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僕と不思議な個性の街  作者: 東京駄々
9/12

外の街

 鎌爺の大切な本を見つけてから何日かが過ぎた。

 あれから、あの話題には触れないようにしている。何か気まずく感じるからだ。


 今日もあのおいしい朝ご飯を食べた。

 最近は本当に幸せな暮らしをしていると思う。自由というものがここまで良いものかと考えてしまう。


 だが、そんな思考とは裏腹に自由に(おび)える気持ちも日々増大している。


 こんなことをしている間に僕の人生は終わってしまうのではないか。大きなことを成し遂げて見せると決心した、あのときの心はどこへ行ってしまったのか。


 人は楽な方向に流されようとする生き物だ。僕は流れに逆らわなければならない。


 思い切って鎌爺に言ってみる。


「鎌爺。僕、外の街を見てみたいよ」


「そうか、前も言ったが俺はついていけねえぜ。行くなら一人だな」


 もとからそのつもりだ。


「わかってる。だけど壁を登るのだけは手伝って。戻りたくなったら、上から声をかけるから迎えに来てよ」


「それならお安い御用さ」



 朝食の後、鎌爺の背中に乗り、壁の上にある街に行った。

 鎌爺は、気を付けろよ、とだけ言い置いて降りて行った。後で迎えに来てもらう。


 まずは、散策だ。この街も拠点ぐらい大きいのだろう。全ての道を知るには二日ぐらいかかるはずだ。


 まずは、近くにある歩道を通って好きな方向に歩いてみることにした。


 前回登ってきたところは木に囲まれた公園だったけど、今日は道路だった。多分、拠点の入り口の真上が道路で、離れた場所にあの公園があるんだろう。左奥に木がたくさん生えているのが見えるから、あそこが公園か。


 公園と反対の方向に歩き始める。


 道路だけど、車とかが全く通らない。十分ほど歩いているが一度も出会わなかった。

 ここは田舎とかなのだろうか。それにしては、住居が多い気もするけど。


 カフェがあった。ここまで何人かすれ違ったけど、みんな僕のことをじろじろ見てくる。やっぱり珍しいのかもしれない。


 中に入る。中は思っていたよりも落ち着いた雰囲気で、老舗という感じがする。適当なテーブルに座っていると、後ろであ爺さんの声が聞こえた。注文を取りに来たらしい。


「初めての方ですね」


 声音ははっきりとしている。振り返ると…ゴキブリだった。


「ぎゃーーーー!!」


 僕はこれ以上ないほど口を大きく開いて叫ぶ。全身を気持ち悪さが駆け巡っていく。

 人間大のゴキブリである。驚かないほうがすごい。

 素早く立ち上がり、ゴキブリを目に入れないようにして走って店から立ち去った。



 時間はまだ昼過ぎであったが、僕は限界を感じ、拠点に帰った。

 何もしゃべらない僕に鎌爺は何かに襲われたのではと心配していた。

 思い出すのも嫌なので、まだ何が起こったかも話してあげられていない。





 カフェでは。


「私はあのような個性の方によく嫌われますね。三年前でしたか、似たような方も私を見た瞬間に走って逃げてしまった。悲しいのもです」


 ゴキブリの体を持った初老の人は逃げてく客を悲しい目で見ていた。


「まあまあ、そういう日もあります」


 新しく入ってきた客が初老の人に慰めの言葉をかけるのであった。

 まあ、その男は百足(ムカデ)の体をしていたが…。

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