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遥か遠くの君達へ  作者:
第一章 リトライ編
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18話 仮説

 迷宮踏破試験2日前、修練場で疲労によって座り込む俺と誠二。


「はぁ、はぁ・・・・・・いいんじゃねえか」


「完成度は9割ってところか。できれば10割にしたかったが、やっぱり時間的猶予が無さ過ぎたな」


 およそ二週間、できるところまでは全てやった。

 迷宮に出現するモンスターの生態、行動分析。

 新魔法といえるものではないが、既存の魔法の術式を要所毎に俺に合うように構築し直し、最高率の魔法を習得した。既にできていることの応用のため、習得に時間はかからなかったが、術式の構築がやはり厳しかった。


 俺が参考にした術式が水に限ったものではなく、全ての属性魔法から選択したものだからだ。属性が違えば当然性質が異なる。土の頑強さ、風の軽さ、雷の速さというようにどうしても再現できないものがある。


 この違いをどうやって水の属性に落とし込み、なおかつ俺の強みを活かせるかが重要になる。


 結局、全ての魔法が完成したのは昨日。

 そして今日は誠二と最終的な合わせを行い調整したところだ。


「ここまでやって無理なら、そもそも実力が足りなかったって話だな。明日はどうする? 予定なら休息って言ってたが、俺は前日でも動けるぞ」


「いや、しっかり休もう。明後日の試験は万全の状態で挑みたい。正直目標階層は俺達の実力とあってない、筋肉痛でワンテンポ遅れるのも避けたいんだ」


「了解、じゃあ明日は体をほぐすだけに留めておくわ」


 修練場を後にして、寮へと帰る。

 帰路で、フーが俺の体を一周しなにかを確かめるように頷く。


『魔力の通りがまた少しよくなったね。ボクの言ったことが役にたったのかな』


「ああ、最初はこれになんの意味があるのか分からなかったが」


 魔力操作の更なる上達のためにフーが言い出した修練法。

 体内、つま先から頭部までの全てを用いて魔力を循環させ続けることで魔力操作が上昇すると言われた。


 以前までは暇があれば魔力を自由に動かす、というのをやり続けていたのだが、このやり方ではすぐに頭打ちが来ると言われて、半信半疑ながらその修練法を試してみた訳だ。


 別にいつもやっていることと変わらないだろうと思っていたのだが、そうではなかった。

 結論から言えば、上手く循環させることができなかった。体の部位、左足首、脳、右の脇などで魔力の流れが遅くなったのだ。


 ここで想定できる仮説。

 魔力を操作する器官が複数存在するのではないかと考える。

 この器官というのは未だ発見されず、様々な学者が論を唱えているものだ。人によって数や操作が違うのかもしれないし、そもそも器官なんてもの自体が存在しない可能性もある。


 知っていそうなフーに色々と問いかけてみたのだが、


「魔力を操作する器官っていうのは実際存在するのか?」


『知らな~い』


 と、本当に知らないのか分からない態度で煙に巻かれている。


 ならば自分で答えを出すしかないだろう。

 いくつかの仮設を想定し、自分をカスタマイズする。今までどうすればいいかも分からなかったが、今は選択肢が多過ぎて困る程だ。


 もしも俺の中に器官が複数存在すると仮定し、今まではそれを一つしか使ってこなかったのだとしたら。ぞわりと背筋が痺れるのを感じた。


 今まで何をしていたのか? 時間の無駄だった?

 いや違う、手順は分かっているのだ。それを今度は全身の要所で行えばいいだけのこと。魔力操作の成長度曲線は爆発的な上昇を見せるだろう。


「ふぅ・・・・・・」


 自室、ベッドの上に座り座禅を組む。

 目を瞑り、魔力操作を始める。

 今までは胸の中心あたりで魔力を自由自在に操作していたのを止め、全身に魔力を巡らせる。想像は血流の流れに近い。


 まだ早くは動かせない。

 淀みなく、一定の速度を維持して、魔力を全身に循環させる。


 ・・・・・・


『ありゃりゃ、集中しちゃった』


 魔力を循環させている今世の我が使い手を見下ろす。

 凡も凡、秀でた才能などなにもないどこにでもいる魔法士だ。


 もっとも、それは才能に限った話だ。

 真の強者になる条件。確かに才能が大きく左右するものであろう。しかしそれだけでは足りない、この世界を生き抜くにはあまりにも不足なのだ。


 才能、努力、信条、そして運。

 全てがあってようやくスタートライン。


 一は才能が欠如しているが、努力と信条が並大抵のものではない。

 そして運。ボクを手にした瞬間からこの点に関しては誰よりも突出していると言ってもいい、今までどれだけ遅れていようとも関係ない。


 才能の差を埋めるだけの言葉を授けよう。力を授けよう。進むべき最短ルートの先を先導しよう。


『ふふっ』


 ボクが望むものはただ一つ、【覚悟】だ。

 無謀に挑む愚かな覚悟を持った者だけが、ボクを使うに値する。


『君の覚悟が揺らぐことはあるんだろうか』


 その時は、残念ではあるが使い手を変えなければいけない。

 これは一にも言っていないことではあるが、伝説級以上の遺物は使用者との契約を一方的に破棄する事ができる。


 覇王級までの契約ではそれが使用者に委ねられているが、ボクはその気になれば今この瞬間にでも自分の主人を変えることができるのだ。


『お願いだから、失望させないでおくれよ?』


 できることなら、主人を変えたくはない。

 そっと一の頬に手を添える。感触はない、けれど記憶の中にある温かさを思い出してゆっくりと撫でる。


 これも一との親和性が上がれば解決することだ。

 にしても彼は防御が堅い、ボクがこんなにも両手を広げて受け入れようとしているのに、まるでバリケードでも張るかのような心持で過ごしているのは如何なものか。


 まあいい、逆に感触がないことでできることもあるのだ。

 瞑想している彼の膝に自分の頭を乗せるような態勢で浮遊する。なんなら服装を猫っぽくして愛嬌もプラスしてしまう。


 頑張っている一のご褒美として、性欲旺盛な高校生なら悶々とするであろう衣装にしているつもりなのだがいつも素っ気ない態度で終わりだ。自分のこじんまりした体が恨めしい。まあ、その内成長するだろう。


 ボクは他の遺物と違って進化するから。


 少し体を横にしてみる。


『う~ん、ここまであると壮観だね』


 壁一面に張り巡らされた紙、そこに書かれている魔方陣の数々。

 一の試行錯誤の跡で埋め尽くされている。


 部屋の脇には関係書類の山が積み上がり、綺麗に整頓はされているが所狭しと部屋の面積を占領していた。


 これだけの書類をすぐに揃えられるものではない。これらの半数以上は実家から持ってきたものだ。

 彼はすでに、一度魔法の構築で躓いた過去があるのはすぐに分かった。

 一つしか操れない属性に悩み、攻性と防性の魔術が苦手である事に解決法を模索していた。魔法も作ろうとしたのだろう、書籍に挟まっていた歪な構成の魔方陣も見えた。


 どれも彼の特性を活かせず、既存の魔法の下位互換にしかならないことを理解して諦めたことは容易に想像できる。


『努力が実るといいね』


 ボクは笑いながら目を瞑る。

 彼の努力に見合う未来を夢見て。


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