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遥か遠くの君達へ  作者:
第一章 リトライ編
19/25

19話 試験当日

 そして試験当日が来た。

 迷宮の入場はAクラスから順に十五分程の間を開けて次のクラスが入場していくことになっている。


 一年全体で迷宮の元へと移動する。

 修練場を更に進んだ先に建つ巨大な門。裏手には建造物のようなものはないにも関わらず、この門を潜った先には百にも上る階層が存在する。


 クラスごとに点呼、そして全体に注意事項が述べられた後、各チームに同行するという先輩方との顔合わせが始まる。

 流石になんの安全策もなしに迷宮に放り込むようなことはないらしい。


 誠二と喋りながら担当の先輩を待つ。


「よっ、お前等体調に問題はないか」


 背後から、俺と誠二の肩に手を添えて言い放つ声に振り返る。

 にひるな笑みを浮かべるその先輩に俺はすぐさま頭を下げる。


「おはようございます。如月先輩」


「ああおはよう。新界は気合十分だな、そして隣の君が佐川誠二君でいいかな?」


「はっ、はい! 佐川誠二です! もしかして如月先輩が俺達の担当を?」


「その通りだ。お前達のチームが一番面白そうだったんでな」


 担当する先輩はある程度チームを指定する事ができるらしい。

 ちらりとAクラスを見れば、風紀委員の先輩方であったり、生徒会が殆どを占めていることに気付く。


 逆にDクラスにいる如月先輩は完璧に浮いている。

 他の担当している3年の先輩が緊張して苦笑いを浮かべているのが見える。


「よしっ、Dクラスが入場するまではまだ時間がある。軽く説明をしておこう、二人とも座ってくれ」


 首肯し地面に腰を下ろす。


「まず迷宮には階層ごと、その始めの位置に特殊な台座があることは知っているな。その台座に自身の魔力を記録させることで、次に潜る際に記録した台座の位置から開始することができる」


 迷宮に入る前にも一つ台座がある。

 その台座に触れることで、記録した台座を指定することができるのだ。どういう原理の元に創られたのかは今でも全く分かっていないと言う。残念ながら現代の技術は迷宮の産物の足元にも及ばないということだ。


「台座に記録することで一階層下の迷宮を踏破したと見なす。うっかり記録し忘れたとかはないようにな」


「分かりました」


「よろしい。それで迷宮には階層ごとに出現するモンスターが異なり、階が上がるごとにその厄介性も増していく。慣れていない武器や防具はおすすめしない」


 少し見せてくれと先輩が俺達の体に近付き整備した武器と防具を順にみていく。


「うん、ある程度型が付いているな、慣れていなくて大怪我なんてことにはならないだろう」


「怪我を負う人は多いのでしょうか」


「学校内のこととはいえ戦闘をしている訳だからな、そりゃ多いとも、無傷で終わる方が珍しい。過去には重症を負って病院に送られた例もいくつかある。まだ死者がでていないだけましだな」


 そりゃそうか、俺達がやっているのは格闘技ではなく殺し合い、怪我をするのは当然だ。


「・・・・・・」


 如月先輩が俺の短剣を見ながら思考に耽っている。


「どうかされましたか?」


「ん? いやお前達の装備を見て思ったんだが、これで何階層を目指しているのかと思ってな」


「可能な限り上を目指すつもりです」


「人数は二人、普通で考えるなら30階層前後で終わると判断するが・・・・・・なにやら考えがあるらしい」


 武器は俺は短剣、誠二は片手剣を装備している。

 防具は二人とも軽装備を選択し、可能な限り移動に伴う疲労を最小限に留めることを優先した。人数に余裕がないため仲間内で重い荷物を運ぶなんてこともない、必要最低限を詰めたリュックを背負っている。


「気になるなあ、けどここで聞いたら楽しみが無くなってしまう。くくっ、迷宮内を楽しみにするか」


「・・・・・・期待に応えるつもりではありますが、あまり過度な期待は」


「まあまあ、別に期待とか気にするなって。お前達はいつも通りにやってればいいから」


 とかいいつつ、期待に応えなかったら応えなかったで口を尖らせて風紀委員のトレーニングを増やしそうだ。肉体トレーニングも必要だが、放課後に研究に思考を割く余力を残して欲しい。


 Aクラスの方で移動が始まった。

 大体4から5人のチームが組まれているようだ。


 最後尾、音無蕾の姿が見えた。

 愛用のアサルトライフルを背負っている。彼女と喋っているのは同級生の女子と担当生徒だろう。


(生徒会長か)


 入学式で壇上に立っていた生徒を思い出す。

 彼女の噂は尽きない。


 既に教師以上の力を持っているだとか、単騎で犯罪集団を捕らえただとか、普通は尾ひれがついていると一蹴を呷るようなものでも彼女に関してはその殆どが事実であると言われている。


 七家、雨雪家の長女、雨雪美冬。

 学園長の推薦を貰い既に準一級のライセンスを持っている寵児。


(どんな魔法を使うんだろうか。・・・・・・うん?)


 魔法の系統を考えれば俺も彼女の魔法が使えるだろうかと考えていると、ふと生徒会長と目が合った。それなりに距離があるはずだが、その目は間違いなく俺に向けられていると分かる。


 数秒、音無のチームが迷宮に入る寸前でようやく視線が切れる。


「見過ぎたか・・・・・・?」


 変に警戒させてしまったのかもしれない。

 階級の高い冒険者ほど視線に敏感だと言うのは本当なのかもしれない。


「おいおい、そんなに熱い視線を向けて気になる女生徒でもいたか~ うん~?」


「いえ、そういう訳では」


「先輩、こいつにはそりゃぁ深い付き合いの幼馴染がいまして。多分そいつの事を見ていたんじゃないかと」


「なにぃい! はっは、そんな付き合いの幼馴染がいるとは幸運な奴め! 今度風紀委員で外部仕事があるから赤飯を持って行ってやろう」


 豪快で少しお茶らけた性格の先輩は誠二と気が合いそうだ。

 取り敢えず良からぬことを考えていそうな先輩に胡乱な瞳を向け牽制しておく。


 それから時間毎に各クラスが入場していき、遂にDクラスの番となる。

 体を解すための柔軟を止め、装備を整えて立ち上がる。


「それでは皆さん気を付けて試験に臨んで下さい。自分の命を第一に考えての検討を祈ります」


 担任である東雲先生の短い激励を経て、俺達は迷宮に向けて移動を始める。


「あんまし強く握るなよ、危なくなったら私が入るからな」


 どうやら無意識に短剣の柄を強く握っていたらしい。

 ゆっくりと手を離して深く深呼吸する。


「ま、私が入った時点で試験は終了だけどな! ははは」


笑えない冗談を言いながら背を叩く先輩に押されるように、扉の前に鎮座する台座に触れて魔力の記録を行う。


「っしゃ! 行くか相棒!」


『ファイト!』


不敵な笑みを浮かべる親友。

その隣でサムズアップするフー。


「ああ、行こうか」


緊張する事はない、それでも動くように幾度となく反芻してきたのだから。

今日はただ、今までの復習を行うだけだ。


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