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遥か遠くの君達へ  作者:
第一章 リトライ編
17/25

17話 side音無蕾

資格試験終了!

「二週間後に迷宮踏破試験がある。各々2~5名のメンバーを作り来週中にメンバーの報告をしてくれ。Aクラスは大体クラス内でメンバーを作るが、他クラスと組んでも構わないぞ」


 ホームルームで担任の先生が私達にそう告げる。

 メンバーが二人以上なのか。灯でも誘おうか、正直一人の方が動き易いけど、そういう試験ではないことは分かる。


 個人の技量は当然として、チーム間での動きを見ようとしているのだろう。

 とはいえAクラスが内々でメンバーを汲むものだから、この試験での上位層はほぼほぼAクラスが独占すると聞いたことがある。


 生徒の自由意志がなんだと言っているが、一定の規律を設けずに行われるこれはほぼほぼレール上の結果にしかならないつまらない試験だ。


「音無、ちょっといいかな」


 ホームルームが終わるや、一人の男の子が近づいてくる。

 名前は忘れた。ただ凄く向上心の高い事を自己紹介で言っていた気がする。


「・・・・・・なにかな、山田君」


「誰だよそれは?! 俺は塔筋(とうすじ)だ! 取り敢えず名前覚えてないけどありきたりなもの言っとけばいいってものじゃないだろ!」


「ごめん、人の名前を覚えるの面倒くさくて」


「おっ、おぉ・・・・・・そんなに申し訳なさそうな顔でえぐいことを。人によっては泣くぞ」


「それで要件はなに」


 こほんと咳払いを一つ、塔筋君は挑戦的な視線を私に向ける。


「今回の試験、俺と音無のチームとで勝負をしないか」


 またこういう手合いかと出そうになる溜息をなんとか呑み込む。

 偶にだがこの手のクラスメイトに当たる。成績トップの私に挑戦して己の自己顕示欲を解消しようとするのだ。


 そして大体結末は変わらない。

 勝手に実力の差を痛感して地に膝を付くのだ。


『これが才能かよ・・・・・・』


 否定はしない。

 こと戦闘職としての私の才能は他者と比べて群を抜いていることは自覚している。ただ、その才能を全力で発揮した結果でないことを彼等は気付かない。気付いているけど、その事実から目を背けているだけなのかもしれないけど。


「勝負なんてする意味ないと思うけど」


「いやいや、切磋琢磨することでより高見を目指そうと燃えるんじゃないか。別に大事なものを賭けようってんじゃないんだ。そうだな、敗者は駅の近場にある限定スイーツを勝者にプレゼントするってぐらいならどうだ」


「いや、どうだって言われても」


「ゴっ、ゴクリンコ! あの限定スイーツを!」


 私ではない誰かが唾を飲む。隣に視線を移す。

 いつの間に近付いてきたのか、灯が口から涎を垂らしながら目を輝かせていた。私は別に興味はないけれど、根っからのスイーツ好きである灯の琴線にその条件はクリーンヒットしたらしい。


 私の肩に手を置いてニヒルな笑みでサムズアップする姿に胡乱な視線を向ける。

 私と組む事が前提なのはどうなのかと言いたいが、私としても灯と組むつもりだった訳で(他のクラスメイトを特に知らないだけ)、別にどうでもいい私と、絶対にスイーツが食べたい灯がいるのなら彼女の意思を優先した方がいいだろう。甘味の誘惑は人を変えると言うが、灯はそれが特に顕著で後々まで引きずるタイプなのだ。


「・・・・・・分かった、勝負は受ける。踏破階層の記録で勝負ってことでいい?」


「ああ、構わない! それじゃあ二週間後よろしく!」


 意気揚々と手を振りながら去っていく塔筋君を見届けてからようやく溜息を吐く。


「こうしちゃいられない! 絶対に負けられない勝負だわっ! しっかりと人を揃えて準備しましょう!」


「・・・・・・まあ人選は任せていい?」


「ええ、期待してくれていいわよ。蕾は万全の状態を保ってくれたらそれで十分でしょう。じゅるり、あそこの限定スイーツは入手難度が高くてまだ食べれてなかったから丁度良かったわ」


 夢に耽っている灯から視線を外して窓の外に視線を向ける。

 ちらちらと中庭を通る生徒の姿が見える。色々な表情が見える、楽観、悲観、そしてなにかへの渇望を宿した者。


 一体Aクラスの何人が彼等をライバルと認識しているだろうか。








 一週間後の日曜日。

 灯がメンバーを決定し、Eランクの迷宮で軽い戦闘を行い各々の調整を済ませた。


 今日もいつも通りに鍛錬をしようかと考えていたのだが、灯に装備を見に行かないかと誘われて予定を変更、そろそろ買い換えたい物もあった為誘いに乗ったのである。


 向かったのは少し離れた位置にある装備店。

 少し値は張るが、誠実な対応とメンテナンスの行き届いた武器防具が揃っていると、評価の高い口コミが多かった為ここに足を運んだ。


「おっ、この短剣いいかも! ヌンチャクとかもあるじゃ~ん」


「使わないじゃん」


「もしかしたら使えるかもしれないでしょ! まあ使いはしないんだけどね。蕾はって、武器は買わないか」


「うん。私は師匠から譲り受けたものがあるから」


 私の武器はモンスターの素材などから作られたものではない。

 師匠が迷宮を探索中に見つけたという遺物だ。


 形状はスナイパーライフル、遺物の階級としては鬼才級である。

 『私はあまり有効に活用でないので』と渡されたものであるが、非常に使い勝手がよく重宝している。


 最もいい点としては、この遺物はリロードをしなくていいのだ。

 かといって引き金をただ引くだけでは弾丸は発射されない。己の魔力を弾に変換する機構が存在し、魔力操作を行うだけで自動的に弾が装填される仕組みとなっていて、後は引き金を引くだけである。


 更には魔力に属性を乗せる事で状況に対応することも可能と来れば、低級の迷宮では他の武器を必要としない。


「先に防具の方を見に行こうか」


「うん」


 一通り防具を見て、グローブとインナーを購入した。

 灯はもう少し時間が掛かるという事で、なにか飲み物でも買っておこうと店を出る事を伝えて外に出る。


「ふぅ・・・・・・うん?」


 視線の先、ベンチに座り込む人影が一つ。

 汗だくの頬をタオルでふき取り、肩で息をしている姿が目に入った。


「・・・・・・」


 時刻は正午前、彼は鍛錬をしていたのだろう。

 服の上から見ても、昔と比べて随分と体が出来上がってきているのが分かる。近くで見つけた自販機で水とお茶を購入し、ベンチの方へと歩み寄る。


 50センチメートル、離れた位置に腰を下ろす。

 多分、私と彼の距離はこれくらい。関係性は友人と他人とを足して等分したような感じ。


「飲む? 一」


「え?」


 タオルの隙間から見える横顔、その視線がばっと私の方に移動する。

 僅かな動揺、揺れる瞳を誤魔化すように一は前を向きなおして、一つ咳払いをする。


「あ、ああ、久しぶり。喋るのは小学以来か」


「そうだね、よく分からないけど気付いたら一がどこかいってるから喋る機会がなかったね」


「うぐ」


 別に喋りかけようとも思わなかったけど、いつからか離れて行ったはずのこの幼馴染が私を見ているような気がした。


 そして、今冒険者学校にいる。

 私から逃げているように見えた背中はもう見えない。心の中のなにかに区切りをつけて進む足先を変えたのだろう。


 だったら、逃げようとしないなら私から話かけても問題ないだろうと隣に腰を下ろした。


「どう? 今なにかにぶつかってる?」


「壁があり過ぎて前が見えないぐらいだ」


 私の知っている一の人柄は真面目過ぎるということ。

 オンとオフの切り替えが苦手で、ここらでいいという踏ん切りがつけられない。故に誰よりも壁にぶつかり誰よりも挫折する。


 魔法の行使は才能がものをいう。既に論文でも証明されている事実だ。

 魔力量、属性適正、固有属性、唯一努力で伸ばせるものと言えば、魔力操作ぐらいのものだ。


 一の魔力量は平均よりは上、ただし二級の冒険者の中では平均以下、一級には届かない。

 属性適正は水のみ、固有魔力はなし。


 多分、彼の理想とするものと、彼自身の才能が釣り合っていない。

 向いていないなと思う。昔以上の挫折の中でまた離れていく姿が容易に幻視できた。

けれど、


「だから、()()()()()()()()()()()()


 強い声音に幻想が揺れる。

 無意識に彼を見る。


「まずは好都合の試験があるからそこで、今の全力をぶつけたい」


 横顔から見える瞳。そして瞳を通して見える意志に彼の言葉が強がりのものではないことが分かる。


「水ありがとう。昼から誠二と合わせがあるから行くよ」


 水を受け取って立ち上がる一。その背に、一言問いかける。


「何層までいくつもり?」


「60層」


 もう既に踏破の構想が出来上がっていたのだろうか、解が即座に返ってきた。

 走り去る彼は、誰かに揶揄われでもしているのか少し照れ臭そうにしていた。


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