【かいしゅう】1
翌日の放課後。海が見当たらなくて仕方がなく他の三人と部活へ行くと、
「お邪魔してます」
部室に国永さんが居た。
海も日之本も一緒になって俺たちを迎える。国永さんは両手を重ね合わせて、改まった感じにお辞儀をしてくれた。
「え……ああううん全然! けど……え?」
二日連続で国永さんと顔を合わせられるなんてすごくラッキーだ。けれど心の準備が無かったものだから上手く言葉が出てこなくて、せっかく国永さんと交わしていた視線は海に向いていた。
「うん壮馬くんあのね、昨日言ってた実践の話あったでしょ?」
「実践? ああうん、でもそれと何が関係して……」
「ここは私が説明しよう。実はだね、国永君が所属している図書委員会で老人ホームを訪問するボランティアをするのだそうなんだけれど、その際に行う朗読劇の背景音楽を、この私たちで手伝わせて頂く運びになったんだ」
「え!?」
「えらいこっちゃ!」と耕介が大騒ぎする中、話し終えた日之本が右半身を後ろへ払うように振り向くと、その先に居た国永さんが丸みの帯びた頭を下げて俺たちへもう一度お辞儀をする。背の高い二人に挟まれていたから、より国永さんが小さく感じた。
「え……、でもそれって国永さん。確か次の土曜だったよね?」
「うん。だから本当いいのかなって思ったんだけれど……」
申し訳なさそうに眉を下げる国永さんの視線と、「BGM係りぃ~」と緩く舞を踊るラブ沢の間で俺は言葉を失う。けれど耕介は違った。
「ええやん! 面白そうやん!」
「ったく……またそれかよ耕介。この能天気野郎の介め……って、何肩組んでんだよ!」
「いやいやだってやで~……? 愛しの国永はんとお近づきになれるチャンスやん……」
「いと……! ば、馬鹿っ、お前……っ!」
耕介は小声で話しているつもりだけれど、俺は国永さんに聞こえてしまわないかと冷や冷やした。
でも自分がしている挙動の方が怪しいかもと気付いて、俺の頬は赤く染まってしまう。
「そう、面白そうだろう? それにコンクール予選へ参加する皆にとってこれは、すごくいい話だと言っていいと思うけどね」
「ハハハッ! 確かにJPの言う通り、いい話だと俺も思うぞ? 度胸試しにもなるしな!」
「うんうん、すごーくいい~。ボク、張り切っちゃうんだぁ~」
「浦野、ラブ沢……。でも俺は」
確かに、人前に慣れる練習にはなると思う。ただ……。
「弾けるか心配なの?」
「ああ、うん……そうなんだ海。急に楽曲渡されてもさ、俺は楽譜読むのも下手くそで」
「心配無用やで、相手はじじばばや!」
「こら耕介君、言葉には気を付けなさい。それにその調子では予選通過は無理だろう」
「ほならこの短期間で完ぺきに弾け言うんかいな!?」
「いいや、そういう意味じゃないよ。もっとここさ」
日之本の長い指が耕介の胸を突く。
「な、なんやねんJP……。俺の男前な目が、お洒落前髪で被さってるのをいいことに正拳突きかいな、やめてや?」
「音楽はパッションだよ?」
「ぱ……パッションってダサァ。つか、そんなん分かっとるし! さっきからずっと面白そうって言うとるやん俺!」
「なら話が早いじゃないか。いいかい? 今回はただの発表会ではなく朗読劇。主役はあくまでも朗読者の語りだ。分かるね?」
「パッション言うとるくせに、大人しくしとけ言うんか?」
「違う違う」
そう言って日之本は俺を見た。
「音楽に込めるんだ」