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僕と不思議な個性の街  作者: 東京駄々
5/12

拠点

 そろそろ下に降りようということになった。

 鎌爺の背中に乗る。


 行くぞと鎌爺言い、出発した。帰りも鎌爺が壁を伝って下まで降りてくれる。


「ねえ、鎌爺。鎌爺の家は大きいの?」


 爺と呼んではいるが、鎌爺の歳はそこまでいっていない。普通に若い部類に入るだろう。

 そう呼んでいるのはただの気分だった。 


 でも、こうして文字だけ見ると、孫が爺に対して質問しているように見えなくもない。

 僕の歳もそこまでお子様ではない。


「そうだな。大きい方だと思うぞ。直接作ったものだからな」


 鎌爺の家は、この辺りで暮らしている人の中では普通に大きい方の部類に入るという。

 あの路地裏みたいな場所のどこにそんな広さの空間があるのかと思うが、あるというのだから信じるしかない。


 あーだこーだ話していると、僕の目が覚めたときにいた、自転車のところに到着した。


「よいしょっと」


 ぴょんと足を壁から離して着地する。これまた、お爺さんのような声を上げる鎌爺である。


「ここが鎌爺の家?どこにもないけど。もしかして、この路地裏が俺の家だ、あーはっはっは、とかって言わなよね?」


「当然だ、相棒。ここの自転車をっと……できた」


 ガラガラガラガラ、カキン、っと音が響く。


 鎌爺が上の方にある自転車のサドルをくるっと回すと、どこでなっているのか大きな音が鳴った。

 この自転車の山の奥に家があるようだ。


「ついてこい」


 ついてこいと言われても。未だ目の前は、自転車の山。どうやって入るのだろうか。


 鎌爺は目の前の自転車の塊を横に引く。すると、すーと自転車の山が動くではないか。

 そこにできた隙間に鎌爺は入っていく。

 鎌をぶんぶん振ってくる。入って来いという意味だろう。


 中に入ると、なかなか広い空間に出た。暗いが二人で暮らすのに広さは十分にある。

 鎌爺は僕の後ろに回って、自転車の山を元の位置に戻し、カキンと鍵のようなものをする。


「どうだ、俺の家は」


「広いって言ってたけど、そこまでだね。部屋も一つだし、この辺りで一番って程には見えないよ」


 正直、この広さでも感嘆していたが皮肉を言ってみた。言いたかっただけだ。

 それに、この広さではもっと広い家も見つかりそうなもんだ。


「見くびってもらっちゃあ困るぜ相棒」


 鎌爺はそう言うと、壁に手を当てる。カチッという音とともに電気がつく。


 こんなところでも電気がつくんだなと思いながら周りを見渡した僕は、固まってしまった。


 部屋の自転車のない方向、三方向に扉が合計六つほどついているのだ。


「これで、終わりじゃないぜ」


 鎌爺は、一つの扉を開けて見せる。その扉の奥は通路になっており、奥にもまた扉が見える。


「後でじっくり見やがれ。俺の家は一日じゃ回れないからな」


 一日じゃ回り切れないほど大きな家。とんでもない。


「俺の家はな、この辺り全部の地下だ」


 そんな家は聞いたことがない。どんな大富豪も街の下に街と同じ大きさの家を持つことはできないだろう。

 僕はとんでもない人に出会ったしまったようだ。


 あんぐりと口を開けたまま動かない僕に向かって、鎌爺の口がニヤリと笑う。してやったりということだろう。


 今日は、このまま寝るとして、明日から拠点の探検が始まるのであった。

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