25話 金策
2章開始です(*´▽`*)
試験翌日。
学校の職員室で俺と誠二は東雲先生にDランクの迷宮に潜る為のライセンスを受け取っていた。
「はい、二人とも本当によく頑張りました。過去最高成績ということだから、誇ってもいいことですよ」
「「ありがとうございます」」
職員室でも結構話題になったんですよと嬉しそうに小声で耳打ちする先生は楽しそうだ。
礼を言って職員室を後にした俺達は、廊下を歩きながら新しくなったライセンスを見る。
この時期にDランク入場のライセンスが貰えるのは試験で3位以内に入ったチームのみだ。
今回は俺達とAクラスの2チームが獲得したことになる。その中には当然のように音無の名前もあった。
彼女等の結果は56層。
俺達とは違って順当に進んだうえでの記録だろう。それでここまで進めるのは流石の地力だ。音無一人だったなら更に進んでいたかもしれない。
今回の結果は事前の準備が上手く合致した結果だ。
作戦以外の全てでまだ劣っていることを忘れてはいけない。
「これで稼ぎも変わるな。とはいえどの迷宮がDランクで一番稼げるか一は知ってるか?」
「分からないな。寮に戻り次第調べるつもりだ」
「じゃあ丁度明日からゴールデンウィーク期間だからよ、一緒に潜らないか。流石に一人で挑むには少々力量が足りないと感じてるんだが」
「勿論、言われなかったら俺の方から誘うつもりだったよ」
そんな会話をしながら歩いていると、探るような視線をちらちらと感じる。
既に今回の結果は一年全員が周知している。
その上で俺達を知った生徒が一目確認しようとでもしているのだろう。
今朝もDクラスの教室では似た視線を向けられ、その中の一部が試験について色々と尋ねてきた。
別に隠すようなことは殆どない。
改竄した魔法のことを除いて大体の成り行きを説明した。
要約すると、モンスターを倒さず少人数で回避を優先して行動したと。
それを聞いた彼等の表情を見ればその心は簡単に透けて見えた。
“なんだ、逃げまわっていただけか”
だろう。
安心したような、少し嘲りを含んだような表情で彼等は去っていった。
中でも一番驚いたのはAクラスの生徒が文句を言いにきたことだ。
名前は聞いていないが、その彼は俺達が帰還するまで三位の成績を持っていたらしい。もう少しでというところで四位に落ちた彼等の気持ちが分からないことはないが、それでも自分の感情の整理ぐらいはして欲しい。
どこからか俺達の噂を聞いたのだろう彼は開口一番、
『冒険者がモンスターから逃げるとか恥ずかしくないのか! そんな不正で手に入れたライセンスは今すぐ返却すべきだ!』
と宣った。
なにを言っているんだこの人はと反論を述べようとしたが、肩をいからせている彼を見て、どうせ収拾がつかないと判断し反論の言葉を呑み込む。
「そうだな。冒険者は君の言うように斯くあるべきだろう。間違ってないよ」
否定しない解を残してその場は去った。
後方からまだ声がしたがそれは無視した。
(くそっ)
様々な言葉が浮かぶ。
そもそも踏破試験は討伐する必要なんてないだろう。
冒険者の姿も様々だろう。
八つ当たりがしただけだろう。
ただ、中でも一際強い感情は一つ。
――それができるならはなからやってるんだよっ!
これが始めに出てきた時点でその他の台詞はただの負け惜しみだ。
一番腹が立っているのは亀の如くしか進まぬ己の実力に対してなのだ。他者に羨望を抱く自分の感情を殺せるなら殺してやりたいほどに。
「待ってろ、その背中に追いついてやる」
体内の魔力制御を活性化させながら、俺は俺を殺せるよう歩き出す。
◇
学校が終わり、寮へと帰還した。
部屋の中に入るやどこぞのお嬢様のように着飾ったフーに姿が視界に入る。
『あ~あ~、庶民が帰ってきたよ。その嘗め回すような視線でボクの完璧な肢体を汚すのはやめて欲しいものだよほんと』
今日も戯言は絶好調である。
「子供の体になにか思う訳ないだろ」
『嘘だッ!』
歯をむき出して迫真の声をだす姿はどこぞのキャラにそっくりだ。
感触のない拳で叩いてくるフーを無視して実家から持ってきたパソコンを起動する。
検索するのはDランクの迷宮だ。
ゴールデンウィークを使えるなら少し遠出をするのもありだろう。誠二と打ち合わせは必要だが、内容によってはプラスの収支で終えられる可能性は大いにあるはずだ。
「【人狼の潜林】、【墓場に捧ぐ声】、【泳鰐渓谷】、素材の価値は高いが・・・・・・」
モンスターの情報を見るに、今の俺達では継戦は難しいかもしれない。
『なになに? 早速Dランクの迷宮について探しているのかい』
「ああ、誠二との二人で行こうと考えてるんだが、適度なモンスターの強さと金策を平行して行える場所はないかと」
『うんうん、お金は大事だね。一の貧相な防具は早く変えないととは思っていたんだ。・・・・・・う~ん、一だけならボクを使って荒稼ぎができるけど同行者付きかぁ』
う~ん、と唸りながら何事かを考えるフー。
彼女自身が特殊な遺物だ。なにか貴重な情報を得られるかもとキーボードを叩く手を止めて耳を傾ける。
『おっ、そうだあそこがあるじゃないか!』
「ど、どこだ?」
『ふっふっふ~、迷宮の名は【絡繰り大国】。ここには今後活動するのに有利に働く遺物が眠ってる・・・・・・はず!』
朧げなのか確信できていない発言は気になるが、自分で探すよりは確実かもしれない。
ネットに迷宮の名前を検索する。が、【絡繰り大国】という名の迷宮はなく、類似したもので【絡繰り屋敷】というのがあった。
「名前が違うが、この迷宮のことか?」
『ん? あ、そうそう。そっかまだ屋敷なんだ』
そう呟きながら嫌らしい笑みを浮かべる横顔を見なかったことにして、迷宮の情報を確認する。
ランク:D
迷宮名:【絡繰り屋敷】
出現モンスター:ミミック、スケルトン、レイス
「アンデッドか・・・・・・」
中でも問題はレイスだ。
奴等には実体が存在しないため物理攻撃が効かない。特殊な遺物や魔法でなら効果があるが、選択肢が一つ消えることは有効な攻撃手段を持たない俺には大きな問題だ。
それにアンデッド系モンスターの素材は比較的安くなる。
有用な武器屋防具に転化するのが難しいからだ。
モンスターの特性、そして金策の面から見てもあまり美味しい場所のようには思えないが。
そんな俺の考えを察したのか、フーは不敵な笑みを浮かべて指を振る。
『狙いはモンスターじゃないんだ。この迷宮は特殊でね、いたる個所に遺物が隠されているのさ。大体は低ランクのものだけど、中には使えるものもある』
なんでそんなことを知っているんだ、とはもう言うまい。
聞いたところではぐらかされるだけなのは分かっているから。
「なるほど、遺物を売って金策ってことか。そう考えると、積極的にモンスターと戦う必要がない訳で、霊体との戦闘を幾分か気楽に行えるのはかえって利点か?」
『今のうちに色んな特性のモンスターと接触しておくのはいい経験になるだろうね。それに、まだ“屋敷”なんていってるならお宝はまだまだ残ってそうだ』
よく分からないが、悪い笑みを浮かべるフーは何事かを企んでいるのだろう。
「・・・・・・あまり無茶なことに連れ出そうとするなよ。今回は誠二も一緒なんだから」
『はははっ、大丈夫大丈夫。でも、巨大なリターンには相応のリスクはあるものだから、そこはある程度割り切って欲しいな。君のお友達が軽い気持ちなら無理強いはしないとも』
「う~ん」
誠二の事情はある程度知っているため、強い覚悟をもっているのは間違いない。
しかし、一体どう説明したものか。
悩みながらも俺はスマホを手に取り誠二に電話を掛ける。
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