16話 ピース
「誠二、迷宮踏破試験のメンバーはもう決めたか?」
「いんや、まだだな」
昼休み。
共にご飯を食べながら試験について尋ねる。
昨日、フ―に発破をかけられた後に攻略法を考えた。
出現するモンスターを一通り調べ、戦術を考えて導き出した回答にはどうしても誠二の力が必要だった。
「まだ決まってないなら俺と組まないか」
「意外だな。お前は火力担当として雷魔法が使える奴を誘うと思ったんだが。ああいや、今から誘うのか。何人のメンバーを想定してるんだ?」
よく俺のことをお分かりのようで。
確かに俺の欠点である火力不足を補うために最初は雷魔法が使えるメンバーを想定していたが、今は違う。
「メンバーは俺と誠二の二人、以上だ」
「・・・・・・驚いたな。まるで想定していなかった回答だ」
咀嚼し、しばし目を瞑り考え終えたのか誠二が再び口を開く。
「悪いがその誘いには乗れないな」
「現実的じゃない、か?」
「分かってるじゃないか。あまりにも現実味に欠ける提案だ。俺とお前の二人で迷宮? プライベートなら全くいいんだが、今回のは成績に関わって来る。半端な結果は残せないんだよ」
「俺も半端な成績を残すつもりなんてないさ」
まあ言うだけならなんとでも言える。だから証明となるかが微妙だが、昨日徹夜で構想したあるものを見せる。
魔力操作、術式展開、そして魔方陣が机の上に出現し魔法が発動する
――水魔法、道化師
机の上に身長15センチ程の水で造られた人形が現れる。
術式はサーカスなどの宴会用の魔法を参考にしたもの、違う点としてはこの術式は完全に俺の特性に特化しており、攻性と防性の術式を限りなく省いたものになっている。
モンスターを屠るような効果は当然なく、術者も守れない魔法。
だが、俺の魔力操作が続く限りこの人形は無限に再生する。
「これは?」
「昨日俺が改良した魔法だ。俺の魔力が続く限りこいつは維持される。そして魔力使用量に対して回復量の方が大きい」
「そりゃ凄い、集中さえ切らなかったら無限に発動できるじゃないか。・・・・・・だが、迷宮には使えるのか? そこまでコスパのいい魔法がすぐにできるなら皆使ってるはずだろ」
当然の疑問だろう。俺もそう思っていたのだから。
だが、案外使えそうであることは、迷宮に出現するモンスターの情報を見て確信できた。
「全ての階で使えるような魔法じゃないさ。こいつには攻撃力もなけりゃ防御力もない。だが考えてみてくれ、モンスターとの戦闘を限りなく回避できる魔法があるならそちらの方が使えるだろ」
「まあ確かに、今回は魔石を集める訳でもないしな。でも、モンスターの誘導に使うにもその魔法だけでなんとかなるとは思えないぞ」
その通りだ。この魔法は11、23、35層のモンスターに対処するために改良した魔法。
他の階層で使うには効果不足であることは否めない。
「ああ、だから創るんだ。各々に対処した魔法をな」
「いやいやっ、二週間だぞ?! たったそれだけの日数で完成する訳っ!」
「現実的に考えたら難しいろうなだ。だからそこは、賭けて貰うしかない。判断材料はこいつしかないが」
昨日徹夜で創り上げた魔法に目を向ける。できるかは分からない、だけでたった一日で自分用に改良した魔法を創れるという事実は確かにここにあるのだ。
誠二も魔法に目を向け、考え込むように目を瞑り、葛藤の声を上げて唸る。
「・・・・・・放課後、家で話さねえか。内容の詳細を知ってから判断がしたい」
「分かった、風紀委員の活動後に誠二の家に行こう」
放課後、学園から7キロほど離れた場所に誠二の実家に訪れた。
チャイムを鳴らし待つ。ガチャリとドアが開き誠二が出迎えに出る。
「よう、待ってたぜ。狭いとこで悪いが上がってくれ」
「お邪魔します」
玄関で靴を脱ぐ。
右手に二階に続く階段があり、左手にはリビングに続くドアがある。
何度か誠二の家には来たことがある。随分と久しぶりな気もするが、変わらない雰囲気になんだか安心した。
二階に上がる誠二についていく途中、少し開いたリビングのドアから顔を出した女の子と目が合う。
「あっ、こんにちは」
「こんにちは、お邪魔しますね」
会釈して、女の子はリビングに戻る。
あの子は誠二の妹だ。記憶にある姿と比べて随分と成長している。年齢で考えると丁度中学生になったばかりだろうか。
階段を登り部屋に入る。
部屋の中央に丸机が一つ、敷かれている座布団に座るよう言われ腰を下ろす。一度部屋を出た誠二はお茶をお盆に乗せて持ってきた、こういう気遣いができるのが彼の美徳だろう。
「まあ話に入る前にだ。家の事情についてはお前も知ってるよな」
「ああ」
3年前だったか、誠二の父親が死んだのは。
特段裕福という家庭でもないと言っていたが、父親が亡くなったことで家庭のやりくりが大変になったという話を聞いた。
それを今は母親が必死に仕事をして支えている。
誠二の他に妹が二人、美緒ちゃんと美沙ちゃんがいる。彼女等は俺の記憶に間違えがなければ今年中学生だ、年を重ねるごとになにかと入用になる。
「金がいる。叶うならば、あいつらが夢を諦めなくてもいいだけの金が。そして母さんがこれ以上無理をしないようにもしたい」
「・・・・・・ああ、分かってるさ」
可能な限り早く金がいるということだ。
おそらく既に誠二も迷宮に潜ってモンスターの魔石を換金しているだろう。そしてEランクの迷宮では家計の問題解決にはならないと思ったに違いない。
であれば現状の目指す場所はDランクの迷宮。
そしてその入場には俺達は教師の推薦が必要となってくる。丁度、迷宮踏破試験という教師の評価を受けられるものがあるとくれば、なにがなんでも上位の結果がとろうとするだろう。
「腐れ縁だしな、お前がどういう奴かも分かっているつもりだ。そして俺がどういう奴かも理解してくれていると思ってる。だから、詳細を聞かずとも、一つだけ問いに答えてくれたら俺は従うつもりだ」
昔は、いつもふざけているようなムードメーカーだった誠二のいつになく真剣な瞳が俺を射抜く。彼をここまで本気にさせるなにかが家族だということ、人の本心は崖っぷちにならないとその真意までは見えてはこないのかもしれない。
そして、だから俺は誠二を選んだのだ。
既に真意が見えていて、冷や汗を掻きながらも同じ綱渡りをしてくれるような肝の据わった奴はこいつしかいない。
「お前は、この試験で音無蕾に勝てるか?」
俺のコンプレックスをよく理解している質問。
「断言はできない、が、負ける気はない」
「・・・・・・驚いたな。少しは言い淀むもんだと思ったんだが。いいね、乗った。どうやら勝算があるらしい」
俺の回答はお眼鏡に叶ったらしい。
いい返事をいただけたということで、俺は少し意地の悪い笑みを浮かべながらリュックに入れていた資料を取り出し誠二の前に出す。
「これは?」
「まだ途中だが、取り敢えず40階までの進行手順を明記している」
「ほぅ・・・・・・」
資料を手に取り、一枚一枚と目を通していく。
みるみると口が引き攣っていく誠二は一度資料を置いて、こちらに視線を向ける。
「ははっ・・・・・・これマジでやるのか? ていうかできるのか?」
「できない、なんて言わせないぞ。本気になったら限界ぐらい越えられるだろ」
「言うねぇ。まあ乗りかかった船だ。お互いにとことんまで付き合うか!」
これでピースは揃った、後は想像を現実にするだけだ。
視覚勉強で2,3週間程更新できないかもです(>_<)




