確認アビリティ
それから僕は家に帰って、母と妹が新春のテレビ番組を観ているそばを通り自室へ向かった。
勉強机に置いてある数学の参考書を手に取る。
数学は大の苦手のはずだったのに。
「今なら公式もわかるし、応用問題ですら解き方がわかる……」
他の参考書も手当り次第試してみて分かったことがあった。
この力には3つルールがある。
①右手で触る必要がある。
②触っている間は本の内容を全て把握できているが、覚えられるわけではなく離してからは自分の暗記力次第。
③挟んでいる栞の内容も理解できる。
この力を使えば本屋に行くだけでかなりの量の情報を得ることができるのでは?
今が1月1日の深夜1時。
早ければ明後日の昼には近所のショッピングモールは開店するし、開店待ちしてすぐにでも試したい。
「これがあれば大学合格もできるぞ…」
「忘れてるかもしれないけど、生き残るのもお願いね」
「うわあっ」
神様 ミトが勉強机正面の壁から頭だけを突き出してきていた。
「びっくりさせないで、家族になんて思われるか」
「ごめんね、本を【読み取る】のに夢中だったからさ」
神様は僕の部屋に入りこんで、見回すとベッドの上で寝転がった。
「さっきはなんで急にいなくなったの?」
「挑戦者が決まると報告しないといけないの」
「その挑戦者って何ですか」
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今から1826年前から日本に司る八百万の神によるバトルロワイヤルが始まった。
きっかけは些細なことで、貧相の神と虚弱の神がどちらがより弱いかで言い争いをしていたことから始まった。
そこで戦の神が提案した。
「勝ち抜けのバトルロワイヤルをしよう。ただし、神同士で争うのは神界でのご法度」
「人間に我ら神の力を一部託し、争わせるのだ」
こうして毎年除夜の鐘がなる頃に、初詣ねがいごとをしに来た人間に力を与え、彼らを争わせた。
毎年1位の神から勝ち抜けていき、現在は残り109の神が負け残っている。
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「急に巻き込まれても困ります、僕は今年受験があるし」
「それよりも信じてくれるんだね」
「まあ、この力を見たら信じますよ」
「大抵の人は信じてくれなくて私のことを幻覚だと思い出すんだけど、君はやっぱり見込みがあるね」
僕の方を微笑みながら見つめるミトに少し照れてしまい、頬杖をつきながら眼をそらした。
「実は君にもメリットがあるんだ」
勝者は初詣での願い事が必ず叶う。
「じゃあ僕がお願いした大学合格も?」
「そう、君が目指している大学は東峰大学文学部でしょ? 前期日程は再来年の2月だし、このバトルロワイヤルで生き残れば合格もできるよ」
今の時点で東峰大学はE判定。
先生にも他の大学を志望校に、って勧められてるくらいだ。
「やるよ、そのゲーム」
僕は僕にあまり期待していない。
「おお!やる気になってくれたみたいで良かった」
だからこそ、僕にできることは何でも頑張ってみたい。
そう思った。
「それで、僕は何をして生き残ればいい」
「……まずは敵を知る所からだね」