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僕と不思議な個性の街  作者: 東京駄々
6/12

住居散策

 昨日は、散策の楽しみをとっておくために、わざと入口の部屋で寝た。


 地下であったが、温度は丁度良かった。簡素な絨毯(じゅうたん)が敷いてあったが、それでは体が休まらないだろうと、布団も鎌爺が持ってきてくれた。

 随分(ずいぶん)我儘(わがまま)に付き合わせてしまったようだった。


「よく寝れたか?相棒」


「うん、おかげで元気になった」


 昨日はショッキングな出来事が多くあった。もちろん現在進行形ではあるのだが、もう受け入れるつもりでいる。

 別に前の場所に未練はないのだ。


 昨日の夜、朝に寝ぼけまなこで鎌爺を見て、失神したりしたらどうしようとか考えていたのだが、心配はいらなかったようだ。今の僕が証拠。


「鎌爺。今日は家の案内をよろしく頼むよ」


「ああ、任せてくれ。だが、その前に…朝飯だ!」


「おお!!」


 鎌爺は背中に隠していた手には、右にパンと、左にはちみつが乗せられている。


 鎌爺の手は鎌であるが、どうやって傷をつけずに持てるのか疑問に思う。

 聞いたみると、「生まれてからこの手だからな。慣れたわ」と言った。


 前の頃の僕は、朝食なんてほとんどないも同然であった。

 適当なパンを掴んで、味わいもせずに食いながら外に出る。急いでいる日は、水に漬けて食ったりもしていた。だが、これはマネしないほうがいい。本当にまずいのだ。


 というわけで、パンとはちみつという二つに、自由に食べれる時間が付いてくるだけでも僕にとっては最高の朝ご飯なのだ。

 

「いただきます」


 舌でとろけるはちみつがうまい。前にここまでおいしいはちみつを食べたことがあっただろうか。

 パンも、もちもちふわふわしていて、カリッと焼くのが好きな僕でも、こちらにはまってしまいそうになるほどうまい。


「はまひぃあほほでひいえ…」


「食ってから話せ!きたねえぞ」


 パンを口、いっぱいいっぱいに詰めたまま話そうとする僕に鎌爺しかめっ面になる。


 仕方なく、ゴクリと飲み込む。


「鎌爺はこんなにうまい飯をどこで仕入れてるんだ?」


「ああ、そんなことか。家巡りの後に教えてやろう。時間は十分にある」


 本当は今すぐにでも知りたかったのだが、ここでの主は鎌爺なので従うことにする。

 そうだ、今の僕には時間が十分にあるのだ。ゆっくり物事を進めていけばいい。


 朝ご飯が食べ終わると、行くかと鎌爺が起き上がる。

 早速出発するようだ。


 鎌爺の拠点は、本当に街一つ分の大きさがあることがわかった。

 今日は一日中、部屋を練り歩いたが、まだ半分も見れてないという。


 通路も多いが部屋の数が半端じゃない。ほとんどの部屋は、簡素な荷物が置かれているだけで、誰も使っていないようだった。よくここまでの家具を集めたものだ。

 まだコンクリートが()き出しになっている部屋もあったが、ほとんどの部屋は、壁紙などで隠されていた。


 鎌爺の拠点には本人以外、誰も住んでいなかった。寂しくないのかと思ってしまう。いや、寂しかったから死のうと思ったのだろうか。


「俺の部屋はここだ」


 扉は他と変わらぬ簡素な木のドアである。あけると埃っぽい匂いとともに酒の匂いがうねるように溢れてくる。死のうとしている人の部屋はこうなってしまうのだろうか。

 鎌爺は大丈夫なようだったが、僕は埃で目を開けられず、中を見ることはできなかった。


 今日見た部屋の中で一番気に入った部屋で寝ることにした。本当にのんびりとした一日であった。

 明日も拠点の探検をしようと思う。


 僕の部屋には大きなキングサイズのベッドがある。ベッドが部屋を気に入った理由だった。

 寝床に入ると、ドアがコンコンと叩かれる。


「すまねえ、話がある」


 鎌爺であった。


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