2話 Dクラス
今日は雨が凄かったですね(>_<)
入学式が終わると、事前に配られた資料を確認して自分のクラスに移動する。
クラス数は全部で六。A~Fに割り振られている。
BからFの5つのクラス分けはランダムで決まるが、Aクラスだけは異なる。
入学前の成績の上位だけを集めたこのクラスは別名『特進クラス』と呼ばれており、他クラスと比べ授業の自由度がかなり高い。
進級時にて成績の変動でAクラスに上がれる制度もあるようだが、殆どAクラスの変動はないらしい。
因みに俺の在籍するクラスはと言えば、Dクラスである。
残念ながら入学前の成績では上位になれなかったようだが、その差はこれからの努力でなんとかしていくつもりだ。
「ここだな」
開いている扉を潜り、黒板に記された番号に従い自分の席に腰を下ろす。
「よっ一!」
名前を呼ばれ顔を上げる。
そこには俺のよく知る人物が立ち手を挙げていた。
「誠二、もしかしてお前も同じクラスか?」
「おうよ。これからもよろしくな親友!」
佐川誠二、中学からの友人だ。
茶髪と陽気な性格から軽薄なイメージを持つ者が多いが、見た目に反してこの男は己の行動に責任を持ち、筋を通すことを信条としているような性格だ。
誠二の近くにいると居心地がよく、時間が経つと自然と親友になっていた。
「こちらこそよろしく。同じクラスに友人がいてくれて助かったよ。一人飯で周囲に気を使われるのは嫌だったんだ」
「いや、そこはクラスメイトと関わろうぜっ?! はぁ、お前は相変わらずだな」
分かってはいるのだが、人と喋るのは知らず知らずのうちに神経をすり減らすから苦手なんだ。ある程度仲が良くなればあまり気を遣わずに喋れるが、それまでの過程が億劫になる。
その点、誠二は物事を上手にいなしているように見えるから凄いと思う。
後ろの席に座った誠二は含みのある笑みを浮かべる。
「それにしてもやっぱり代表はあいつだったな」
「それはそうだろう。同年代どころか一個上でも蕾より優秀な奴を俺はまだ知らない」
あいつは努力の化身だからな。
言うなれば、天才が努力すればどうなるかの回答があれだ。ただ努力しただけでは一生かかってもたどり着けないだろう。
「にしてもとんでもない世代に入っちまったもんだ。音無は言わずもがな、上の学年にはあの七家がいるって話じゃないか」
「ああ、確か雨雪家の御令嬢だったと記憶しているが」
七家、日本を代表する能力者の家系の総称だ。
炎谷、宇緑、轟、雨雪、土井、夜船、朝輝、の七つからなり、その血筋は必ず時代に名を残すと言われている。
そして俺が入学したこの学校に在籍しているのは、雨雪家の長女だ。彼女は入学式にて挨拶をした生徒会長でもある。実力で言えば、学園では教師を含めトップクラス、現場に出ても問題ないと言われている。
「ああ、比較されたくねえ~」
「気持ちは分からなくもないが、どうしようもないからな」
比較されるのはどうしようもない。ただ、自分自身のオンリーワンを探し出せたのなら、例え比較されたとしても価値が落ちるという事はないだろうと思う。
ただ、それが難しいという話で。
努力という名の無理をし続けて数年。それでも俺は未だに自分自身の価値を定められていない。
「は~い。みなさん席に着いて下さい」
憂鬱な話題を避け、誠二と何気ない話をすること数分。担任と思しき女性が教室のドアから教卓へと移動する。
黒髪ミディアムの綺麗な女性。スーツを着こなし、仕事ができる雰囲気をこれでもかと醸し出している。
「私がこのクラスの担任を受け持つことになった東雲一花と言います。どうぞ気軽に一花先生と呼んでね」
優し気な雰囲気にクラスメイトが安堵の息を吐く音が聞こえた。
ただ、優し気な見た目に反して内側に眠っているであろう実力がちぐはぐで、俺からすれば怖いという印象が強い。冒険者学校の教師は一流の冒険者として活動していた、もしくは現在も活動しながら教鞭を振るっている者もいる。
見た目は美しい担任ではあるが、見た目とは裏腹にこの血なまぐさい世界で生きてきた人物が綺麗な花だけのはずもないだろう。
「じゃあ今から自己紹介をしましょうか。出席番号順にその場でお願いします」
チョークを手に取り、黒板に『名前・出身・趣味・将来』と発表する内容を少し丸まった可愛らしい字で書いていく。
一番から順に紹介が手順よく進み、順番がきた誠二が勢いよく立ち上がる。
「俺の名前は佐川誠二! 出身はここ大阪で、趣味は映画観賞! 将来は一級冒険者になって金を稼ぎまくりたい。上を目指したい奴と切磋琢磨していけたらと思う。一年間よろしく!」
はきはきとした声はそれだけで興味を持たれる。おそらくクラス全員が誠二を認識しただろう。何事にも物怖じしないのは単純に羨ましいな。そして次に自己紹介する人はやりにくいだろう。俺のことだが。
溜息を何とか我慢して席を立つ。
「新界一です。出身は大阪、趣味は・・・・・・鍛錬です。将来は冒険者として一線に立てるようになりたいです」
座る。
視線だけを巡らせてクラスメイトの表情から俺に対する認識を予想する。
『なんか真面目そうなやつだな』
『お堅い感じだね。ちょっと話しかけづらいかも』
『雑魚め』
なんだか泣きたくなってきた。
事前に人に好印象を抱かせる紹介文を考えてくるべきだった。まあ、クラスメイトと仲良くなったところで俺の夢に繋がるかといえば疑問になるところだ。
全員の自己紹介が終わり大方のクラスメイトを把握した。誠二のような中心に立てる者が数名。あまり理性的には見えない直情タイプ数名。腕に覚えのありそうなアスリートタイプ数名。あとは前線には出ることを考えていない体が未熟な魔法士タイプといった割合だろうか。
「面白そうな奴等だな。放課後喋りかけに行くつもりだけど一緒に行くか?」
「ああ悪い。今日入寮でな、放課後はすぐに寮の方に行くつもりなんだ」
面倒な書類関連は終わっているが、まだ荷物を自室にいれていない。寮の談話室に置かれているとのことだが、人の邪魔にならないようになるべく早く移動させるべきだ。
授業の終りを告げる鐘が鳴り、ホームルームが終わるや寮へと急ぐ。
道中、スマホで担任の先生について少し検索をかけてみる。
「・・・・・・やっぱり普通じゃないな」
東雲一花、準一級冒険者。現在は関西冒険者高等学校教員。
属性魔法:水、雷、光。
所有遺物数:4
簡単なプロフィールで既に普通ではないことが分かる。準一級の冒険者ともなれば色々と情報がかかれているが、中でも最高の迷宮踏破ランクがBというのが凄まじい。Bランクの迷宮は準一級が入場できる最高ランクであるが、それをたった三人のパーティでほぼ無傷の踏破したという。
現在は一時的に冒険者の活動を休止しているとある。現在教員として過ごしているのは、おそらく学園長のスカウトがあったのだろう。どれだけのお金を積んだのかは分からないが、これだけ凄い人が担任になって貰えたのは大きい。
色々と質問しようと考えていると、早々に寮に着いた。
「思ったよりでかいな」
校舎から約5分で着く学生寮。
エントランスが開かれており、机を並べて職員らしき人達が座っている。
軽く会釈をして、自分の名前を答える。
職員の人はプリントに書かれた名前を順番に指を滑らせながら確認する。
「し、し・・・・・・お、あったあった」
名簿に丸を付け、封筒を一つ渡される。
「中に入ってるのは寮の電子キーと部屋の鍵です。なにかあれば事務か舎監室にいる舎監さんを訪ねて下さい」
「ありがとうございます」
封筒を受け取り列から離れる。
封を開けて中から二つの鍵と一枚の紙を取り出す。紙に書かれているのは俺の部屋番号だった。番号は238号室。
談話室に置かれていた荷物を受け取り、壁に設置された館内表示板を頼りに自分の部屋に移動する。どうやら学生寮は3階からなっており、俺の部屋は2階の最奥に位置するようだ。
途中、上級生だと思われる人と廊下で遭遇し会釈する。
「新しく入寮しました、新界です。よろしくお願いします」
「新入生か、よろしく。俺は堂本、3年だ。217号室に居るからなにかあったら頼ってくれ」
片手を上げて気軽に挨拶を返す堂本先輩。
身長は190センチ程度、服の上からでも分かる引き締まった体は相当鍛錬しているであろうことが分かる。
「ふむ、実は一年の間に大体一クラスから二、三人は辞めていくんだが。君は卒業までこの寮に残っているかな」
挑戦的に少し笑みを浮かべて俺を見下ろす先輩。
反骨精神から出る反論を先輩は期待していたのかもしれない。けれど、俺がここに居る理由は自分の才能云々ではないのだ。
「大丈夫でしょう。俺に下を向いてる暇はありませんから」
だから、これが明快な結論。
先輩は少しおかしなものを見たと言うように目を開いた後、微笑を浮かべて俺の肩を叩く。
「確かに、君は大丈夫そうだ」
すれ違い、背を向けたまま手を振って先輩は去っていった。