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僕と不思議な個性の街  作者: 東京駄々
7/12

無くしもの探し

 住居の散策を切り上げ、シャワーを浴びた後、寝床に着くと、鎌爺がドアをノックしてきた。


「どうしたんだ?」


 眠くて少し不躾(ぶしつけ)になってしまった。


 ドアがそろりと開く。


「ちょいと無くし物をしてしまってな。もしかして見てないかと聞きに来たんだ。眠りの邪魔をして済まない、相棒」


 すまないと言われても、僕は勝手にここに住んでいるだけなのだ。それは、僕のセリフだと言いたくなる。


「別に構わないよ。どんな無くし物なんだ?」


 そう言いながら起き上がろうとすると、そのままでいいと言われ、もう一度布団に横になる。


 なにせ大事な本が無くなってしまったようなのだ。僕も精神がある程度成熟しているため、間違っても本(ごと)きなどと言ったりはしない。

 親の形見であったりもするからだ。


 今日の散策では見ていないと伝えると、明日は残りの部屋の散策がてら一緒に探して欲しいと言われた。

 当然、僕は了解する。


 その後、鎌爺は自分の部屋に帰っていった。





 次の日。鎌爺と出会ってからまだ二日である。

 一日が長く感じるということもあって、言い過ぎかもしれないが一ヶ月ほど過ごした気分だ。


 今日も見たことのない部屋を探してあちこち見て回っている。もちろん、大切な本も探している。

 ある部屋のタンスの中や、クローゼット。挙句の果てには便器の裏にも手を伸ばした。

 ここまで頑張った僕に拍手を送りたいぐらいだ。


 だが、僕と鎌爺の努力も(むな)しく、本らしきものすら出てこない。


 なんやかんやで昼になった。また、最初の部屋に戻ってくる。

 自転車が見えるこの部屋を、僕は勝手に第一の部屋と呼んでいる。アートのように入り組んで積まれた自転車の間から差し込む光が幻想的で好きだ。

 

 今からするのは昼餉(ひるげ)をかねた報告会だ。朝の内に集まろうと決めておいた。

 鎌爺は、そう簡単に見つからないとわかっていたのかもしれない。


「「いただきます」」


 今日の昼はヘルシーサラダだと言われた。いつもご飯は自分で作っているのか、今日も簡単なものだが準備してくれた。


 鎌爺の羽の隙間にチラシが半分ほど飛び出して入っているのが目に入った。

 大見出しで、『野菜いっぱい植物性プロテインいっぱいのベジタリアンサラダをランチにいかがですか?』なんてことが書いてある。チラシを参考に作ったのかもしれない。


 そんなサラダは、結構な出来だった。鎌爺の作る料理なら毎日サラダでも飽きないかもしれない。


 ちなみに鎌爺が最初に出会ったとき、ベジタリアンと云っていたが、あながち間違っていなかったらしい。毎日というわけではないが、野菜やパンを中心に食べており、肉も食べていないようだ。


 カマキリは肉食のイメージがあるが本当は違うのだろうか。いや、コオロギやバッタを主食で食べると聞いたことがある。

 まあ、人の顔を持っている鎌爺にカマキリの常識が当てはなるとも思えないが。


 サラダを食べ終わると、鎌爺は僕の分も皿を洗うと言って、皿を持って行ってしまった。

 お尻で力なく垂れているチラシが、どこか鎌爺の気持ちを表しているように思えて溜息(ためいき)が出た。




「見つけたぞ!!」


 鎌爺のうれしそうな声が聞こえてきたのはそれから数分後のことである。

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