めるのもいいだろう。ただ、手段を増やす事は決して悪い結果にはつながらないはずである。


 一流が一流を目指すのではなく、その先を見据えたうえでその座に座っているのと同じように。俺も天才の隣を目指すのではなく彼等を越えた先を見据えなければ当然その隣に腰を下ろす事はできない。


「努力し続ければ届くはずだ」


 などと言ってみる。

 ご先祖様からみれば随分と甘い考えだと叱咤を受けるかもしれない。


 ランニングが終わり、汗を拭き終わった後は食堂で朝食を摂る。

 流石は冒険者学校の寮というべきか、栄養管理はばっちりのようで体を作り上げるのに最適な献立であった。


(美味しいな)


 味も悪くない。

 食堂のおばちゃんには後でお礼の一つでも言っておこう。



 入学二日目の登校。

 新入生はまだ完全に馴染めていない様子で、少し浮足立って見える。


「うっす。おはよう一」


「ああ、おはよう誠二」


「やっぱ朝っぱらから運動してきたのか。入学したばかりだってのに。ちっとは動物園のナマケモノを見習ってみたらどうだ?」


「種族が異なる生物を上げられても困る。彼等は動き過ぎると死んでしまうのだから運動しない、というよりできないという答えの方が正しいだろう」


「ありゃ? そうだっけか。はははっ、まあいっか」


それよりも、と誠二は鞄から二枚のプリントを出して机の上に置く。


「これは?」


「部活のチラシだよ。面白そうなの見つけてきたから放課後見に行かないか」


 チラシを見る。

 『遺物愛好部』、『魔法式研究部』。


「どちらも玄人向けな部活な気がするが」


「遺物愛好部は初期に発掘された遺物なんかがあって使用が許可されているらしい。能力が定かではない遺物なんかもあるみたいで案外面白いかもしれないぜ」


「許可されているような遺物はどうせ等級の低いものばかりだろう。あまり興味はないな」


「だったら魔法式研究部はどうだ? ここは実際に新魔法の成果を出していてな、今までに二つの新魔法が生まれてるんだ」


「あまりにもリターンがあってないな。そんな時間があったら鍛錬をしていたほうがましだ。それに、俺はもう入る組織を決めている」


「え、そうなのか?」


 この学園の事は入学する前に一度調べている。その中でも、俺にぴったりだと思った組織が一つ。


「風紀委員会だ」


「げぇっ?!」


 誠一は『こいつ本当に正気か?!』というような目を俺に向けてくる。

 それもまあ仕方ない事ではある。というのも風紀委員会はある意味で有名な組織であるからだ。主に悪い意味で。


「おいおいやめとけって。病院行きになった奴は数知れず。特訓も厳し過ぎて殆どついていけないっていうぜ?」


「だからこそだよ。そこまでストイックにしてくれるというのならむしろ歓迎だ。俺の進みは牛歩だからな。少しでも前に進めるように鞭を打ってもらいたいんだ」


「はぁ、まぁお前がそこまで言うんならいいけど・・・・・・」


 この学校の風紀委員会は卒業後の進路や奨学金などの面において手堅いサポートを全面的に受けられるのだが、その過酷な訓練や業務について行けずにギブアップする者は多い。希望者の半数は一か月もしないうちに風紀委員会を後にするらしい。


 その事実を知っていてなお入りたいというのは、それに見合うだけのものがあるからだ。

 風紀委員の活動には地域の防衛が含まれる。例として迷宮からモンスターが出てこないように間引くことが挙げられる。


 本来であれば二級以上の冒険者でなければ入ることが出来ないCランクの迷宮もその間引きに含まれるのだ。命の危険が低い状態で上位の迷宮に入れるというのはこれ以上にない力となるはずだ。故に、なんとしても風紀委員に入りたい。


「怪我したら見舞いにはいってやるよ」


「なるべく病院の世話にはならないように頑張るさ」


 チャイムが鳴る。

 先生が教室に入りクラスメイトが席に着いたのを確認した後、口を開く。


「おはようございます。朝の連絡だけど、今日の放課後、もし生徒会か風紀委員会に興味がある人がいたら先生の元に来てください。ちょっとした説明がありますので」


 他の部活とは入り方が違うのだろうと納得する。

 人数制限もあるだろうし、予め選考について知らされるのだろう。




 放課後。

 ロングホームルームが終わるや、今朝の件について説明を受けたい人は職員室について来るように言われる。先生の後を付いていくのは俺と、後はクラスメイトが二人のみだった。


 移動中、二人と軽く会話する。


「自己紹介でも言ったけど改めて。畠山(はたけやま)祐介(ゆうすけ)だ、よろしく。ちなみに風紀委員会志望」


「わ、綿内(わたない)(みやび)です。同じく、風紀委員会志望。よ、よろしくお願い、します」


 畠山は黒髪で身長は約175センチの優男。

 綿内は茶髪ボブカットでおどおどした印象を受ける。一見してとてもあの風紀委員会を志望するような人物には見えなかった。


「新界だ。俺も風紀委員会を志望しようと思う。一緒になれたらいいな」


 三人で、となると厳しいかもしれないが、クラスメイトがいるとなにかと心強いだろう。定員は分からないが、できることなら一緒に活動したい。


 そんなこんなで職員室に到着地、先生の後に続いて入室する。


「はい、これが風紀委員会の資料です」


 渡された資料に目を向ける。

 十ページほどの簡単なものだ。さっと目を通せば、活動内容やら後の進路などが記載されている様だった。


「それと風紀委員会の志望者は月曜日の放課後17時に体育館に集合とのことです。遅れないようにしてくださいね」


「分かりました。必要な持参物などはありますか?」


「特にはありません。まあ、しいて言うなら、覚悟だけはしていった方がいいかな」


 小首をかしげて微笑む東雲先生を見て嫌な予感を覚える。

 風紀委員はかなりのスパルタで有名だが、選考にもなにかしらの要素が含まれているということか。


「あまり言いたくはないのだけど、風紀委員会の志望者は選考から外れる場合が多いみたいだから、一応他の部活にも目を通してみてね」


「分かりました」


 職員室を後にし、二人と別れた後は先生が言っていたように他の部活の見学にでも行こうと足をのばす。


 取り敢えず誠二の言っていた『遺物愛好部』と『魔法式研究部』を見学してみる。

 遺物愛好部の部室は研究棟と言われる場所にあった。


 教室表示を確認し、ドアを開ける。

 遺物に興味がある数名の見学者が既に教室におり、教室内にある遺物を興味深そうに見ている。


(思ったよりも多いな)


 数十個はあるだろうか、多種多様の遺物が存在した。

 あまり高い等級のものはないが、それでも多少なりとも驚いてしまう数だ。


「これだけの数を研究できるのは冒険者学校の中でも珍しいんだ」


 背後から聞こえた声に振り返る。

 白衣を着た長身の男性が立っていた。おそらく教員であろうが、乱れた髪からはとてもそうは見えない。


「どうも、見学させて頂いています」


「うんうん、幾らでも見学していってくれ。そして入部してくれるとありがたいね、部費の申請がいくらかやりやすい」


「大変興味はあるので、検討しておきます」


「あれま、振られちゃったかな。じゃあもし君が遺物を獲得して売却してもいいものなら是非ともここを活用してもらいたいね。ここは遺物の買い取りも行っているから」


 流石に遺物で入手したものをそのまま売却するのは問題があるらしいが、一度冒険者協会に遺物の申請を出した後なら、売却関係の用紙を提出し確認が済めば買い取りが可能になるらしい。


 面倒な手順を踏む必要はあるが、幾分か買い取り価格が高いため活用する生徒がそこそこいるらしい。


 遺物愛好部を後にし、魔法式研究部の方にもお邪魔する。

 こちらはデモンストレーションのようなものを行っており、危険性のない魔法を使い、中空に動物や幻想的な世界を描く事で新入生の興味を引いていた。


 近くの論文を手に取り中を見る。


「・・・・・・」


 思わず顔を顰めてしまう理由は、俺との相性の問題だ。

 属性の問題、そして俺自身の性質の問題。それを考慮すると、魔法式研究部は俺の望む姿への架け橋にはなり得ないだろうと思う。


 やはり実戦経験のつめる風紀委員の選考を通過しなければならないらしい。


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