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遥か遠くの君達へ  作者:
第一章 リトライ編
13/25

13話 愚者

 取り敢えず身を隠せそうな場所に移動する。


「くっ」


 左腕を動かそうとすれば激痛が走る。

 薄っすらと折れた骨同士が擦れてる感じがして気持ちが悪い。


『ねえ一、ボクの力を使ってみない?』


 座り込んでいる俺に目線を合わせるようにしゃがんでフーはそう提案した。


『実戦の経験は君を大きく成長させるものだけど、君にはそれだけじゃ足りないと思った』


「才能がないのは誰よりも理解している」


『違うよ、才能云々じゃない。君はどんな窮地であっても無謀にも飛び込む意思があるからってことだ。今のままじゃ、確実に死ぬよ』


 当然俺だって理解はしている。

 けれど、もし絶対に敵わない敵がいて、そこに守るべき人がいたのなら逃げようとする本能すら消し去って無意識に足は敵の元に行くだろう。


 俺を例えるとしたら、どうしようもなく英雄に憧れてしまった才能のない道化だろうか。


『得体の知れないボクを警戒しているのは理解できる。だけど、自己満足で進むのか、ボクという手段を手にすることで選択肢を増やすか、一の天秤はどちらに傾く?』


「・・・・・・はぁ、俺の思考を読める奴に舌戦で勝てる訳ないだろう」


 この遺物の危険性を考慮して尚、天秤は遺物を使う方向に傾く。

 問題は遺物を使う事に慣れてしまうことだ。遺物でしか対処法を見いだせなくなった時、俺の未来は必然的に積みの道程を辿るのではと思う。使う事は言い、ただ呑まれてしまえば、強くなるどころか弱体化してしまう危険性がある。


 それを念頭に置いての話だ。敵は強大で、それを退けられる力が圧倒的に足りない現状を思い知って、それでも自分で突っ走り続けようとは思わない。目指すべき目標が確かならそれに貪欲になろう。


「頼む、お前の力を貸してくれ」


『っ、えへへ~ 仕方ないな~』


 何が嬉しいのか腰をくねくねさせてご機嫌に笑みを浮かべている。

 ・・・・・・これが伝説級か、ちょっと不安だが能力は確かなはず。


 ご満悦な表情で勢いよく立ち上がるフー。

 そして何故か服装が変わり先生風の衣装にチェンジした、気分では生徒を指導する教員だということか。


『は~い! という訳で頑固君にボクの使い方を教える時間だよ~』


「誰が頑固者だ」


『シャラップ! 先生は発言を許してませんよ!』


「・・・・・・」


 得意気に胸を張っている少女にイラつくことになるとは。そろそろデコピンは解禁していいんじゃなかろうか。

 まあ、言い合っても時間の無駄だ。ここは先生と言い張る遺物の言うとおりにしようと先を促す。


『じゃあまず質問なんだけど。一は遺物をどういう認識を持ってるかな?』


「認識? そうだな、便利な道具だろうか。所有者の命令には忠実で、嵌ると依存性が高い薬物に近いものだと」


『わぉ、凄い言われようでボクびっくりだよ! でも大きく外れた考えでもないね。確かに適合さえできれば所有者は遺物を自由に操ることができる。ただし、覇王級までの遺物に限るけどね』


 言に、己は違うと言っているのだと察する。

 確かにこの遺物は俺の知っているものとは違い一癖や二癖もある。意思の疎通が可能なものなど聞いたこともなかった。今までの常識とはなにもかもが違うのかもしれない。


『ボクのような伝説級以上の遺物は、所有者による支配とは無縁。お互いの親和性を上げていくことでより強力な力を発揮することができるんだ。まっ、そもそも一は弱過ぎて親和性依然の問題かもだけど! ぷぷぷっ』


 余計な一言に再び青筋が浮かび上がるが、強靭な精神で怒りを抑え込む。

 一々怒っていたら体が持たない。それよりも問題は、お互いの親和性を上げることで強力な力を発揮するという点。


 相応の実力をつけた後で、可能ならば音無に並ぶぐらいになったところで少しずつ遺物なり使い始めるつもりであったが、親和性の薄い状態であればもしもの時に十全な力を発揮できないということだ。


『お気づきのようだね。頑固者の一君に合わせていたらボクの力は宝の持ち腐れな訳。ちなみに親和性を上げるにはボクの能力を定期的に使う事で・・・・・・あぁ、あと滅茶苦茶ボクを甘やかしたら自然と上がっていきます』


 後者は兎も角、定期的に使う必要がある訳か。

 己の実力、成長度合い、そして先程の死闘を考慮して結論を導き出す。


「分かった。現状は休日のみだがフーの力を借りたい」


『うんうんそれがいいよ』


 最初に遺物を使わないと行った時、やけに簡単に引き下がったと思ったが、もしやここまでの展開を計算していたのではないだろうな?


『じゃあ、早速始めよう。といっても使い方は簡単、まずは一の中にいるボクを感じて。そしたら、体に同期するように強くイメージすればいい』


「抽象的だな」


 目を瞑る。

 言われても、自分の中になにか別の異物がいるようには感じない。


『ほら、これで少し分かりやすくしてあげる』


 目を開くと、俺の体に抱き着いている少女の姿が。

 思わずキョロキョロと辺りを見渡し人がいないことを確認する。


『気を散らさない、集中して』


「あ、ああすまない」


 真剣な声音から俺をからかっている訳ではないらしい。


「だが、頬ずりする必要があるのか。別に感触がある訳じゃ」


『黙って集中! そんなこと言ってたらいつまでも成長できないよッ!』


 全く理解できないが必要なことらしい。

 再度目を伏せ、内側に気を向ける。草木の音を消し、心臓の鼓動を感じ、それでも見つからない。


「・・・・・・いや」


 ふと、仄かに熱を伴うなにかを感じた。

 意識を熱の中心に向ける。


『おっ、見つけたね。じゃあボクを意識したままその熱に体を委ねて』


 熱に、触れる。

 湯に体が浸かるかのように、中心部から体の先へと。


『最後、ボクの名前を呼んで』


 名前、遺物の名前か。

 確か、


愚者(フール)


 カチリと、嵌った音がした。

 目を開き、己の体を見る。右肩に熱を感じて服を捲ると、そこには棍棒の入れ墨があった。


「なんだこれ、この入れ墨はお前の能力に関係があるのか?」


『別に害はないから気にしないで、大アルカナの能力を使うときはそういう入れ墨が出るんだ』


 ということは他に大アルカナの遺物を持っている人間がいれば俺の遺物もばれるという訳か。遺物を使う時はこの入れ墨をなるべく隠していかないといけないな。


『ほらほら、それよか能力の確認をしよう!』


「ああ」


 とりあえず手を開閉させたり、軽く体をほぐす運動をしてみる。

 動きながら、そういえば左腕の痛みが引いていることに気付く。見れば見ただけで分かる骨の異常が元に戻り、健康な状態に収まっていた。


「・・・・・・再生能力」


 あることは分かっていた。

 以前狼型のモンスターとの戦闘で無くなっていたはずの左足が生えていたのだ、治癒系統の能力があるのは確かで、分からなかったのはその度合い。


 他者を癒す事ができるかは分からないが、あのレベルの重傷をものの数秒で治療できる遺物は現状でも片手に収まる程、とはいえどれも使用者に負担を掛けるものだったはず。対して俺は治療に対してなにか思った訳でもなく、無意識に修復していた。


「ふぅ、少し頭が痛くなって――」

 

 隣にあった木に手を付いて体重を掛け、ボギッと鈍い音が鳴った。

 身を委ねる支えが軽くなり自然と視線は木に向く。


「――これは、慣れないと迂闊に使えないぞ」


 半ばから木は折れ、左手一本で木を中空に掴んでいた。


『この程度で驚かないで欲しいな、一が今使えるのは正規品の付属物程度のものでしかない、はやくボクだけの特性を引き出してよ』


「これで付属品とか」


 草木を掻き分けゴブリンを探す。


「見つけた」


 数は五、警戒しなければいけない数だ。

 が、俺は無造作に距離を詰める。短剣を取り出す必要はない、軽く拳を握り、殴打。


 五発、そして五体の死体が地に沈む。


 熱に体を委ねるにつれ、この遺物がどの程度まで力を持っているかが薄っすらと見えてくる。


「常々、理解できないことがあったんだ」


 近くにいたのだろう。茂みを掻き分け、ホブゴブリンが姿を現す。


「どうして遺物を手にした冒険者の犯罪率が跳ね上がるのかと。結局組織には敵わないのに」


 ホブゴブリンの棍棒が振り下ろされる。

 そっと、手で日を遮るような動作で左腕を持ち上げる。衝撃が体を伝い、地面が僅かに沈んだ。


「この全能感(麻薬)にやられたんだな」


 踏み込み、下方から突き上げるように顎目掛け右拳を繰り出す。

 重い衝撃音が空気を伝播し、ホブゴブリンの頭部が宙を舞った。


『君も呑まれる?』


 現状の俺ができないであろうことを易々と成せる力の魅力は大きい。


「残念ながら、この程度なら素でできそうな奴が身近にいるんでね」


 そいつの背中の方がくっきり見えている。

 凡才が金棒を手にしたところでまだ追いつきやしない。


「なら目標だな、溺れられるぐらいに使いこなそう」


『言ったね? あはっ、毎週地獄に連れて行ってげるよ』



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ・・・・・・これが神話級か、ちょっと不安だが能力は確かなはず。 フーって神話級じゃなくて伝説級だった気が...? [一言] めちゃ面白いです!投稿頑張ってください!
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