14話 side雨雪美冬
「ふぁぁ~ ちょい休憩しよ」
立ち上がり生徒会室に常備されてる湯沸かし器でお湯をついで、お気に入りの茶葉と合わしてお茶を入れる。
新入生入って来て生徒会の仕事も一気に増えた。
まあ、それも佳境、各担当との連携も済まして一段落付きそうで安心した。
「美冬~ ちょいと邪魔するぞ~」
ノックもなしに生徒会室に乗り込んできたのは現風紀委員長の如月咲や。
この冒険者学校でトップ層に君臨する彼女は、気ぃ張らんでええうちの数少ない友人の一人でもある。
とはいえ、彼女も組織のトップを預かる身や、あまり奔放過ぎる行動には注意せなあかん。
「もう、咲も先輩になったんやさかいに、ちびっとは落ち着いたらどないなん?」
「悪い悪い、にしても日曜日だってのに作業とは生徒会長様には恐れ入るよ」
「おちょくらんといてや、別に高尚な考えなんて持ってる訳でもあらへん。うちは家があれやさかい失敗は許されへんのは咲も分かっとるやろ」
「ほんと、七家は大変だね」
日本を守護する七家、うちはその中の一つ雨雪家の長女。
常に結果を求められる生活には気疲れもあるけど、うちの判断一つで数千、数万の人生を左右するんや。うちも皆のことは好きやし、彼等彼女等の為やったら頑張れる。
「そういや生徒会はスカウト役員を獲得するんだったか。今年は既に何人かに声を掛けたのか?」
「勿論、やっぱし実力重視やさかいAクラス中心になるけど、今年も豊作やな。特に新入生代表の音無蕾ちゃん、噂では聞いとったけどそれ以上やったで」
「あぁ~ やっぱ生徒会が取っていったか。あわよくば風紀委員にと考えていたんだが」
「ふふん、やりぃ」
立場上あまり認めとうはあらへんけど、蕾ちゃんの実力は一年前のうちと比較したら上になるやろ。あそこまで才能に溢れた子は初めてみた。この冒険者学校で一年過ごしてどう変化するか見もんや。
うちも追いつかれへんようにちょっと気張らなあかんなあ。
「風紀委員のとこはどうなん? なんやえらいしんどいって一年生噂しとったで。あんまいじめたら可哀そうやろ」
「いじめてるつもりなんてない。あの程度で弱音を吐いていたら風紀委員の役割を担うことなんてできないさ。その点今年は諦めの悪い奴等が多くていい。才能が突出しているような奴はいないが、堅実に成長するだろう」
風紀委員の仕事は、その後の進路に見合うだけのものを要求される。
故に外部に出て実戦的な業務をこなす数も多う。危険性は他のサークルと比べて顕著や。
一人足並みを合わせへん事隊全てに影響するため、一人一人に厳しゅう接し、ほんでそれ以上に彼等を導く旗として。誰よりも己に厳しゅう、誰よりも前に出るのが咲や。うちでも後ろに守るべき人がおる状態の咲を相手にしたない。
「そして、風紀委員にも面白いやつがいる」
にやりと笑うて咲呟いた。
うちの蕾ちゃんに対抗でもしてるんやろうか。
(う~ん、めぼしい子には大体声を掛けた思たけど見逃してもうたかな)
勿論Aクラス以外にも優秀な子はぎょうさんいる。
やけどまだ能力開花してへん子もおって、この時期の成長曲線はえらい読みにくい。
「へぇ、どないな子なん」
「一見して普通の奴だよ。堅実に進むタイプで、大抵は大成せずにその他大勢に埋もれるタイプ」
おぉ、凄い言いよう。推してる子とちがうんかな。
「名前は新界一」
「ふむふむ」
記憶の中にあるデータベースを検索する。
新界一。男子、クラスはE、成績は中の上で他の生徒に比べて基礎の土台整うてるタイプ。ただし魔法の成長はそこまで早いとはいえへん、適正は水のみで他の属性は実戦では使用できひんレベル。
「意外やな。ほんまに普通そな子やん。咲の琴線に触れそうには思えんけど」
「おっ、流石生徒会長。もしかして生徒全員の情報覚えてる?」
「当り前やろ、情報は命や。些細な見落としが癒せへん傷になることなんてのはよう言われることやん。絶対に安全があらへん場所で妥協なんて怖おしてできひんわ」
「普通は妥協じゃなくてもできないんだが・・・・・・本当に、なるべくしてなった支配者って感じだな」
「七家の子供やったらどこもこないなもんやろ」
残りの七家の子供達を思い出す。
どの子も一癖も二癖もある連中や。まだ救いがあるとしたら、数人は良縁を築けそうな子達がおることか。
「尖ったステータスがある訳じゃない。だけど周囲はよく見てるし、冷静に意見が出来る奴に見えた。分隊長タイプだな」
分隊長。聞こえはええけど、ようは実戦的な実力足らへんため他の人員の監督を任される職や。
「ここまで聞いた限り咲が興味を持つ点皆無なんやけど」
「まあまあ最後まで聞けって。それで話を戻すが、これは風紀委員恒例のふるい落としを行った初日だった。軽く走って、ひぃひぃ言ってる連中に組手をするぞと言って絶望に沈む顔に愉悦を感じていた後だ」
「あんた最低やな」
「二人組でペアを組ませたんだが、希望者が奇数だったため一人あぶれたんだ。そいつが新界一だった。余ったならしょうがない、私が相手をしてやろうと頼れる先輩を演じながら前に出てやった」
うわぁ、新界君可哀そうやな。
初日のトレーニングでまだ慣れてへんのに、こないな人格破綻者組手の相手やら・・・・・・まだ喋った事あらへんけど、見かけたら優しゅうしたげやで。
「そして順当に、というかまあ一方的にボコる展開になった」
「あんた手加減とかした?」
「する訳ないだろ、こちとらか弱い女生徒だぞ」
どの口言うてるんやか、大の大人かてぶっ飛ばす女子がか弱い訳あらへんやろうに。か弱いアピールでもしてるのか、くねくねとしてる咲にジト目ぇ送って先を促す。
「こほんっ、ボコるとは言っても中々に肝の据わった奴でな。どこまでできるのかほんの少し興味がでてな、ちょいと本気を出した。結果的に地面に叩きつけて腕の関節を極めたんだ」
新界君に優秀な弁護士を紹介したらなあかんな。ほんま訴えたら勝てるんちゃうかこれ、新入生って理解しとるんかなこの脳筋は。
咲はその時の光景を思い出してるのか、少し視線を上に向ける。
「・・・・・・ぶっ飛ばされたんだよ」
「そりゃぶっ飛ばされるやろ、新入生の子にそんなんしたら。なんや先生に怒られて不貞腐れて――」
「先生にじゃない、新界にだ」
「え?」
カップに向けとった視線を思わず上げて咲を見る。彼女もうちに視線を向けとって、その表情には嘘があるようには見えへんかった。
「腕を極められた状態。それを奴はものともせず、体勢なんて関係ないとばかりに極められている腕を振り上げてぶっ飛ばした。十メートル近くまで」
「・・・・・・魔法は?」
「組手に魔法の使用は禁止したし、実際魔力も感じなかった。ということは遺物なんだろうが、あそこまで身体強化できる遺物は相当稀だ」
身体強化系の遺物はそれなりに存在するけど、性能はピンからキリまでや。
アスリート選手レベルまでのものもあったら、家一軒を叩き潰せるものまどす。そやけど、それらは魔法による身体強化も併用してや。
魔法を使用せずに人を十メートル近うまで投げ飛ばす程の遺物となると・・・・・・
「思わず唖然としたよ。吹き飛ばされながら、状況の理解にほんの数秒かかった。そして理解と同時、新界が目の前にいた」
それ程の遺物を、そこまで正確に使用できてることに驚く。
階級の高い遺物につれて精密な制御必要になるのんは周知の事実やけど、聞いた話ではえらい一年の少年使いこなせる遺物には聞こえへん。
「今思い出しても笑えるぜ。久しぶりの感覚だった。ほんの一瞬びびったんだ、この私が」
反して、咲は面白そうにくつくつと笑う。
「な? 面白いだろ」
「そうやね、まさかそないな子やとは思わんかったわ。問題はどこでその遺物を手にしたかやね。入学してすぐにいける遺物はEが限度、それ以上ならまず入場ができひんはず。そやけど聞く限りその遺物の階級は高い、鬼才、もしかしたら英雄級かもしれんな」
「だな。でだ、今日は鑑定の遺物を借りたくて来たんだよ。確かあれって生徒会の、というか雨雪家のもんだろ」
「そうね、ただ丁度八千ちゃんに貸しているからすぐには無理やな」
「ああ、副会長か。タイミングが悪かったか、残念。新界の遺物の階級を暴いてやろうと思ったのにな。ひひっ」
鑑定の遺物はそこそこに普及してるけど、個人所有できるまでには至ってへん。
対象を見定める能力もこれまたピンキリや。冒険者学校も所有してはいるけど、雨雪家の方性能高いものを持ってる。
まあ、そもそも人の遺物を暴くこと推奨はできひんのだけど、あまりおっきなイレギュラーはうちにとっても危険。ここは咲に任せて、不確定要素をなるたけ消しときたいとこや。
「戻ってきたら連絡するわ」
「分かった。ちなみにだが、もしも新界の遺物が怪物級以上だったらどうする?」
そらほんまに少ない確率の話や。
「そやね、うちちゅうか全力で雨雪家で取り囲むやろね。それが無理やったら・・・・・・まあ、ご想像にお任せするわ」
「ひゅ~ 怖っ。あんましうちの後輩をいじめんなよ」
ほんと、権力者はこないな時の選択がいややわ。




