20話 Aクラス最強チーム
現在32層、予定通りに順調な攻略が進んでいる。
メンバーは5人。私と灯、そして灯が揃えたメンバーが三人。
全員がAクラスの生徒で、石井さん、緒方さん、そして倉本君。結果的に男子一人に女子四名という形になった。
倉本君は前衛の盾役、灯も前衛の剣士として動いている。残る私を含めた3名は後方の魔法士としての援護だ。けれど私の仕事は今のところ殆どない。四名の戦闘で完結できているからだ。
偶に属性魔法を放ったりもしているが、それがなくとも危なげなく対処する彼等の手腕はやはり一年の中でもトップ層であるということだろう。
「うんうん、順調順調! これで限定スイーツは私達のものだ!」
五人の中で一番本気なのは間違いなく灯だろう。
理由は俗物的だが、視野が狭くなっている訳じゃない。
この調子で進めば先輩方の記録を塗り替えることもできるだろう。それまで調子と集中力が持続できればの話だが。
私達の後方、少し離れた位置で歩くのは現生徒会長の雨雪冬美先輩だ。
生徒会に誘われる過程で一度手合わせをして貰った。
結果は引き分け。
殲滅級の魔法の応酬に発展した手合わせは生死に関わると判断され審判によって中断された。
(あのまま続けていたらどうなっていただろう)
多分、負けるのは私だっただろう。
問題は魔法の精度。
魔法の総量はそこまで変わらないが魔力操作の差で私が一歩遅れている。
速攻で試合を決められない場合、魔力が先に尽く私が敗北するのは当然だ。
魔力操作の訓練をしていない訳ではないが、確かに他の訓練に比べれば疎かにしていた気がする。
モチベーションの維持が難しいのだ。なにせ魔力操作による成長は自分では感じられない程に小さい。瞬間的な戦力向上には結びつかず、何年も継続しなければ結果に現れないから。
刹那的な未来に希望を抱くような冒険者で魔力操作が上手いのは少ない。
32層のボスを倒し、33層に上がった段階で一度お昼を取ろうと言う話になった。
近くの岩場で皆が円を作って食事の準備をする。
モンスターが襲い掛かってこないように、短時間ではあるがモンスター避けの効果がある道具を設置する。
「さあさあ、食べよっか!」
灯の声で皆が各々箸を動かし始める。
ちなみに階層を上がったばかりの場所でモンスターの危険もないと考えられる為、雨雪会長も昼食に呼んでいる。
『あら、じゃあお邪魔しようかな~』とゆったりした笑みを浮かべて座る会長。倉本君が少し顔を赤くしているのが見えた。
「にしても皆順調やね。このまま行ったらうちらの記録も抜かされてまいそうやね」
「会長の記録は確か57層でしたっけ」
「そうそう。懐かしいなあ、あの時は集団での戦闘に慣れんでね、メンバーの子怪我してもうたんやで。上の階層ほど厄介な特性を持ったモンスターも現れるし、やっぱし事前の準備は必須やなあ」
「ちなみに今潜ったら何層ぐらいまでいけるんですか?」
石井さんが何気なく質問する。
雨雪会長は『う~ん』と言いながら少し考える。
「完璧に準備を整えてっちゅう前提やったら、うち一人でぎりぎり百層突破できるかな」
『まあ、やった事ないから多分やけどね~』と頬を掻く会長。
嘘か真かの判断はつかないが、もしかしたらと考えて驚くメンバー。
(この人なら出来るだろうな)
この特殊な迷宮のモンスターは階層ごとに強くなっていき、そのレベルは既に把握されている。
30階層まではEランク、その上30階層分、つまり60階層までがDランク、90階層までがCランクで100階層までがBランクのモンスターが分布されていると言われている。
そして雨雪会長は既に準一級の冒険者でもある。
準一級はBランクの迷宮への立ち入りが許可された上位の冒険者だ。単体でCランクの迷宮を攻略できると言われている彼等の数はそこまで多くはない。
聞いた話ではあるが、雨雪会長は既にBランクの迷宮を一つチームで攻略したという噂もある。Bランクの迷宮に潜むモンスターとの戦闘経験がある先輩。そんな人が既知の情報もある迷宮を攻略できないとは思えない。
「それじゃあそろそろ動き始めようか」
休息もそこそこにして灯の号令で各々が素早く準備を済ませ移動にうつる。
30階層を超えてからモンスターの強さが一段階上昇したのを感じる。
とはいえDランク下位のモンスターだ。Aクラスの生徒が五人もいて後れを取ることは早々ない。
「ふんッ!」
倉本君が盾で狼系のモンスターの攻撃を防ぐ。
盾の脇から灯が飛び出し剣を一振りし、喉元を斬り割いた。
危なげはない、現状は。
ただ敵の数が多い。匂いに敏感なモンスターな為か補足されるのが異様に早い。後方支援の石井さんと緒方さんもそのことに気付いているからだろう、接敵する前に魔法で倒す場面が増えてきた。
40階層、階層主。
相手はDランク中位に差し掛かるモンスター、【ジェヴォ―ダン】。
狼にしては大きい躯体、そして猫のように長い尻尾、目を爛々とぎらつかせ、口から覗く牙は容易に人を穿つ。
ジェヴォ―ダンが地を蹴る。
多少の疲れが見える倉本君が盾を構え、そして私はスナイパーライフルを手に取った。
「消滅」
タンッ
距離は十五メートル程だった。
スコープを除く必要もない。僅かに補正し、引き金を引く。
銃口から発射された弾丸は私の固有魔力を帯びたもの。
それが飛び掛かるジェヴォ―ダンの口内に入り、一直線に突き抜けた弾丸が背後から飛び出す。
宙で壁にでもぶつかったように上体を揺さぶられたジェヴォ―ダンはそのまま息絶え消滅する。
「相変わらず攻撃力高過ぎるでしょ、あんたの魔法」
苦笑する灯と初めて私の固有魔法を見て驚く三人。
固有魔法、ほんの一握りの存在しか保有していないその人だけの魔法。
類似したものはあれど同じ魔法はないと言われている。
中でも私の固有魔法は殺傷力だけで見ればトップクラスの能力を持っている。
――固有魔法名、【消滅】
能力はその名の通り、接触したものを消滅させる魔法。
この魔法を防ぐには同等以上の魔力での相殺以外にない。どれだけ防御を固めようがそれらに意味はなく、引き金を引けば確実に絶命まで持っていく最強の矛。
「行こう、ここからは私も全部使う」
Dランク中位のモンスターが現れ始める41階層。
適度に休息を取りながらの踏破に問題はなかった。
「いやあ、流石は主席だ。正直なんとなく凄い人なんだろうなとしか思ってなかったけど、これほどとは」
倉本君が苦笑しながら言う。
最前線でモンスターの攻撃を引き受ける彼だから、一層違いを感じられるという。
「戦闘時間が目に見えて短くなったもんね」
「おんぶにだっこじゃ申し訳ないから私達も本気でいかないとね!」
石井さん、緒方さんはやる気に満ち溢れているといったところか。
ネガティブになるよりかは余程いい。
45層、48層と全く進行速度に遅れなく進んでいく。
50層の階層主も倒し、このままいけばこの時期でのレコードを更新できるという考えが薄っすらと浮かんだであろうタイミング。
ただし、現実はそう甘くはない。
51階層、Dランク上位のモンスターが出現し始める階層。
フィールドは沼地。
出現モンスターは蛙に似たモンスター。
「ゲコ」
体長3メートル程の巨体、そして恐るべきは、
「うおっ?!」
最長十メートルまで伸びる長い舌。
直進してきた舌を倉本君が驚きながらも盾で受け流す。すかさず土魔法で地面から棘を生やして追撃するが、蛙は魔法が届く前に跳躍して回避する。
空中、回避できないタイミングで遺物の引き金を引く。
命中。しかし一撃の絶命とはいかず奇声を上げながらモンスターは落下する。
(ぬかるみに足をとられたか・・・・・・)
正確な射撃を行うには場所が悪過ぎる。
足場を固めるため並列で魔法を行使しながらの戦闘はまだ不安がある。
「ちッ」
「ゲコ」
「ゲコ」
「ゲコ」
奇声が響いて現れる複数のモンスター。
それらの声が伝播していく。田舎の田んぼでよく聞いた合唱が木霊した。




