トゥエラヴ
春といえば花見だが、ここ最近雨が続いている。
「雨やまないね」
「これだと花見は中止かな?」
校内で部活中の学生達が窓辺で話している。
それを聞いていた少年、環柘榴も憂鬱な気分なのか溜め息を吐く。
すると同じクラスにいる少女が、くすっと微笑した。
「竹脇、何で笑ってんだ?」
「ん?心配しなくても、明日は晴れるよ」
「何でそんなことが言えるんだよ?天気予報は明日も雨だって言ってたぜ」
柘榴の言う通り、明日は降水確率90%の雨が降る予定である。
晴れるハズがないし、晴れたとしても花は散ってしまう。
「大丈夫!!それと、花見の用意しておくように皆に言ってね」
そう言うと少女は、笑顔で教室を後にした。
残された柘榴はというと、大きな溜め息を吐いていた。
「とてもじゃないけど、無理!!」
翌日、少女はまだ誰も登校してない時間に学校へ現れた。
「さてさて、頑張りますか」
そう言うと少女はスカートのポケットから、文字が書かれた札を出す。
息を吹きかけ、札を宙に舞わすと、虎と兎が現れる。
二体を見て少女は、笑顔でお願いする。
「二人とも、お願いします!!」
すると虎が突然、空に向かって咆哮する。
鳴き声が響き渡ると雨が止み、晴れ間が出てくる。
「寅次の次は僕ね。えいっ!!」
兎はというと、花が散った桜の木に軽く触れる。
すると次々に、桜の花が咲き乱れ満開と化す。
「寅次、卯寿、ありがとう。助かった」
「トートの為なら頑張っちゃうよ!!」
「豊香、またいつでも呼んでくれ」
二体が消えた後、傘を閉じて欠伸をする豊香。
すると誰かの足音がする。
「誰ッ!?」
「竹脇、今の……」
「もしかして……見ちゃった?」
「うん」
柘榴の言葉に固まる豊香。
人がいない時間を狙ったハズなのに、見られていたとは思わなかったのだ。
「皆には内緒にしてね」
「それはいいけど、お前……魔法使いなのか?」
柘榴に言われ首を傾げる豊香。
微笑して柘榴の方を見直す。
「私、十二支使いの巫女なんだ。魔法使いじゃないよ」
「十二支使い?巫女って……ええっ!?」
豊香の言葉に喫驚して、後退りする柘榴。
まさか豊香が巫女だとは思っていなかったからだ。
そして何より驚いたのは、十二支使いという言葉である。
「さっきの虎と兎は……もしかして、十二支の……」
「そうだよ。ちゃんと名前もあるけどね」
「なんでも出来るのか?」
柘榴の質問に悩んだ表情をする豊香。
十二支使いはなんでも出来る訳ではない。
十二種類の五行に基づいた能力が使えるだけである。
「十二支の数しか力は使えないよ」
「そうか」
「ガッカリした?」
「いや、十二個も能力使えるって……逆に凄くね?」
そう柘榴に言われて、なんとなく納得する豊香。
確かに一人で十二種類の能力を使うとか、割りと凄いことではないだろうか。
「なんか、ありがとう。そう言ってくれる人、環くんが初めてかもね」
そう言って柘榴に笑顔を見せる。
すると暫くして、教師が何人か通勤してくる。
それに気が付いた豊香は、柘榴に手を振りこの場を去る。
「花見、楽しもうね」
「ーー、何だったんだ?一体。取り敢えず、皆に花見出来るって連絡するか」
そう言いながら携帯電話を取り出し、クラスメイト達にメールを送信する柘榴。
その後、花見は問題なく行われ、後から来た豊香も楽しんでいた。
花見が終わり皆が帰った後、片付けている最中に柘榴は豊香に話しかけた。
「内緒にするから……俺と、付き合ってほしい」
「え?それは……告白?」
「そうだな」
すると急に豊香の体が、眩しい光に包まれる。
光が収まると、男体化した豊香がその場にいる。
「え?竹……脇?」
「はぁ、とうとうこんな日が来たか」
「声低ぅ、胸無い……というか、竹脇だよね?」
そう言いながら豊香を指差す柘榴。
すると豊香は溜め息を吐いてから話し出す。
「そうだよ。私は異性に告白されたり、告白すると、男体化する呪いがかかってるからね」
「何で?」
「巫女で十二支に愛されているから、恋愛禁止らしいんだ。私は納得してないけど」
そう言うと、どこか憂いを帯びた表情をする豊香。
それを見て柘榴は、少しムスッとした表情になる。
「巫女でも、人を好きになったっていいじゃん」
「だよね!?恋くらい自由にしたっていいよね!?」
柘榴と意見が合い、ついつい声を張り上げる豊香。
誰かにそう言ってもらえるだけで、気持ちが楽になるからだ。
「いいけど、竹脇って女に戻れるのか?」
「うん。花を食べたら戻れるって聞いてる」
(花を……食べるってェ)