24話 結果
長倉灯side
台座を通して私達は迷宮の外に出る。
外はすっかり暗くなっている。
結局私達の班の最終到達階層は56層。歴代最高記録である57層には一歩届かなかった。
原因はフィールドに慣れるのが困難であった点だろう。
特に51階層からの沼地だ。
土魔法で足場を固めるも、戦闘中に足元の魔法操作まで手が届かずに何度か足を取られることになった。そこを見逃す程モンスターも甘くない、窮地とまではいかないまでも危ない場面に合う回数が増えた。
反省点は多い。
できれば潜り直したいぐらいだけれど、今はメンバーに感謝の言葉を言わなければ。
「皆お疲れ様。あともうちょっとだったね~」
「もっと俺が耐えられたら良かったんだけど・・・・・・」
「全然全然! 倉本君のおかげで後衛は誰も怪我してないし十分だよ」
石井さんと緒方さんも頷く。
個々人の力はAクラスに相応しいものだった。それでも足りなかったのは、やはり連携力だろうか。
入学してまだ親睦も深め合っていない状態の中で行うこの試験はどうしても百パーセントの力を出すのは難しい。逆に短時間でここまで登れたのは誇ってもいい。56階層と言ってもこの時期の踏破でみれば歴代2番目なのだから。
「ほな、階層の報告にいきましょうか」
「はい」
生徒会長の続いて移動する。
そのまま迷宮の前に待機していた先生に踏破階層を告げる。
「雨雪担当チーム、踏破記録56階層です」
「おぉ! 流石に凄いな。君達のチームが現在一位だよ」
その報告に倉本君達がガッツポーズをだす。
すぐに恥ずかしくなったのか手を引っ込めたが、喜色の表情は隠せていない。最初の試験とはいえ一位というのは嬉しい。
「担任の先生に帰還を報告すればそのまま帰れるから。まあ、最後まで結果が気になるなら残っていても構わないよ。事実記録が気になる子達はまだ残ってる」
確かに、まだ結構の人数が迷宮付近に残っている。
何階層まで進んだか、どういう攻略をしたのかなど、情報を得ようと他クラスにも積極的に言葉を交わしているようだ。
気分が昂っているというのもあるだろう。
迷宮に踏み込んだ事で、未知を体験した彼等の口は随分と緩い。
視線を移動させる。
我が親友は労いの言葉もそこそこに迷宮前に佇む掲示板の前に移動していた。
私も彼女の姿を追って掲示板へと向かう。
「やっぱAクラスのチームばっかりだね」
掲示板には一位から十位までの踏破成績、および踏破者の名前が並んでいる。
内一位から八位まではAクラスが独占している。クラスメイト40人の中で全員が5名でチームを組んでいるためこれで全員だ。
今回は特に顕著な結果になったが、毎年大体似通ったものになるらしい。
掲示板を見ていた蕾が横目で私を確認して口を開く。
「灯、もしも私とあなただけだったなら何階層までいけたと思う?」
質問の意図を考える。
蕾はまだまだ余裕があったから他のメンバーが足手まといに感じたのかもしれない。
にしても二人か・・・・・・
「・・・・・・多分、58か59まではいけたかも」
私と蕾の能力をフルに使っての計算だ。
問題は戦闘能力ではない、補給や索敵などの担当の全てをたった二人で補わなければいけない点だ。
身体強化をし続ければ魔力がいずれ尽きる。
複数の魔法を使うのは相応の魔力操作を必要とするし、なにより集中力が持たないだろう。59層を超えて階層主にまでさく余力はおそらくない。それだけの経験値を稼ぐにはもっと実戦的な経験が必要だ。
「音無、負けたよ・・・・・・」
蕾に声を掛けにきた男子生徒。試験前に勝負を申し込みにきた塔筋君だ。
対する蕾は誰だか分かっていないのか、首を傾げて眉を寄せる。
「えっと、久しぶり佐藤君」
「違ぇよ?! 苗字ランキング上位言っとけばあたるやろとか思ってるんじゃないだろうな! 俺は塔筋だ!」
「ごめん、喋った事あったっけ?」
「・・・・・・そろそろ泣くぞおい」
意気消沈する塔筋君の肩に手を乗せ私はサムズアップする。
「限定スイーツよろ!」
「ぐっ! お、男に二言はねえ! お前等全員分のを確保しといてやらあ!」
「ひゅ~ 太っ腹~」
うんうん、まあ今は気楽にしといていいだろう。
結果は悪くないのだ。限定スイーツを食べて気分を上げていこう!
「だが、次は負けない!」
「え、まだ勝負するの?」
「そんな嫌な顔をするなよ! くっ、絶対に卒業までに抜いてやるからな!」
小悪党に似た発言だけ捨てはき塔筋君は去っていった。
一応彼の成績も見てみる。
「へぇ結構いい勝負だったんだ」
順位は二位、踏破階層は52層。
順に結果をみていけば、どうやら50層がまず鬼門になっているようだ。そこに到達するまでに耐力と魔力の温存ができなかったのだろうと思う。
Aクラス以外の班はそもそも火力不足のところもあるかもしれない。
もしかしたら自分の身の丈以上の成果を得て勘違いさせないように、最初はチームを自由ということにしてAクラスで固まるよう仕向けている、というのも仮説にすぎないが想像できた。
「この後どうしよっか、蕾はすぐ帰る?」
「まだ残る。終わってないから」
蕾がじっと視線を向けるのは迷宮。
大抵のチームはもう終わっているが、まだ試験が継続している版があるらしい。後発組は入る時間帯がそもそもおそいためおそらくは彼等だろう。
とはいえ後発組はAクラス程の上層に上がることは稀だ。
早々にリタイアすることもあるため全体の時間にはさして影響はないと聞いたことがあるが、まだ奮闘しているチームがあるらしい。
「知り合い?」
「そう」
「へぇ、誰だろう」
考えるが、付き合いの苦手な蕾の知り合いはあまりいない。
その中で有力な人はいただろうかと記憶を探るが、全く浮かんでこなかった。
そう、私は彼のことをすっかり記憶から消していたのだ。
――その姿を見るまでは。
迷宮から新たにチームが帰還する。
三人組だ。いや、二人組のチームに一人の担当というべきか。
その人数の少なさも、そして担当も異様だった。
風紀委員長、如月咲。
2年生にして風紀委員を束ねる超実力者だ。そんな人が付くチームは当然上層を進むと考えられる者達になる。
(あれ? 彼って)
そこでようやく私は彼が誰であるかに気付く。
確か蕾の幼馴染の新界一君だ。修練場で彼の姿を遠目に見て、あまりすぐれた冒険者にはなれなさそうだと感じたのは記憶に新しい。
ちらりと視線を向ければ、蕾はその新界君に視線を向けている事に気付く。
なんだか奇妙な予感を感じながら彼等を視線で追う。
先生に記録を報告した彼等は、風紀委員長と幾らか喋った後に掲示板とは違う方向に進む。おそらく担任の先生に帰還報告した後そのまま家路につくつもりなのだろう。
反対に、風紀委員長は倉本君達と喋っている生徒会長を見つけると、喜色を浮かべながら近づき嬉しそうに何事かを語っていた。
残念ながら内容はここからでは聞き取れないが、驚いた様子の倉本君達と生徒会長の姿を見て、ふと掲示板に視線を向ける。
丁度、全ての順位が変動した。
そう、全てだ。
私達の記録は二位の位置に下がっていた。
ゆっくりと視線を上げて一位の記録を確認する。
一位 60層 【新界一、佐川誠二】
「ろくっ! はぁ?!」
あの生徒会長の記録を3階層も上回る結果に思わず声が漏れる。
(二人でどうやって? 固有魔法? いや新界君の適正魔法は水だけだったはず。さら佐川って生徒?)
渦巻く疑問に対する回答はこの場にはない。
不正を疑う程に結果だが、あの風紀委員長がそれを見逃す事も、ましては許す事もないだろうと思う。
「口だけじゃなかったんだ」
落ち着いた声が隣から聞こえた。
驚愕する私とは対照的に、横目にみた蕾の顔はどこか嬉し気なものだった。
――新界一 Dランクライセンス獲得――
これで一章は終わりです!
次から二章、一は色々と経験する章になりそうです。
面白い、続きがきになると思って頂けたら、ぜひブクマ・評価をしていただけるとやる気に繋がりますので、気が向いた時にでも押して頂ければ幸いです(*´▽`*)




