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遥か遠くの君達へ  作者:
第一章 リトライ編
15/25

15話 別道

 月曜、いつも通り五時に起床して柔軟を始める。

 十二分に解した後はランニングのために寮を出る。


(金策も考えないといけない)


 ゴブリン十体にホブゴブリン三体の報酬、計4千円。

 ゴブリンの魔石が一つ百円でホブゴブリンの魔石が一つ千円の計算だ。命を懸けての賃金としてはこれ以上ない程に安い。


 寮と授業料の支払いは前期と後期の二回。

 前期に関しては両親が出してくれたが、後期からは俺が支払う約束だ。このまま続けて行けば決して払えない額ではないが、武器や防具のことを考慮すればより多くの収入を必要とするのは自明。


「さっさとDランク級の迷宮に入れるようにならないとな」


 Dランク級に入るには一人以上の教師の推薦がひつようとなる。

 つまり、なにかしらの授業で他者より秀でた結果を残さなければならないのだ。


「厳しいな」


 ランニングコースを走り出して思い返すのは昨日のことだ。

 今の自分はまだまだ未熟であることを再確認した。己の手札を増やさなければそう遠くないうちに限界が訪れる事を悟るには十分な戦いだったと思う。


 低級の迷宮のあの様では頭を抱えてしまうが、あれが現状。


(魔力制御、身体づくり、魔法の理解も進めているつもりだが・・・・・・)


 早く、そして劇的に変わる何かがないかと考えてしまう。


(やっぱり遺物は劇薬だったな)


 やはり思い返すのは昨日の遺物を用いた戦闘。

 他者を圧倒する力。苦戦したはずのホブゴブリンを歯牙にもかけず蹂躙した光景は鮮明に記憶に残っている。


 天才をしらなければ、本来の自分には決してできない芸当に酔ってしまいそうだった。


 軽く目を瞑る。

 汗だくの少女が必死に前に進む姿が映る。その姿は成長し、堂々たる姿となり、なおも努力を惜しまず天狗になり立ち止まった天才たちに目を向ける事無く通り過ぎる。


「俺が遺物に呑まれることはなさそうだ」


 苦笑しながら目を開く。







 ホームルームまでの時間を誠二と喋って潰し東雲先生の入室を確認して自席に戻る。

 出席を確認した後、東雲先生が何事かを黒板に書き込む。


「皆知っているとは思うけど、二週間後に迷宮踏破試験があります。成績に多少加味するけれど、一番の目的は今の自分の実力がどの程度なのか君達自身が理解できるようにするためのものです」


 迷宮踏破試験。

 冒険者学校には、ある特殊な迷宮が存在する。全100層からなる階層型の迷宮。一層ごとに特殊な石板が設置してあり、そこに手を触れれば次回はその地点までのどの階層からでも始められるらしい。


「その迷宮踏破試験に臨むにあたり、2人から5人までのチームを皆さんに各自作って頂き、金曜日までに先生に報告して下さい」


 ソロじゃ無理か。学校が対応するとはいえ迷宮内のモンスターは普通にこちらを殺しにかかってくるから最低限の危険性は回避する意味合いもあるのかもしれない。


「息の合う友人と組むのでも、魔法の相性のいい人と組むのも自由です。考えてなるべく多くの階層を踏破できるようにしましょう」


 闇雲に人数を多くしてもいい訳じゃない。

 ここは俺の水魔法と相性のいい雷魔法の生徒と組むべきか、息の合う友人と組むべきか。


 放課後。

 今日は風紀委員のトレーニングはないようで、学校の一室、風紀委員に貸与された一室に全員で集まった。


「よしっ全員だな。新入生諸君、一週間の訓練を経てどうだっただろう。残った9名は風紀委員としての心意気が十二分にあるものだと判断して、お試し期間は先週で終わりとした。おめでとう、君達が新たな風紀委員だ」


 俺を含めた9名。

 てっきりもっと厳しい訓練でもするのかと表情を暗くしていたものもいたが、隣同士で見合わせ喜色を浮かべている。


 同じクラスである畠山と綿内の姿もある。

 畠山はまだしも綿内は死にそうな顔で過ごしてたから正直残れるとは思っていなかった。そこまでして風紀委員になりたい理由は気になるがあまり個人の内容には踏み込まないほうがいいか。


 如月委員長の激励の後、残った9名による自己紹介を行い、風紀委員の制服が改めて支給された。


『おめでとう一』


「ああ」


 パチパチと手を叩いて祝福するフーに大袈裟だなと思いつつも少し嬉しく感じる。

 これでより実力を伸ばす機会が増えるだろう。


 風紀委員の仕事内容と年間のスケージュール等の資料を受け取った後、先週までと比べれば容易なトレーニングを終え本日の活動は終了した。


 寮に帰り、東雲先生が言っていた迷宮踏破試験について考える。

 一年のこの時期に必ず行われる行事であり、この時期での最高到達階層は確か57階層であったはずだ。この記録保持者は二年の雨雪生徒会長であるらしい。流石は七家、その実力は本物だということだろう。


 さて、到達目標とメンバーはどうしたものか。

 先生は別クラスのメンバーと組む事に関しての注意事項などはなにも言わなかった。であれば他クラスのメンバーでもいいということだろう。しかし、Aクラスの生徒は実力を考えればクラス内で組むだろう。そしてそれ以外のクラスの実力はとんとんだ。こぞって誘いにいくような実力を持った生徒はまだ現れてはいないだろう。


 ここはメンバー五人で安定した攻略をするべきだろう。

 そして到達階層は、


「節目の五十を目指せばかなり上位か」


『だっさ~ その程度の階層で満足できるんですか~?』


 出たよ。

 手に口を当てて煽る煽る。


「はぁ、こんなところでお前の力を使う訳にもいかないだろ。Eクラスの迷宮で出現するような遺物ならまだしも、伝説級なんていうまだ認知もされていないような遺物をだすのは公平性に著しく欠けるだろう」


『誰がボクを使ってなんて言ったんだい。一自身の力だけでも五十階を抜けることは十二分なはずだよ』


「・・・・・・買い被り過ぎだな。今の俺にそんな力は」


 Eランク級の迷宮のホブゴブリンにさえ苦戦する俺だ。

 50階どころか30を超えた辺りでも既に厳しくなるかもしれない。


『魔法があるじゃないか』


「俺が使える魔法は限りがある。殺傷力の高い魔法といえば水刃ぐらいだ」


『君は魔法の種類が攻性魔法と防性魔法しかないとでも思っているのかい』


 いや、相手はモンスターなんだから攻性と防性の魔法が必須で――と、ふと思考を深めて顎に手を当てる。


 迷宮のモンスターを倒し続ける必要はないのではないかと思い至る。モンスターの出現頻度、行動は未知数だが、必ず戦闘が必要であるのは十階層ごとに存在する階層主だけだ。もしも道中のモンスターとの戦闘を最小限に抑えられるならそれに越したことはない。


 が、魔法でそれを為そうとするのは難しいだろう。

 姿を限りなく消せるような魔法は確かに存在するが、非常に高度な術式で構成されたものだ。残り二週間でどうにかなるようなものではない。


「いや、だが完全でなくとも限りなく近い簡易なものなら・・・・・・」


『おっ、限りなく正解に近付いて来たね~』


 随分と上から目線だが、そう言えるだけの視点があるのも確か。文句も言えず閉口するしかない。


「だが今から新しい魔法を覚えるのは相当きついぞ」


『うん。だから創っちゃえよユー』


「は?」


『魔法を創ってしまえばいいと言ってるんだ』

 

 言葉の真意をくもうとするも全く分からない。

 新しい術式を覚えるよりも高度なことを要求していることを分かっているのだろうか。たった二週間でオリジナルの術式を構築して実戦で使えるレベルまで引き上げることなんかどんな天才だってできやしない。


『なにさ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。一、魔法の発動手順を考えてみてよ』


「・・・・・・術式の構築と座標の指定、そして魔法の威力を魔力で操作して発動だ」


『抜けてる抜けてる。全ての動作に魔力操作が絡んでくるだろう? そしてこの魔力操作が上達するにつれて術式の自由度が増す。迷宮でのホブゴブリンとの戦いでやった水壁の再生、あれは戦闘しながら破壊された術式を魔力操作で再構築していた』


フ―は見透かしたような瞳で俺の顔を覗き込む。


『君は確かに凡人で特別な力はないが、努力を続ければ実る器がある。いつから魔力操作を続けてきたのかは知らないけれど、多分この学園ですでに魔力操作のみに関してはトップ層に立っているはずだ』


 物心がついた頃には魔力を操作していた。

 最初は全くできなくて楽しいものではなかったのを覚えている。

 けれど、未知の現象をこの手で起こせるという点が最初の起点だった。


 まあ、全能感に似た酔いはすぐに冷まされた訳だが。

 夢を見つけて、自分もなれると確信した後、絶対的な才能を持っている奴を知って、己がただの凡人だと思い知らされた。

 それでも何故か魔力操作だけはやめなかった。

 理由は分からない。どこかでまだ自分に才能があるんじゃないかと期待していたのかもしれない、きっぱりと夢を諦められる欠点をつくりだしたかったのかもしれない。そんな感じで惰性に似た流れで続けてきた、毎日、それがおよそ十年間だろうか。


『大体高度な魔法は全ての場面で効果があるようなものを想定したものだ。わざわざそんなことに挑戦せずとも、限定的な効果な魔法であれば、君の実力であれば創れるはずだ』


「・・・・・・どんな無茶言ってるか分かってるのか」


 限定的、とはいえそれが五十以上の階層とそれ以上のモンスターがいることを考えれば、一つの魔法でなんとかするのは難しい。つまり、その場に適応する魔法を複数創りだす必要がある。


 そして前提条件にあるのはそれを為すだけの膨大な情報を理解しておくことだ。

 時間がいくらあっても足りないのに、それがたったの二週間。諦めるべきだと冷静に状況を俯瞰している俺が言う。


 けれど一方で、()()()()()()()不可能ではないとも思う。


『やる? やらない?』


 挑戦的な視線を向けるフー。

 答えは分かり切っていると言っている様だ。

 まあ実際その通りなのだが。


 凡人が英雄を目指す前提条件は、人事を尽くす事だ。





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